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お隣に、学校一の清楚可憐な『盲目美少女』が引っ越してきました~恋愛不信であるはずの俺が、隣人付き合いをしているうちに君に恋してしまうのは時間の問題かもしれない~  作者: 水瓶シロン
第三章~春休み(完結)編~

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第84話 お隣さんと春休み最終日②

 いつものように紗夜の作った美味しい夕食を満喫したあと、俺は食器の片付けを済ませ、「いつもありがとうございます」と感謝を述べてくる紗夜の隣に腰掛ける。


「いつもありがとうございますは、どちらかというと俺のセリフなんだけどな」


 紗夜にいつも食事を作ってもらい、気を利かせてお茶を入れてくれたりもする。


 言葉通りの至れり尽くせりと言うやつだ。


 だから、こういう簡単な家事作業くらいは俺がやらなくてはな。


 ソファーに並んで座っている。


 もうすっかり俺と紗夜の定位置になってしまっているな。


 俺は自分の家で過ごすことはほとんどなくなってしまったし、これは半同棲生活と言っても過言ではないだろう。


 学校では紗夜がバラしてしまったことによって、俺と紗夜が付き合っていることは知られてしまった。


 そして恐らく、鈴音や周伝手に、俺と紗夜がお隣さん同士であることも周知の事実となっているだろう。


 しかし、こうして俺が紗夜の家に入り浸っていることがバレるのはどうなのだろうか。


 交際関係とはいえ、高校生が同級生の女子と一つ屋根の下――世間的にはあまり宜しくない構図である。


 でもまぁ、今更なんだが。


 俺は紗夜の家のことはもう知り尽くしたと言ってもいいだろう。


 間取りは当然のこと、どの棚にどの食器が仕舞われているかということから、ティッシュの残量まで把握している。


 ――と、俺は自分一人で勝手に得意げな気分になりながら部屋を見渡していると、リビングから繋がる一つのドアで視線が止まった。


「そういえば、紗夜の部屋には入ったことないな……」


「はい?」


「あっ、いや……」


 思わず声に出してしまい、紗夜がこちらへ不思議そうな視線を向けてくる。


 俺は紗夜の家のことを完全に把握したつもりだったが、紗夜の部屋に入ったことがなかったのを思い出した。


 紗夜は俺の部屋に入ったことがある――確か、俺が風邪を引いたときに、紗夜が看病しに来てくれたのだ。


「あれ、颯太君? 女の子の部屋に興味を持つなんて、いつになく積極的ですね?」


「ち、違う違う! 別にそういうんじゃなくてだな。純粋に、まだ紗夜の家の中で知らないところもあったんだなぁていう発見……?」


「で、知らないところもあったんだなぁ~と思った颯太君は、私の部屋に興味を持たなかったんですか?」


「ま、まぁ……持たなかったと言えば、嘘になる……」


「ふふっ、颯太君は正直で良いですね」


 そう言うと紗夜は、ソファーから腰を上げる。


 そして、俺の手を取って立ち上がらせてきた。


「別に隠しているわけでもないので、入ってみますか?」


「え、い、いやその……」


「今更何を遠慮してるんですか」


 妙な緊張感があった。


 やはりそれは、初めて入る空間というだけでなく、異性でそれも恋人の部屋に足を踏み入れるということを強く意識してしまっているからだろう。


 紗夜も俺の部屋に入ったとき、こんな気持ちだったのだろうか。


 いや、あのときは別に付き合っていなかったし、紗夜に好意が芽生えていたかどうかも不明だ。


 まぁ、それはそれで他人の異性の部屋に入るということで、思うところはなかったのか気になるところではある。


 そんなことを考えているうちに、紗夜は俺の手を引いたまま、自分の部屋に繋がるドアのノブに手を掛けた。


「颯太君には、私のことなら何でも知っておいて欲しいんです」


「紗夜……」


 はにかみながら、紗夜がそう言ってくる。


 俺はその言葉を聞いて緊張が解けた。


 そして、紗夜に導かれるまま、開かれたドアの向こうに足を踏み入れる。


「おぉ。綺麗な部屋」


「一応こまめに整頓するように心掛けています」


 シンプルではあるが、かといって無機質でもない――綺麗に整頓された空間はどこかお洒落にすら感じられた。


 微かに爽やかな香りが広がっているのは、棚の上に置かれたアロマのお陰だろう。


「遠慮なく腰掛けてください」


「ああ」


 紗夜がベッドに腰を下ろし、その隣をポンポンと叩いてくるので、俺はそこへ座る。


「お、俺も見習って、こまめに部屋を片付けるようにしよ……」


「颯太君の部屋はそこまで散らかっていなかったと記憶していますが?」


 まぁ、ぼやけた視界の記憶ですけどね、と久し振りに聞く紗夜の笑えないネタに懐かしさを覚えつつ、やはり苦笑いを浮かべずにはいられない。


「床に散らかってたりはしないけど、机の上とかは、いつの間にか色んなものが置かれてるんだ。もはや怪奇現象」


「怪奇でも何でもありませんよ。それは単に意識の問題です。日々の『これくらいあとで仕舞っておこう』が溜まっていった結果にすぎません」


「返す言葉もございません」


 そう言って二人で笑い合う。


「何だったら、今度私がお片付け手伝いましょうか? 目もほとんど見えるようになってきたわけですし」


「なら頼もうかな。加えて整理整頓術も教わりたいもんだ」


 紗夜が「任せてください」とポンと叩いた胸を張る。


「ってか、視力は完全に治ったのか? それとも、やっぱりまだ……」


「そうですね、まだ完全とは言えないです。でも、それも時間の問題だと思いますけどね」


「もうちょっとか」


「はい、もうちょっとです」


 ………………。


 …………。


 ……。


 不意に訪れた沈黙。


 別に会話が終わって静かになることなど珍しくもなんともなく、そんな静けさすら、紗夜と一緒にいれば心地良い時間に変わる。


 しかし、今はそれだけでなく、変に身体が熱く、鼓動が早い。


 そんな中で、紗夜がベッドの上に置かれていた俺の右手に、自身の手を重ねてきた。


「颯太君、今日で春休みが終わっちゃいますね……」


「そうだな……」


「春休みに入る前、私が言ったこと覚えてますか?」


「……関係を深める、か?」


「わっ、わざわざ口に出さなくて良いんです!」


 もうっ! と紗夜が恥ずかしそうに顔を赤く染め、頬を膨らませる。


「で、でもまぁ、それです。春休みの間にって言ってたのに、気付けばもう最終日です……」


「……」


「だから、その……」


 重ねられた紗夜の手にギュッと力が入り、俺の手をそのまま握る。


「颯太君の実家で一緒に寝たときの続き……しませんか……?」


「今?」


「い、今しかないですから……」


 紗夜がチラリと横目で俺を見てくる。


 俺の心臓は今にも爆発しそうなほどに高鳴っているのに、不思議と冷静だった。


 まぁ、今紗夜のことしか考えられなくなっている状況で果たして冷静という言葉が適切なのかは別として、それでも頭は冴えていた。


 明日からは学校で、やはり二人でゆっくりできる時間は減ってしまう。


 そして何より、紗夜から勇気を出して提案をしてきた。


「紗夜」


「……はい」


 俺はこれが答えだというように、紗夜の顔をこちらに向かせ、そのまま唇を奪う。


 一瞬紗夜の身体が強張ったが、すぐにそれもなくなり、身を委ねてくる。


「あっ、颯太くんっ……!」


 紗夜の身体を優しく押すと、紗夜はそのままベッドに仰向けになる。


 都合の良いことに、紗夜の枕元に照明のリモコンが置かれている辺り、こうなることは見抜いていた――というよりは、こうなるように誘導したのだろう。


「策士だな」


「えへへ。何のことでしょう?」


 そうはぐらかして、紗夜はリモコンを手に取り部屋の明かりを落とす。


 真っ暗ではなく、淡い暖色の明かりが残されているため、輪郭は曖昧になるも、紗夜のことはよく見える。


 リモコンを手放した紗夜は、覆い被さる俺の首にその細腕を回した。


「颯太君、大好きですよ……」


「俺もだぞ」

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