#040 ━暗喩━
「ちょっとこれやってみようよ」
迷うふりをしながら躊躇しているとニオが誘ってきた。
(やってみようよ……?)
(そんなゲームセンターみたいな感覚で大丈夫なの?)
ニオが僕の腕を持ち手元の真っ黒な謎の作品に無理やり触れさせられた。
二、三秒後目の前が暗転。そして体が照らされる。
「なんだこれ! え! えぇ!?」
僕は突然全身を吊るされた。
両手足と首をやたらに光っている枷鎖に括られた。
続けてニオも同じように吊るされながら運ばれて来た。
そして僕たちを包み込むように大穴が現れる。
そして……
「ピシッ、ピシッ」
僕たちの枷が一つずつ壊れていく……
「あああああ!死ぬ!死ぬって!」
「……」
「ニオ!?なんでなにも言わないの?」
枷が無くなり、ぶら下がる手足に焦る声がトンネルの中のように反響する。
「ピシッ」
最後の枷が壊れた。
「ちょっ、あっ。」
僕とニオは闇に吸い込まれるように落ちていった。何処までも。何処までも。ものすごい風切り音。どれだけ足掻いても無駄という言葉に収束してしまう。どうすることも出来ないまま落ちるしかない……
「きゃぁぁぁぁあ!!」
僕は声を出す気力も無かった。
ニオの劈く興奮した声が段々と遠くなり、気を失いそうになる。
……
(え?長い、長くない?)
「何時まで落ちれば良いんですか?おーい?」
ずっと同じ景色。さっきもここを通ったのではなかろうか?
「わかんなーい!ははは!」
(わぁ、すごい笑顔。)
(マトモじゃないねぇ。クレイジーだ。)
そしていつの間にか元の場所に戻って来た。
(やっと終わった?生きてる?本当に恐ろしい。どうかしている。)
テレビとかで見る絶叫アトラクションとか絶対大袈裟だろうと抜かしきっていた僕だったが、この一件でもうその類いには関わらないと心に誓った。大変申し訳ありませんでした。
ノロールム人の恐怖心というか精神が怖い。ニオが特殊なだけか?
「次これやろうよぉ」
(早いよニオさん。ちょっと休ませろください。)
「さっきの……全然平気だった?」
「へ? 楽しかったけれど?」
「僕は二度とこんな体験御免だね……」
「そんなこと言わないの。ほら、次は君が選んでいいから。」
あのときのノーザの言葉を思い出す。
横断歩道に対して、
「それってなんでこの示し方に決定したのですか?」
ってやつだ。
「選ぶ前に一つだけ……」
「何ぃ?」
「……え、と、ここは暇つぶしのためだけの空間なの?それとも何か他の目的のために生まれたの?」
「あぁあ、どうなんだろ?ねぇ、アーズロイ」
「はい、自我アーズロイ。なんでしょう?」
返事をしながら僕とニオの間に割り込んできた。
「あのさ、この空間ってどんな目的で作られたの?」
そう言いながらニオはアーズロイを両手で掴み持ち上げた。
「平たく言うと、この空間は"AIに仮想空間を作らせるとどうなるのか?"という実験で誕生した空間が元です。それを少しだけ改良して人類のために一般公開されたと思って頂いて良いのです。」
ニオに上下に揺らされながらアーズロイは意に介さず答えてくれた。
「へぇ。」
(そっか、そういえばAIが作った。みたいなこと言ってたな。そう考えると他の作品も体験してAIの感性を考察してみたい……少し興味が出てきたかも?)
「自我もそこまでしか検索できないのです。うぐっ。もっと知りたければ主人が来たら詳しく訊いてみるといいのです。」
喋っている途中で手を離されたアーズロイ。可哀想に。
「……あぁ、わかった。」
「では、また楽しんでほしいのです。」
(まだ楽しめた覚えはない。)
その台詞を言い終えるとアーズロイはどこかへ離れていった。
アーズロイはどうしてそんな姿なの?……とか聞きたかったのに。
「何か気になってるのある?」
ニオはどうやら調子に乗り始めたようだ。厄介。
「これとか?」
「じゃあ、や──」
「待って、今度はちゃんと説明を読ませてよ!」
「しょうがないなぁ。まぁ好きに選びなよ、後悔しても知らんのだからな。」
(後悔などしてたまるか。)




