外れスキル所持者と師団長
「リルア王女殿下っ! なにをしていらっしゃるのです‼」
突如そう言ってきたのは、妙に体格の良い男だった。
立派な銀色の甲冑を身にまとっていることから、たぶん軍の兵士だろうか?
兜から覗く三白眼が、冷ややかに俺を見つめていた。
「王女殿下、失礼ながらその男は《外れスキル所持者》です。近づいてはなりませぬ」
そして肩を竦めると、ワッハッハと妙に芝居がかった仕草で笑った。
「笑えますよねぇ。剣聖様の息子でありながら、授かったのは外れスキル……。ぷぷ、こんな不出来な息子を授かってしまって、剣聖様もお気の毒だ」
「…………っ」
不出来な息子。
その言葉が、俺の胸に深く突き刺さった。
「リルア王女殿下、俺たち、やっぱり離れたほうが……」
俺がそう言いかけた、その瞬間。
「あーら、なにを言ってるんですかカーバ師団長」
リルアがなんと、俺の肩に頬を乗せたではないか。
「私たち、下の名前で呼び合う仲なんですけど? ねぇ、ヴァレス」
「な……!?」
さすがに戸惑ってしまうが、こっそりウィンクしてくるリルアに、俺はため息をつきつつ答える。
「そ、そうだなリルア。仲良しだもんな俺たち」
「うん♪ ヴァレスはとっても強いのに……《外れスキル所持者》ってだけで馬鹿にするなんて……本っ当に最低」
うおっ……めちゃくちゃに言うなこの王女。
怒らせると怖いタイプだろ、絶対に。
あのミュラーも、遠目でカーバを見やっている。
「お、おい……嘘だろあいつ、王女様と呼び捨ての仲だって……⁉」
「外れスキル所持者の分際でか……!」
「ちょっといまから外れスキル授かってくる」
通行人たちも大騒ぎだ。
まあ……そりゃそうだよな。
当の俺自身が、なにがどうなってるかさっぱりわかってないんだから。
「な……ななな……っ!」
完全にメンツを潰されたカーバが、ぷるぷると口を震わせた。
「なにをおっしゃるのですか王女殿下! そいつは外れスキル所持者ですぞ! とても強いなどと……絶対にありえぬでしょう!」
そしてぎろっとミュラーを睨みつけ、カーバは唾を吐き散らした。
「おまえもおまえだミュラー! 貴様がついていながら、なぜ王女殿下は男を連れているのだ!」
「はっはっはっ、カーバ。私だって何度も止めたんだぞ、はっはっは」
そう笑うミュラーは、やっぱり遠目で笑っていた。
うん。
ミュラーには苦労人の相が出ているな。
「ともかく、そいつは外れスキル所持者です! 王女殿下ともあろう方が、一緒に出歩いていい人間ではありません!」
「……あら」
リルアはにやりと笑うと、右手を腰にあてがい、あくまで勝気に言ってみせた。
「そこまで言うのであれば、ヴァレスと戦ってみてはどうです? 自信がおありなのでしょう?」
「ちょ……! リルア王女殿下!」
思わず突っ込みをいれてしまう俺。
「相手は師団長ですよ⁉ さすがに勝てないんじゃ……!」
「ええ。そうですね。だから本気で戦ってください、ヴァレス様」
なんだろう。
リルアの奴、なんか意地悪い笑みを浮かべているんだが――気のせいだろうか。
「くっ……おのれ! この俺が外れスキル所持者相手に剣を抜くなどと!」
カーバは心底イラついたようにそう吐き捨てると、なんと本当に鞘から剣を抜いた。
「おい外れスキル野郎、さっさと剣を取れ! おまえをぶっ潰して、俺様の正しさを証明してやる!」
うわぁ。
面倒になったなぁこりゃ。
「おい、あいつ終わったな……」
「師団長が外れスキル野郎と勝負? 結果なんて見えてるだろ」
通行人たちのそんな囁き声も聞こえてくるのだった。
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