ゲームの知識で無双する
――――
使用可能なチート一覧
・光属性魔法の全使用
――――
「はぁ……」
王都の大通りを歩きながら、俺はひとりため息をつく。
思った通り、《チート使い》はかなり有用なスキルだった。
VGOにおいて、光属性というのは最上位に位置する魔法だからだ。
攻撃・回復・補助のすべてを行えるうえ、魔王たちの「闇属性」にも有利に働く。
そういったことから、ゲームを相当やり込まないと光属性を習得できなかった。具体的には、光属性以外の魔法レベルをすべて99に上げること。
1レベル上げるだけでも数時間を要するVGOにおいて、この仕様は鬼畜という他なかった。
それを――俺は使えるようになったんだ。
この《チート使い》というスキルによって。
「はぁ……」
だが、いまさらそんなものを手に入れてどうするというのか。
俺は今度こそ、親に認められたかった。
なのに……!
「おい、あいつが……」
「剣聖の息子なのに外れスキルを授けられたっていう……?」
「へへへ、平民に追い抜かれるとかざまぁねえの」
……わざとだろうか。
俺にギリギリ聞こえるくらいの声量で、通行人がヒソヒソ話し合っている。
「くっ……!」
《チート使い》を授けられてから、まだ数時間しか経っていないはず。
だけど、俺の失態は良い話のネタになっているようだな。
胸糞悪くなるが――気持ちはわからなくもない。
俺だって、昔はそういうニュースなどを見てひとり優越感に浸っていたのだから。
「…………っ!」
俺はいたたまれなくなり、全速力で大通りを駆け抜けた。
通行人が驚いたように振り返ってくるが、構わない。
いいんだ。もうなにがどうなろうとも……!
走るうち、いつの間にか王都を通り抜けていたらしい。
いま俺の前に広がっているのは、地平線の彼方まで広がる草原。
「……はぁ」
これからどうするか。
正直に言えば、VGOの知識がある以上、この世界で生きていく自信はある。
けど――そんな人生になんの意味があるだろうか。
俺がやりたかったのは、そんなことじゃない……
「ギュオオオオオアアアアッ!」
「……っ!」
突然聞こえたその雄叫びに、俺は身を竦ませた。
なんだいまのは。
もしかしなくても、近くの茂みから聞こえてきたような……
しかも俺の記憶は間違っていなければ、いまのは……⁉
俺は急いで声のした方向に駆け出した。
剣聖スキルは授けられなかったが、これでも18年間鍛えてきた身。速く走ることには自信があった。
そして辿り着いたとき、俺は予想通りのものを見た。
ぱっと見は人型の影のような魔物で、目にあたる部分には赤の光点が二つ、右手には鎌が握られている。
そして左手には――剣士らしき女性が軽々と持ち上げられていた。
「クク……逃げるなよ小娘。我が宿主となることを選べ」
「だ、誰があんたなんかと! 死んでもごめんだわ!」
魔物と対峙する少女が大声で叫ぶ。
「フフ、いいのかな? さもなくば、この女を殺すまでだが?」
ぎゅう、と。
ベルグマが左手に力を込めた。
「…………ぁぁぁぁぁぁぁああああ!」
「レ、レイア!」
「ひ、姫様。私のことは構わないでください……。早く逃げて……」
「そ、そんなことできるわけないじゃないの……! 私たち、ずっと一緒だったのに……!」
「姫様……! ぐぁぁぁぁぁぁああ!」
影型の魔物、ベルグマ。
戦闘力はたいしたことないが、知能に秀でており、ずる賢い魔物だったと記憶している。
きっと何らかの策を講じて、あの女性たちを嵌めたのだろう。
だが正面からの戦いでは、こちらに分がある――!
俺は咄嗟に駆け出すと、正面からベルグマに突進をしかけた。
――アルゼルド流、虚空一閃。
「はあぁぁぁぁぁぁっ!」
「ゴグアッ‼」
俺の剣がベルグマの背中部分を的確に捉え、周囲に光のエフェクトが発生する。
これがVGOにおける重要テクニック――クリティカルだ。
攻撃力は2倍になるうえ、相手の防御力も無視できる。
ベルグマ程度なら一撃で倒せるだけに、狙ってクリティカルを出すのはかなり難しい。剣を振って0.15秒後に当てなければならないので、かなりシビアなタイミングなのだ。
だが、前世の俺は極度のゲーマーだったからな。
クリティカルを連発させるくらい、造作もない。
「クカッ……!」
そして思った通り、ベルグマはその一撃で地面に伏した。
やはり弱い。
戦闘力だけでいえば激弱だな。
「馬鹿な……。この私が、なぜ……っ‼」
絶命するその瞬間まで、ベルグマはなにが起きたのかわかっていないようだった。