#035 ━願い━
我々がここへ来ることが出来たのは“トリアンドルス”と呼ばれる転移装置に乗り込み、惑星ラノハクトから地球へと、果てしない距離を瞬時に移動したからだ。
(大量の人々を一度に瞬間移動させることを容易くこなす技術力……やっぱり凄いよなぁ。)
ラノハクトが地球を侵略するにあたって、私がここで見つけた資料の一つ「地球都市計画シミュレーション」より書き進めていく。それによると、
新たな住民、皆が暮らしやすく管理と生活にとことん都合の良いように計算され尽くした構造にする為に、これまで地球を形作ってきた地球上にある住居や施設など構造物全てを破壊する必要があった。そこで“トリアンドルス”に加えて“ジオ・パラシトス”という、巨大で大量に増殖した解体マシンが使われる。
主な役割は、事前にトリアンドルスによって地球のありとあらゆる構造物を溶かして出来た残骸を、自らのエネルギーと建築の資材として利用し、新たな構造物を形作るものだ。これらはラノハクトが最も注力し、緻密かつ壮大に計画したものだった。
「あぁ……ひどいもんだよ、本当にあれには苦しめられたんだから。最高に不愉快な感触だった。まだ所々服にヘドロが付いているし。」
「計画の範囲内だったの?本当に最悪。」
ここから先の文章には憶測や感情が含まれている。急ぎながらかいつまんで説明しているので未確定や不十分な部分もあるだろう。許して欲しい。
今私は命令されるがままに従うしかない。上層部の力とトリアンドルスによる人間の記憶の改竄技術により、生きていた証拠も揉み消すのは容易い筈だ。背いた瞬間、気づかれた瞬間に私の記憶、はたまた命さえ危うい状態になってしまう。
もうすでに私の記憶から消された仲間がいるかも知れないと思うと考えることさえ辛くなる。確認する術すらないのだ。
考えすぎなのだろうか。
どこまでが現実でどこからが妄想なのか。
そして私たちがここにいる理由を綴ろう。それは命令に従いここトリアンドルスの制御室から収集された地球人のデータの確認と、ジオ・パラシトスが姿を現して動き出すまでの制御、動作確認等の調整を任された為だ。自由ではない。他の先生方も何をしているのかわからないまま言われた通りに、生徒たちを思って、異常が無いか見続ける作業をしているのだろうか?
(うわぁ難しい立場だ。)
最後の情報として、このトリアンドルスのどこかには“コア水槽”と呼ばれるものが二つ一組で設けられている。文字通りここの中枢、心臓の役割を担う存在だ。
一つは“大データ水槽”と呼ばれている、計画のデータを管理している巨大な水槽、もう一つは“投影ボトル”という抱えることのできるような小さなボトルである。これら二つを合わせて“コア水槽”と呼ぶらしい。
ラノハクトの“見えない独裁”について、我々にも元々は地球のように様々な国があったのではないかと、星を覆うほどの規模で人々の記憶を改竄できるということは——悲しいことに文化や政治体制、そして国を丸ごと滅ぼすことが出来るということだ。
(どうしようもなく怖い。もう僕は他人事ではないところにまで来てしまっているのか……。)
「知らないうちに記憶を改竄だもんな……その時の都合によっては、書いてある通り、色々なことをされてそう……」
「実は私も知らない内にされているのかな……」
か細い声が聞こえた時、ニオの顔を見ることは出来なかった。
私のここまでの記憶は何も出来なかった私によって、もうすぐここで幕を閉じてしまうのだろう。
五十年の凍結を経た後、私は地球に住む異星の民として偽りの記憶を植え付けられ、何の疑問も持たず地球人と交流し、惑星の架け橋の一部となる。
操り人形のように生活しながら幸せを感じ、幸せに振る舞う。
私に勇気があれば歴史が変わる兆しが僅かながら、雲を掴む程度はあったのかも知れない。
この行いに悔いが残ったのか、それで良かったのか、改竄されて確かめることが出来ない。




