#034 ━計画━
実は三種の知的生命が発見されるより前に、少人数のノロールム人が昔の不確定なデータを頼りに十の星々へ実際に出向いており、その時にはすでに唯一の生存が確認できていたらしく、そこで声を上げずに水面下で交流を図ったものの、失敗に終わっていたとされている。
二度目となる今回の調査は惑星全体を巻き込み大規模に、彼らの記憶を改竄し星ごと我々の仲間にするらしい。
「えっ……」
その星の名は【地球】。授業の調査対象である星、もとい、この計画の舞台だった。
「地球人の起源、正体ってことか。」
「つ、辻褄は合ってるけど……これが……まさか……。」
(この一冊のノートに出会わなかったら……僕らはこの事を知らないまま地獄を彷徨ってたのだろうか。)
ニオは額角が垂れ、汗も滴りかけていた。
私がその歴史を知ったのは計画の全貌が膨らんでいき、ラノハクトの上層部と教師らとで打ち合わせをした後、確証を得たのは実際に地球へ着き、この内部で資料を見た後だった。
私が気づいた時にはもう手遅れでどうすることもできなかった。
この計画は表向きでは地球の時間を“圧延”し、フィールドワークを行うという目的で予定されていた。
その調査の為だけに地球の“五秒間を五十年間”に引き延ばす——
そんな不自然さにもっと早く気づいていれば、まだ何らかの手立てはあったのかも知れない。疑えなかった、抗えなかった自分が悪い。
その圧延によって私の生徒を含む犠牲者は気づく事など無いまま凍結し、記憶を操作され、この後生まれ変わった地球で生活するのだ。
泣き喚いたり、抵抗したりする隙なんてない。
術を与えられていない。
その方が幸せなのだろうか。
私にはわからない。
簡潔にまとめるとラノハクトの真の目的は“トリアンドルス”によって生み出された五十年の間に地球上全ての人工物を、“ジオ・パラシトス”と呼ばれるあのマシンによって解体し、新たに我々の文化を混ぜ込んだ都合の良い街並みを作り上げ、資源と地球人ごと地球全土を乗っ取ることだ。
つまり、圧延は調査の為などでは無い。我々にも地球人にも反発させず、気付かせないための大掛かりな「仕掛け」である。
現地調査に出向いた我々のデータを装置に取り込み、時間圧延の効果範囲を地球人だけでなく、調査員、教員、生徒にまで広げ、同じように動きを止め、仕上げに我々と地球人に元からこの星で生活してきたという偽りの記憶を注ぎ込む。
そうして完全犯罪のように地球への侵略は完了し、植民地へと。
地球人は惑星ラノハクトの新たな仲間として加わるのだ。
どうしてこうなったのだろう。
「そんな……」
「今まで体験したことと符号してる。それで何故か僕たちは圧延されずにそれに巻き込まれた訳か。……なんでだろうね。」
(それにしてもよく練られた侵略計画だなぁ。)
果たしてこのままでいいのだろうか。
もう私はこれ以上の犠牲者が増えるのを見たくない。が、私にはどうすることもできない。このまま、記憶を改竄されて元から地球に住んでいたことになるだろう。私が決断したところで、足掻いたところで何か変わるはずもあるまい。
ただただ知ってしまった情報の荷が重すぎたのだ。
見て見ぬふりをしたい。
もっと良い誰かに任せたい。
全部嘘であって欲しい。
心の底からそう思う。
「……そもそもこの星って向こうが大規模で緻密な計画を企てる程の存在なのか?ラノハクトの科学力は凄いんだろうけれど、遠い星に時間もお金もふんだんに使っていいのか?」
「……遠いっていうのはあんまり問題じゃないと思う。現に私たちは気づいたらここに着いていたし、不都合を隠す時や技術、機能、生命の分散の為にも……。宇宙はいつ何が起こるか分からないから。」
(なるほど、植民地や居住地としてみたら、そのくらいの価値は確かにあるのかも知れないけれど……かなりの力の入りっぷりだ。)




