表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/6

王女と王都をいく

「ちょ、ちょっと、頭を上げてください!」


 俺は慌ててリルアを制止した。

 王族に頭を下げられるとか、どんな地獄絵図だよ。


「いえ……上げません。ヴァレス様に返事をもらうまでは」


「な、なにを……!」


 もう滅茶苦茶だな。

 可愛い顔して、なかなかに大胆な王女様だ。もしくは、そこまでする必要があるほどに追い詰められているということか。


 しかも《ヴァレス様》とはどういうことだ。


「ああもう……わかりましたよ。話聞きますから、顔を上げてください……!」


「ほんとですか⁉」


 声のトーンを数段上げ、俺に視線を戻すリルア第四王女。

 その表情はめちゃくちゃ輝いており――不覚にも可愛いと思ってしまった。


「もちろん、ただでとは言いません。ヴァレス様は私たちの恩人でもありますし……まずは王城でゆっくりお話させていただけませんか?」


「王城……」


 ま、まあそうなるよな。

 なんとなくそうなる予感はしてたけど……


「あの、やっぱり俺逃げてもいいで……」

「ささ、行きましょうヴァレス様♡」


 無理やり腕を絡ませ、王都へと進み始めるリルア。


 やばいやばい。

 柔らかいもんが当たってるんだが……!


「ちょ、リルア王女殿下、なにを!」

 ミュラーが顔を真っ赤にして叫ぶ。

「王女様が男性とそのように歩くなどと……! あらぬ噂が飛び交います、おやめくださいっ!」


「あら。あらぬ噂・・・・じゃないかもしれないじゃないですか」


「ななっ……!」


 顔を引きつらせるミュラーだったが。

 数秒後には「はぁ……」とため息をついた。


「申し訳ないなヴァレス殿。リルア様は言い出したら聞かぬのだ」


「はい……そんな気がしています」


 おしとやかに見えてめちゃくちゃ強引。

 それが、このリルアという王女なのかもしれない。


 俺はため息をつきつつ、密着して離れないリルアを見下ろした。


「でも王女殿下。このままでは歩きにくいので……すみませんが、もう離れていただいてもいいですか?」


「え? なに言ってるんですか?」

 リルアが目を丸くする。

「王城に着くまでずっとこのままですよ。当たり前じゃないですか」


「えっ」


 めちゃくちゃ嫌な予感がするんだがそれは。





「な、なんであいつが王女様と歩いてんだ⁉」

「しかも羨ましいモンが当たってるじゃねえか⁉」

「外れスキル所持者の分際で……!」


 王都。その大通りにて。

 俺の嫌な予感は、見事に的中することとなった。


 リルアと腕を絡ませて歩く俺を、通行人たちがあんぐり口を開けて見守っている。


 それはもう大騒ぎどころの話じゃない。 


 なにせ俺は、ついさっき無能扱いされていたばかりだからな。

 それが王女をともなって帰ってくるとか……普通に考えておかしすぎる。


「どうですか……? ヴァレス様」


「な、なにがです?」


「この国は《外れスキル所持者》に厳しすぎますからね。これで少しくらい気が晴れたらいいなーと思っていたのですが……」


「リルア王女殿下……」


 そうか。


 突拍子もないことを言っているように見えて、俺のことをきちんと考えてくれたんだな。

 俺が王女と関わっていることが知られれば、迂闊に馬鹿にできないだろうし。 


「いや、違うと思うぞヴァレス殿」

 と思っていたのだが、後ろを歩くミュラーが真顔で耳打ちしてきた。

「いまのは方便だ。王女殿下はただヴァレス殿にくっつきたいだけで、それ以外はすべて後付けに過ぎん」


「ちょ、ミュラー⁉ せっかく良い雰囲気になってたんだから、余計なこと言わないでよ⁉」


「なにをおっしゃいますか。事実でしょうに」


「あんた……いつか不敬罪で訴えてやるぅ」


「は、ははは……」


 なんというか……この二人、思ったより仲良いんだな。


 王女と近衛の関係だし、それも納得はいくが……

 二人とも、思ったよりとっつきやすい性格をしているのかもしれない。


「それにしても……王女殿下」

 俺は後頭部を掻きながら言った。

「さ、さすがにもう離れません? 恥ずかしいんですけど……」


「あら。そうはいきませ……」


「リルア王女殿下っ! なにをしていらっしゃるのです‼」


 ふと、野太い男の声が響き渡ってきた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ