#037 ━空白━
ニオは今の僕らの物憂げな気持ちから逸らすように、先生たちに被されていた布を摘んで振りながら話題をくれた。突拍子もない。
「なんだろう?わかんないや。」
(この布はニオにも馴染みのある代物なのか?)
「あー、やっぱり説明するの面倒だな……体験した方が早いから……被ってよ。」
「ちょっ……」
ニオに言われるがままに僕は先生に被せられていた布を被せられた。
「目を閉じて、ここに手を通して……」
「こう?」
「はい、深呼吸。心を落ち着かせて。何も考えずにリラックス……吸ってー」
「すぅー」
「吐いてー」
「はぁー」
「吸ってー」
「すぅー」
「吐いてー」
「はぁー」
「よくできましたー。はい、今から君は何者でもない、なーんにも覚えていない、まっさらな平原をイメージして……力を抜いて羽ばたいてみよう。はい、バサバサァ——」
(どうした?もしかして催眠術かけようとしてない?)
「そして今!目ぇ開けて!さぁ!」
「はっ、はいゃ!」
目を開けるとそこには真っ白な世界が広がっていた。
「え、白い。」
呟いた言葉は感じたことをそのまま出力しただけ。
僕の体が白くて広い世界にぽつんと宙に浮いている。地面も壁も無いが他にも何か色のついた物体がちらほらと浮いているのが見える。
「ちょ、ニオいる!?怖いんだけど、この空間何!?」
「あー、ちょっと待って今行くから。そこら辺泳いでおいて。」
いないはずのニオの声が耳元で聞こえてきた。
(泳いでおいて……って)
(これは現実??)
手や足をバタつかせ、水も無いのに泳ごうとしてみる。この場のことが分からない。目を瞑ったまま歩いている時のような怖さだ。
「こ、こうかな?」
景色がゆっくり動くのがわかる。多分こういうことだろう。上下左右前後、向きを変えて泳げるが……とりあえず近くの浮いている物体に向かってひたすらまっすぐ進んでみる。
……。
近づいてみると青い立方体だった。
(なんこれ。)
僕はそれについて触れてみると光り、やがて消えていった。
程なくして近くに似たような物体が現れた。
青緑色、紫色の多面体達。
(上手く言い表せない。もっと立体について学んでおけば良かった。)
そしてそれに触ると消えて、また現れて……
の繰り返し。
(なんだろう、この状況。)
この空間の意味を考えながらやってるけどさっぱり分からない。
「おーい。」
声のする方へ振り向くとそこにはニオ——がいた。
「ようやく来たかぁ」
「ごめん遅れて。」
「よし、ここは一体何なのか教えてもらおうか」
「難しいな、ここは人工現実を含む色んな仮想空間……に繋げるためのパスワード入力をする空間……って言ったら良いのかな?」
「仮想空間、パスワード……」
(この空間は夢の中みたいだけれど自分の動作や認識は完全に現実だなぁ。訳が分からない。)
「そうそう、この浮いてるやつに触ったらまた別のオブジェクトが出てきたでしょ?」
「おお。」
「これ自体がパスワードになっていて触れた順番が正解だと何かしらの仮想空間に連れてかれるってワケ……なんだけど」
「あぁ、そうなのか。結構めちゃくちゃにしちゃったな。」
「えー。まぁしゃーないか。」
「ところでさっきから君の隣にいるちっこいのは何?」
「ん?」
ニオが振り向き、背後から顔を出していた小さい何らかと顔を合わせる。
……




