#039 ━展示━
「主人が来るまでの時間潰しにこっちへ来るのです。いずれにしても人間は待機が苦痛でしょう。」
「それは……助かる……けど」
(待機が苦痛でしょう。だって。そうやって全ての生命体の当たり前を改めて教えてくれてありがとう。)
「そうでしょうそうでしょう。ああ、それと自我の名前は「アーズロイ」です。呼べば自我のと認識できるので返事を返します。」
「アーズロイ!アーズロイ?アーズロイ!」
ニオがアーズロイを指差しながら連呼している。その光景のおかげで僕はもう覚えられた。
(アーズロイ……)
「では早速ですが付いてきてください、案内します。」
僕たちはアーズロイの小さく丸い背中を観察しながら泳ぐように付いて行った。
もしもアーズロイをペットにするなら何と名付けようか……とかご立派に余計な事を考えながら。
移動が長引きそうなので質問を投じる。
「えっと、ニオはさっきの布やこの空間に馴染みがあるのか?」
「まぁ、そうだね。毎日来てたし……布はトランス・コネクターって言って、被るとこんな風に仮想空間へ来れるんだよ」
「厳密には行っているように見せている高性能な錯覚なのです。ここに来るのが初めてなのでしたら限りなく現実に近い現実とは別の空間だと思って構わないのです。」
「これが現実に近い?どう見ても現実らしからぬ光景だけど」
「仮象的な話じゃなくてあなたとこの世界の関係の話なのです。」
「へぇ、てことは現実とここは空間以外に何が違うんだ?」
「有名な定義に誘導されてるじゃん。」
「現実との大きな違い、そして仮想空間の定義は簡単に言うと死が無いということなのです。もっと言うとこっちには兵器も病気も痛みも無いのです。まさにユートピアなのです。」
(へぇ。)
「殴っても?」
「痛くないはずなのです。」
「おりゃ!」
(あぁ確かに、当たってる感じはあるけど痛くない気がする。)
「地球人からすると魔法のようでしょうけれど、これは地球人達でもこれから十分実現可能な技術なのです」
(そうなのか。)
……
「はい。ここです。ここで時間を存分に使い潰してください。」
「あー、ここかぁ。懐かしいなぁ」
いつの間に景色が変わっている。
アーズロイに連れていかれた場所は何と言い表せばいいか……美術館のような場所だった。
(飾られているよく分からない物は美術品?)
「ここはAIたちの作品展示場です。気になったモノにとにかく触れるといいのです。」
壁、床、天井、装飾、どこを見ても奇抜か、奇妙か、奇天烈。
色んな体験をしてきたけれど、ここに来てもまだ心を擽りまわす新鮮さを味わえるのか。夢だとしても意地悪な不思議だ。
これが向こうの芸術ってやつなのだろうか?
意味が分かるところが酷く少ない。
というより、恐らく僕の感性が追いついていないし、表現をするために今の地球では未発達の語彙が必要なのかもしれない。
(あと、これに対してニオが「懐かしい」と呟いたのを聞き逃さなかったぞ。僕は。)
このカオスでファンシーな空間に酔いそうになりながらもそれぞれ作品に目を向けてみる。
(ひょえぇ。)
壁の絵画が動いていたり、台座に不可能物体や騙し絵のような色々な物が浮いていたり、人体模型があったりする。ご丁寧に作品を囲むようにそれの作品名がホログラムの輪っかで表示されているが、統一感も無ければ、モチーフが分からない物もある。こんなところで本当に暇は潰せるのだろうか?




