#036 ━頼り━
どちらも望まなかった私は進んでみないとわからない。
一体、何人の生徒を見守ってきたのだろうか。
どんな念いで生徒を見送ってきたのだろうか。
考えられない。
最後の生徒たちに地球にある国の存在も戦争の存在も事前に伝えていない。
そして、私が知るはずじゃなかったこの歴史を伝えることは出来ない。
この星にも教えるということを仕事にしている人が居る。
熱意を持っている人が居る。
教師不足なことも知っている。
どれだけ大変なのかがわかる。
見送れた生徒たちは未来の宝物だと信じていた。
私には荷が重かったんだ。ごめんなさい。ごめんなさい。何をしていいのかわからないんだ。
もう二度と出会えないのか。生徒たちの顔を見れないのか。本当の歴史を教えたかった。
こんな形で真実を知るなんて、突き放されたようだ。なんて馬鹿らしいんだろう。こんなことになるなら……なんて何度も考えた。信じられなかった。感情にもデータにもこの社会にも揺さぶられ続けて何年も生きてきたけれど、全てがくだらなく感じるほど落ち込んだのは初めてだった。もう疲れた。だめだ。休ませてくれ。
ノートの裏表紙にも文章は続いていた。
もうすぐ時間だ。怖くないかと聞かれたら勿論怖い。誰も体験したことの無い恐怖だ。自分が自分で無くなる。生まれ変わってしまうのだから。
最後に、私は残したかった物を書き記すことが出来た。
この惑星の真の歴史をどんな形でもこの星に刻んでくれるならそれは本望。だが現実は儚いだろう。そしてそれを後世に、出来るだけ多くの人類に知ってもらいたかった。それがこの私、今日まで教員だったアロン・ドリフォロが成し遂げたかった夢だ。
これより先に文字は無かった。
紳士はここで書き終えたようだ。
込められた一冊を読み終えた今、先生の姿は哀愁を帯びているように見える。
対して僕の胸は熱を帯びて、奥の方の微かな脈動は一層激しくなり、鈍痛が響き渡る。
ただそれでいて、ぽっかりとした奈落のような黒い穴が空いたようにも感じた。
……ここに書き残されたことは嘘間違いだとは思えない。先生の日記に書かれていた内容は僕らが経験したことと符号していたからだ。
まるで映画を見ているようだった——
だけれど実際に僕の前で起きてきた連なる事象がこの続きを物語っている。
(嘘だと思いたいよ。誰か嘘だと言ってくれ……はぁ。)
「ねぇ、これ本当のことだと思う?」
「わかんない……恐らく本当の話なんだろうけれど本当のことであってほしくないな。」
ノートを見つめることしか出来ない。
「……」
ニオは鞄から何かを取り出した。
「それ、どうするの?」
「確かめたいから。本心を。」
取り出したのは自己紹介でお世話になったあの機材だった。
ニオはアロン先生の額に水晶を近づける。
暫く俯いたまま何も言ってくれなかった。
その後、顔を上げて投げやりなため息。
「……はぁ。」
……その漏れ出た声を最後に随分と会話は途切れていた。
辺りを見回しても、放心しても現実は現実のままだった。
彼は運良く、伝えたいことを伝えることが出来た。
僕とニオの二人に。それすら知れないまま、すぐ目の前で静かに止まっている。
「ついこの間まで私達に授業をしてくれてて…真面目で優しくて…何で…」
思いを託されたこの一冊のノートから、豊作のように知れたことはあるが、この【八時二十分で止まっている物語】に対する解決策は未だ見当たらない。僕が元の世界に戻るには……
手探りのまま今は進むしかないのかな——
そう信じるとニオに話しかけていた。
「どうにかして残そうと、伝えようと、してくれたんだな。」
「許せない、許せないよね。」
そう言いながら見せたニオの引き攣った笑顔が僕の胸に突き刺さった。
(この言葉を掛けなかったら、ニオのこの表情は見れなかったのかな。)
何故僕は今こんな事を考えたんだろう。
「そう言えばキミこの布何に使うか知らないでしょ?」
「え、これ?」




