#031 ━伝言━
どうやら僕たちは幸か不幸か“トリアンドルス”の内部に迷い込んだ……らしい。
心の準備も理解も追いついていない。それはニオもだろう。
先のマシンとは規模は違えど作りはどことなく似ている気がする。
暫く気が狂う高さからの絶景を堪能し、名前も知らない街が波に飲まれるように溶けて行く瞬間を天空から目撃してしまった。怒りや恐怖なんてものが芽生える前に言葉を失い、血の気が引き、上手く手足に力が入らなかった。
見て見ぬふりをするように視界を下へ滑らすと、正面の窓から左右に、波打つような形状の妙な柵が僕らを囲うように設置されていることに気づいた。
柵に手をかけ、恐る恐る隙間から覗くと何やら下の階へと続く道があるようだ……奥に何かがちらりと見える。
(——異星人か? こんなところにも?)
「あれっ、もしかして……!?」
ニオが走り出し、僕はそちらへついて行こうとする。
(ここから降りれるか?)
柵の奥、ぬるりと動いていた螺旋状の道を下ると、何人もの異星人が上半身をすっぽりと覆うような布を被せられた状態で座り、案の定止まっていた。
(怖いな。えーっと、なんだここ……?)
奇妙な光景に怯える僕。こんなのばかりである。
対してニオは何かに気づき、向かった先の被さった布を捲る。
「間違いない……この人は私らのクラスの先生だよ……」
「……あらー、そうなのか。」
なんというかもう、感覚が麻痺している人間の反応である。
上手く驚けなかった自分に驚く。
(ん?だとしたら、なんでこんなところに?)
「他にも先生たちが……」
浮かんだ輪に座り右腕はテーブルにのしかかる。頬杖からずり落ち、顔は下を向いていてその表情はよく分からないが、固まっていることは分かる。
お世辞でもいい姿勢とは言えない……そんな風に動かない先生の姿があった。
ただ、そこに置かれていたように。
彼の姿はさながらダイイングメッセージを書き終えて息絶えた被害者かの様だ。
その肌は不気味なほどに真っ青ではあるが、その身体的特徴より彼はニオと同じ種族なのだと見てとれる。
この室内には僕とニオと先生の他に三十〜四十人程度の人達が集まり布を被せられていたが、中でもニオが気づいた先生の佇まいと体色はあからさまに異質で際立っていた。今までの状況を知らなければこの様子は事件現場にしか見えない。
「んぁ?」
苦しそうな表情をした先生の目線の先、何かを握っていたはずの手元……その真下。
布に隠れて見えなかったが、変な形の大きなテーブルの傾きのある天板の麓に、古そうな細長いペンとどうやら紙でできている年代物のノートが寄りかかっている。気になった物の正体は意外だった。
(これまで体験してきたことに比べるとどうしても“紙で出来たノート”というだけで不思議と原始的に感じるなぁ。)
さておき、ニオがそっとその錯誤なノートを手に取り、躊躇なくその場で捲り始めた。
勝手に見てしまっていいのだろうか……?
ニオが捲っているなら仕方ない、僕も一緒に目を通そうとする。
〜〜〜
私はあの日嘘を吐いた。
残忍非道な計画。
その犠牲者達に向かって。
こんなことになるなら初めから私は教師なんて目指すべきじゃなかったのかもしれない。あれから何度もそう思った。
誰か、教師として私は何をすべきなのか、どれが正しい道なのか、導いてほしい。
「……先生?」
「っわぁー、……これは……」
ノートを捲った最初のページから随分と刺激の篭った、気になる書き出し。想像以上に重たそうな導入に怯む僕。
ノートの中身は案の定異星の文字、文法で構成されており、僕はシステムのおかげなのか何となく雰囲気で読めているような気がするが、念のためにニオに所々確認をしながら読み進めた。
“もう何もかもだめだ”




