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ぼくときみ  作者: おぐら あん
10/36

* * 10 * *

 きみはじっくりと空の写真を見ている。ときおり「こんなきれいな夕焼け見たことない」とか「ここ、有名な場所だ」とか、ささやかな感想を漏らしながら。どれくらいの時間をかけて写真集を見ていたのだろう。最後の、いわゆる後書きを読み終えたきみが顔を上げてぼくを見た。


「きみが一番好きな空は?」


 写真は、と尋ねないところがとてもきみらしい。横から手を伸ばして少しだけ写真集を手元に引き寄せて、目的のページを開く。


「……これ?」


 意外だ、と言わんばかりの口調。そうだろうね、と思う。

 それは、乱立するビルの隙間から辛うじて切り取ってきた、都会の空気で煤けた空の写真だった。都会に住むぼくらは誰でも一度は訪れたことがある場所だ。

 空じゃなくてビルが乱立する様を収めようとした写真だったんじゃないかと思うくらいに、空ばかりが収められた写真集にはそぐわない。でもこの写真集に混ざっているんだからこれはやっぱり、空の写真に違いない。そう信じている。


「いつでも実物を見られるのに、どうして」


「いつでも実物を見られるからかな。ぼくが生きている世界は本物だったって安心する」


 その答えをきみがどう受け取ったのかは知らないし知りたいとも思わなかった。


「思わず長居しちゃったね。どうする?」


 このままここに留まるか、それとも次の場所に向かうか。悩んだ。ぼくはこのまま、ずっと図書室にいてもいいんだけど。きみがなにも言わないのは、ぼくの答えが出るのを待ってくれているからだと気づく。気づいたからと言って答えは簡単に出ない。どうしよう。


「あっ」


 前触れもなく電灯が消えて真っ暗になった。ぼくらはほぼ同時に声を上げていた。衣擦れの音がして、直後に小さな灯りが付く。きみの携帯のライトだった。


「充電保つかな?……携帯は?」


 聞かれてとっさにごめん、と返していた。


「携帯は携帯しない主義で。カバンに入ってる」


 きみがため息をついた。


「それなら電池残量は問題ないだろうね。バッテリーも取りに行きたいし、教室に戻ろうか」


 きみの持つ携帯の灯りを頼りに図書室を出る。

 ふりだしに戻る。

 そんな言葉が脳裏をかすめる。


 あとどれくらい、時間はあるのだろう。

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