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うつうつつ【完結済】  作者: 混漠波
32/64

#032 ━脈絡━

その言葉は丸々一ページにわたり、大きく、濃く、押し付けるような力強い筆圧で記されており、さらに上から掻き消す様にその言葉は抹消されていた。

 

「うーん、この人何だか思い詰めてそうだね。結構な期間、後悔とか絶望とかそういう類いを抱え込んでたんだろうな」

(僕にもそういうのあるから……)

「えっと……」

 

ニオは引き攣った表情で次のページに指をかける。

彼女にとってこんなにあからさまな先生の私的で正直な気持ちは見たいような見たくないような、そんな感じなのだろう。


 

いつからか私はそう思うようになっていった。

私は私が正気を保つために、知り得た全てを、今も尚、続いている我々ノロールム人による過ちの物語を、このノートに手記として少しずつ書き記すことにした。そしてそれは誰にも悟られないよう、データにせず、手書きに留めておく。

これはただの憂さ晴らしと精神安定のためのどうしようもない戯言に他ならない。

そして、もしもの話だが、この手記を何らかの手段で私以外の仲間、心優しき誰かが見ているのなら、誰でもいい——


……この世界をどうにかして救ってほしい。

こんなのはどうせ叶わぬ願いなのだろうが。

 

そんな願いも秘めながら私が見た光景を思いと共にこの一冊に綴っていく。よろしく。

 


直筆の勢いに任せたような走り書きで記されている。

僕は何でもいいので情報を得たい気持ちが逸り、人のノートを勝手に読んでいるという感覚は薄かった。

 

「?……ちょっと今混乱してる。先生、いつもはそんな素振り一切無かったのに。」

「これは慎重に読み進める必要があるな……」

 

ニオの声は上擦っていた。

(大丈夫かな?……ニオのトラウマにならなければいいけど。)

 


事の始まりは一年以上前のある日、私ら教員全員が「特別召集会議」という、いつに無い名目で集められ、学校側からとある提案をされた。端的に表すと“知的生命たちが暮らしているのが確定的な星の調査を生徒たちとしてみないか”というものだった。勿論、私を含めて反対する者は誰一人居なかった。

この時は常日頃から座りっぱなしで退屈そうな生徒たちの新たな学びにも息抜きにもなればと、良い機会だと考えて大賛成であった。……あんな計画を知るまでは。

 


「……ほぉ?」

「この調査のことだ……!」

(早く知りたい。この先に僕らが今までに駆け抜けてきた非日常な出来事の真相が綴られているかもしれない。)

 


元々我々の住んでいた星は、私を含むノロールム人という種族のみがそこで暮らしていた。四つの種族が互いに暮らす星になる前にだ。

……最もその事ですら、私は教える立場になってから知った事だが。

 

当時の我々は技術力を高めていく中で、大量の資源と危険性のない労働力を欲するようになった。

それは、まだ健在だった“高度な人工知能の危険性”が世に知れ渡る事、そして惑星に存在するとされていた“資源量の虚偽”が暴かれ、瞬く間に知れ渡った事を引き金に世論が形成され、宇宙探索へ莫大な予算を注ぎ込めるようになり、宇宙への関心に驚異的な加速を生み出した。

 

一度話は飛ぶが、とあることが異種族交流の直後に判明する。「額角」と呼ばれる額から突き出た一対の部位により、我々は言葉にせずとも相手の感情がぼんやりと読み取れる稀有な能力を持ち合わせているということだ。

我々は彼らに出会うまでそれをコミュニケーションのシグナルとして当たり前だと思い込んで享受していたらしい。

それが可能である故のメリットも豊富にあるのだが、科学技術の賑やかしい発達によりコミュニケーションでの多大なストレスが付き纏うことが圧倒的に邪魔な要素として問題視され、そのようなストレスが排除された労働の世界を望むようになる。

 

このような露骨な体の作りの作りの違いがあるのにも関わらず、ノロールム人類のストレス受容と許容量は他の種族と然程変わらない数値に収まっていたのだ。

そんな社会問題を連れ歩く中、一つの光が差し込む。昔のノロールム人が秘密裏に進めていた計画の一つ、感情の伝達が出来ないよう、人工的に額角の欠如した知的生命体を我々の遺伝子を基盤に作り上げることに成功した。

 

             【奴隷】の誕生である。

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