#030 ━導き━
それらだけでなく目立つのは、その広間を余すところなく照らしている光の点の集まり。それが様々な色へと緩やかに移り変わり、柱から壺までの床や天井を這うように複雑な模様を描きながら乱れなく一定の速度で往来していく。
美しいような、煩わしいような。
それの主張が烈しいので集中力を鍛えたり、妨げるためには持ってこいの空間だと思われる。
このモーションにどんな意味があるかは分からない。人間によって生み出された“それらしさ”や見映えの追求のようにも見える。ただ、ようやく未来っぽさを感じることができた。
(マシンの内部でもこの一帯はかなりの割合を占めているはず……。こんな広い空間は何のためにあるんだ?)
今までの通路や部屋と比べても何故だか明らかに雰囲気が違う。
メカニカルなのに神聖さを感じるような。
そんな異様な“領域”、いつ誰がどう見ても怪しげである。
(壺の中に水……?)
「ひゃあ!」
「……!?」
「びっくりしたぁ」
この空間の真ん中奇妙な存在感を放っていた壺。
その中身を確かめるべく上から覗き込むと、連動してひとりでに中に入っている液体が勢いよく吸い込まれるように渦を巻き始めた。
僕が近づいていたことを感知して反応したのだろうか?
勢いが落ち、うねり終わると、その水面に壺とお揃いの鏡面仕上げな花の模型のようなものが一輪、浮いてきた。
「なんだこれ? どういう仕掛けなんだ?」
「初めてみたけど、……こんなの」
自分じゃない何かに操られるように勝手に僕の手がその花に触れる……
(!?)
謎の感覚に襲われ、瞬時に景色が一変。
(トリアンドルスへようこそ)
僕の脳内にはっきりとした“僕の声”でアナウンスが流れてくる。
続いて「キーーーン」と長く激しい耳鳴りがやってくる。
「え?えぇ?」
「トリアンドルス?って前に言ってた空を飛んで光線を出したあいつ?」
怖い。何も分からない。僕もニオもこの状況を飲み込めていない。
こちらにもさっきと同じ壺があり、真上にある氷柱のような物体から、滲み出た水滴が壺の水面に向かって延々と滴っている。
あの花に触れて気がついたらまた違う知らない空間に居た……
「……もしかして私たち転送された?」
「転送って……、なんでそう思うの……?」
「私たちラノハクトからここまでやってきたって言ったでしょ?」
「あぁ、うん」
「その時の転移装置でワープした感覚と今のがそっくりなの。」
ニオの直感は間違っていない気がした。根拠はないが。
「今度はワープかよ。」
もう僕には未知の体験を無闇に楽しむ余裕はなかった。
分からないままに進む恐怖が絡みついている。
(この壺によってワープしたのか……?)
(全く、ワープだとしたらあんなマシンからなんでここに繋がっているんだ?)
僕は何気なく壺を持とうと力を入れた……はずだった。こんな風に。
「壺おっも!……というか、え?」
勢い余って手が滑った。すると体が浮くような感覚がある。いろんな動作がふんわりしていて自分の体が軽いような……
「なんか変だよね……ここ。」
「そうだね、さっきから変なところが続いてる——」
「そうじゃなくてさ、ほら、なんか体軽くない?」
「あー……っと、言われてみれば……?」
「ブンブンッ」
「そうそうこの感覚。ちょっと懐かしいな」
「ダンッ」
ニオは地面を蹴り跳び上がる。
滞空時間が明らかに普通では無い。
「ほっ!」
僕もそれを見て真似るように跳び上がる。
ジャンプ力が格段に上昇し、着地の衝撃が遥かに少ないことが分かった。
宙を泳げる魅力的な無重力では無い、中途半端な重力に戸惑う。
(こちらからこの星の歴史が渦巻く様子をご覧になれます)
脳内で囁く“僕の声”と共に、足元に光る点線が浮き上がる。
指し示すままに鏡の壺の向こうへと小慣れた移動をするニオに対し僕はもたもた歩くことしか出来なかった。
(早歩きってこんなに難しかったっけ?)
ずっと遠くの端へと誘導され縦に並んだ丸い窓が少しずつ鮮明になる。その一番下の巨大な窓から外の景色を覗くと見覚えのある黒い点のようなものがまばらに見える。
(やっぱり……あんなのがそこらじゅうにいるのか……)
「こんな高いところ初めてだ……」
そんな思いと同時にとんでもない高度で地球の上空を飛んでいることがわかった。




