#028 ━傾倒━
「でっかぁ……、それにしても酷い有様だなぁ、家なんかがこんな風に……これを現実と呼ぶのは無茶があるよ。」
「こんなにめちゃくちゃにされちゃあ元通りにはならないだろうねぇ」
(近づいても攻撃はしてこないのだろうか?)
(そもそも奴は僕らを認識出来ているのか?)
ここで深呼吸。
すぅー。 はぁー。
すぅー。 はぁー。
ニオが後ろから見守る中、試しに一番近い足に触れてみる。恐る恐る。
黒い金属のような陶器のようなよく知らない質感がいかにも未知の物質で出来ていますよという雰囲気を味わわせてくれる。
(いくぞ……)
機械らしからぬ生き物じみた脈動を感じる。何かを吸い上げているような……少しずつ脚に触れたところからじわりじわりと、氷のように溶けていく。
「お、おおぉ!?」
ニオに言われた思惑通りの結果に驚きつつも確かな手応えを得た。
このまま両手を広げ僕の全体重を押しつけていく。手が少しずつ埋まっていき、その手形に沿って溶けた窪みを広げていく。
……そのまま腕が通るほどの穴が開いた。
「よぉし!いけるか!」
貫通した拍子に支えている三本脚のうち一本が時間をかけて少しずつ傾いていく。
「やった!いいよいいよ!倒れそうだよ!」
バランスが崩れ、揺れ始めたため手を離し、退避。
間も無くぐんなりと呆気なく倒れた。奴が再び腕を振り翳すことはもう無いだろう。
もっと爆発のような音を立てて勢いよくなぎ倒れるものだと覚悟していたのだが、そんなこともなく周りの歪んだ建物たちがその勢いを殺して、全体が満遍なく軋み、少しずつ横たわるように倒れていった。
とりあえずはこれで無事に一つのマシンの動きを止めることが出来た。
沈むように倒れきると同時にマシンは動きを停止。煌々と光っていた、奴の目らしき部分の光は緩やかに消えていく。
「止まったのか……まずは一機。これを一体何回繰り返せばいいんだ?」
「とりあえずここは倒れたこれをしっかり観察して何か手掛かりを探してみようよ?今は情報が少なすぎるよ。」
「そうだね、こいつに関して全くわからないし、素人目線だとしても何かしら分析をしないとだな、この凄まじい技術をどのくらい理解できるかはわからないけど」
(良かった……良かった……)
心の震えの余韻が全身を駆け巡る。安心はまだ早い。
まずは動きが止まったマシンと、その周辺を注視。
全てが調査対象で未知の要素だ。
何が起こるか分からない。
まだ怖い。
僕の緊張感はさながら鬱蒼としたジャングルを彷徨う探検家。完全にその魂が宿りつつあった。
そしてマシンに僕の手が少しの間でも触れてしまうと蕩けて元に戻らないので、尚更慎重に行動しなければならない。
「何か変なところあった?」
「いや。まだ何も……」
(僕にとってはマシン自体が見慣れないビジュアルだから全てが変に見えるんだけれど……。)
あんなにも暴虐に見えていたマシンが機能を停止し、この有様である。
(この巨体の屍を隅から隅まで時間をかけて調べて「結局何もわかりませんでした」じゃ、骨折り損どころではないぞ……)
「!、ちょっとこっち来て。」
「どうした、なんだなんだ?」
僕は横たわるマシンのかなり上の方にまで登っていたニオに呼ばれた。
(おいおいニオ君よ、どうやってそこまで行ったんだい?)
マシンの脚の薄くなっている部分にどうにか掴まり、両腕を広げてよじ登る。ツヤツヤでいかにも滑りそうなマシンの表面でバランスを崩さないように……溶けきる前に……
「はぁはぁ、怖ぇ……」
長く冷たい脚の登りついた先、付け根の辺りで待っているニオ。
その近くには重たそうな扉らしきものがあった。
「これ扉っぽいし、ここから入れるんじゃない?」
「あ、ほんとだ」
人間が入れるような設計になっているのだろうか?
ノブや鍵穴のようなものは無く、ただ隙間の空いた四角のパネルにしか見えない。マシンが倒れているため横向きに傾いているが、たしかに扉と言われたらなんだか扉な気がしてくる。




