最強の光属性魔法
「ベルグマを……倒した……?」
少女がぱちくりと目を見開く。
なんだ。なんか妙に驚かれてるな。
ベルグマなんぞたいした敵ではないはずだが。
……と、そんなこと考えてる場合じゃない。
「はぁ……はぁ……」
ベルグマに頭を掴まれていた女剣士が、苦しそうに喘いでいるのだ。
見れば右肩のあたりがひどい傷である。
このままでは命に関わるだろう。
「レイア‼」
少女が息せき切って女剣士に走り寄る。
「大丈夫ですか⁉ 今すぐポーションを出しますから……!」
「ふふ……いいのですよ。ポーションでは治りません。あなたも……おわかりでしょう……」
「し……しかし……‼」
悔しそうに涙を浮かべる少女。
「ぐふ……い、いいのです……。姫様のために死ねるのなら、私は……」
「レイア……ごめんなさい。私がふがいないばっかりに……」
ん?
姫様?
そういえばさっきもそんなこと言ってたが……なにか訳アリなのだろうか。
VGOはただのVRMMOだったから、ストーリーなどはほぼ皆無に等しかった。あくまでオンライン上でのバトルがメインだったので、この世界のキャラクター事情などは無知に等しいのだ。
だから正直、この少女たちがどんな人物なのかもまったくわからない。
だけど、この状況を見て……助けないわけにはいかないよな。
「レイアさん……だったかな」
俺は女剣士のそばでしゃがみ込むと、できる限り優しめに微笑んだ。
「大丈夫だ。助かる術はある。諦めないでくれ」
そう言いながら、俺はスキル《チート使い》を起動。
使用する能力はもちろん《光属性魔法の全使用》。
前述の通り、光属性はなかなか習得できない代わりに全属性でも最強。
攻撃・回復・補助、すべてをカバーできる万能属性だ。
今回使用する魔法は……そうだな。
上級魔法の《セラフィックヒール》がいいだろう。
回復対象がひとりしか選べない代わりに、癒す力が飛びぬけている魔法だ。
「はは……旅の者よ。気遣いはありがたく頂戴するが……私は、もう死ぬ身だ。私は気にせず、どこへなりと……って、あれ?」
女剣士が素っ頓狂な声を発する。
さっきまで掠れるようだった声が、急に活力を帯びていた。
「レ、レイア? どうしたんですか?」
恐る恐るといった様子で問いかける少女に、女剣士も唖然とした表情で答えていた。
「な……治りました。傷が……ありません」
「え……⁉ ほんとだ、傷がない……⁉」
やはり驚いているようだな。
さすがは上級魔法の《セラフィックヒール》。
いままで何度も世話になった魔法なだけある。
やはり、この《チート使い》と前世のゲーム知識があれば、生きていくことは充分に可能なようだな。
「旅のお方……失礼ですが、あなたはいったい……?」
「はは……申し遅れました」
俺は苦笑いを浮かべると、一応低姿勢で名乗りをあげておく。
「俺はヴァレス・アルゼルド……。たったいま、アルゼルド家を追放された者です」