* * 12 * *
きみは迷うことなく校長室の壁に歩み寄る。
「ライトお願い」
ごめん、と応えて壁を照らす。キーボックスの中にタグ付きの鍵がずらっと並んでいる。きみはタグを確かめて一本の鍵を取り出した。それを大事そうにブレザーの内ポケットにしまう。
「行こう」
「待って」
歩き出そうとしたところを呼び止めた。そのままきみが振り返る。眼鏡がライトに反射してきらりと光る。
「冬季間でも三日保つってことは、相当な発電量だと思うけど、そのまま稼働しちゃって大丈夫なのかな?」
質問の意図はすぐに通じた。きみは無言で室内のソファに座り、テーブルにファイルを置いた。きみがファイルを読みやすいように脇に立ったままでライトを向けた。
「意外と細かいところに気がつくんだね」
褒めてくれたんだろうか。
「えーっと……ふんふん、ほうほう。なかなか賢いシステムなんだ、やるなー」
きみはファイルを閉じた。きみの中だけで解決されてもなあって気持ちと、きみが理解できたならいいかという気持ちが混ざり合う。ぼくがそんな気持ちでいることに気がついたみたいにきみが口を開いた。
「非常用電源に接続されてる電灯は、非常用のLEDのみ。よって点けて回った電灯は影響しないってこと」
なるほどそれは確かに、賢い。
「ってことで、地下の設備管理室に」
「はい」
素直に頷いてきみについていく。少し慎重な足取りで階段を降り、目の前のドアの鍵穴にきみが鍵を差し込んだ。かちょん、と軽い音がした。きみは振り返りもせずに設備管理室に入る。慌ててついていって、奥が見通せるようにモバイルライトを持った右手を高く掲げた。ちらっと見えた充電残量は五十四パーセント。
「あれだ」
きみは迷わず部屋の奥にある大きな機械の前に立った。ファイルと機械を見比べるきみに声をかける。
「暗くない? 見えてる?」
「暗いけど見えてるから大丈夫」
それからきみは機械についたなにかをひねって、スイッチを押した。
ぶぅん、と音がして、続けて機械の稼働音が鳴る。ほぼ間を置かずに天井のLEDがついた。少し頼りないけれど、モバイルライトは必要なさそうだ。だけど勝手に消したらきみに叱られそうだ。稼働音が思ったよりも大きくて、半分怒鳴るみたいになった。
「もう消してもいいかな?!」
「そうだね! 万が一に備えよう!」
きみも怒鳴るみたいに返事をした。モバイルライトを消す。発電機の稼働音から逃れるように設備管理室を出た。きみが入る前と同じようにドアの鍵をかけた。理由を問うときみは大真面目に答えた。
「誰かに発電機を止められたら困る」