チート使い、追放される
この世界では、18歳になると誰もがスキルを授けられる。
剣士、魔法使い、神官などなど……
その種類は多岐にわたる。
剣士になれば攻撃力が中心に伸びるし、魔法使いであれば魔力が伸びていく。
そういったことから、スキルは人生のすべてを決めるといっても過言ではない。
どうか自分が当たりスキルを授けられますように――
若者がそう願っている姿も、この世界でよく見られる光景だった。
「今生こそは……しっかり親孝行できますように……」
そして俺――ヴァレス・アルゼルドも、今日18歳を迎えるひとりだった。
だが俺の願いは、他の若者とは若干異なる。
というのも、俺にはなぜか前世の記憶があるから。
その前世で、俺はいわゆる無職だったから。
親にはいつ就職しろと怒鳴られて、言うことを聞いてこなかった俺だけど……
心の片隅にはあったんだ。
親への申し訳なさが。
だけど社会に出るにはどうしても自信がなくて――結局、コンビニ帰りにトラックで跳ねられた
幸いなことに、この世界はヴァルガンド・オンライン――通称VGOというVRMMOの世界と瓜二つ。
どうして異世界に転生してしまったのか、いつか元の世界に戻るときがくるのか……
そこまではわからないが、俺はこの世界をよく知っていた。
親のスネをかじりながら毎日のように取り組んでいたのが、このゲームだから。
今生では、この知識を良い意味で活かしていって……
少しくらいは、真面目に生きていきたいと思っていた。
その意味でも、このスキル開花日は超がつくほど大事といえるだろう。
「ふふ……そう固くなるなヴァレスよ」
「ち、父上……」
「案ずるな。《剣聖》の息子たるおまえが、弱いスキルを授かることなどありえん」
そう。
俺はなんと、剣聖マルゴ・アルゼルドの息子として転生したんだ。
強スキルの血を引く者はほぼ例外なく強スキルを授かるらしく、だから俺も父から期待されていた。俺なら絶対に《剣聖》になれる、と。
俺としても願ったり叶ったりだった。
まさに前世の咎を償う絶好の好機……
だからこそ、俺は必死に修行してきた。今度は絶対に親の期待に応えてみせると。
VGOにおいても、《剣聖》は最強スキルのひとつ。これを授かることができれば、安泰は間違いないだろう。
「ヴァレス様……!」
「頑張ってー‼」
王都ヴァルガンド。その教会にて。
剣聖の息子ということもあってか、俺に注目する者は多かった。
とりわけ貴族やらなんやら、身分の高い女性がこぞって俺に手を振ってきている。
「ヴァレス様―! 応援してますからねー!」
「はは……」
別にあの女性たちと知り合いってわけじゃないんだけどな。
玉の輿狙いだろう。たぶん。
「ヴァレス殿、こちらへ」
そしてとうとう、俺の順番がまわってきたようだ。
厳かな声で、神官から名を呼ばれた。
「は、はいっ!」
背筋を伸ばし、俺は教会の檀上に向かっていくのだった。
「ヴァレス殿、あなたのスキルは――《チート使い》だ」
「え……?」
しかしながら数分後、神官から告げられたのは予想もしないスキルだった。
チート使い?
え、嘘だろ?
チートって、あのチートだよな?
努力もしていないのにレベルがマックスになったり、金が一瞬でマックスになったり、ステータスを書き換えたり……
マジかよ。
剣聖じゃないが、思わぬ強スキルだぞ。
いや……強スキルどころか最強じゃないのか、これ?
「父上、やりました! 剣聖じゃないですが、いいスキルを手に入れましたよ!」
俺は喜びを胸に父の元に戻った――のだが。
「ち、父上……?」
父の表情は……冷たかった。
「ヴァレス。私は……剣聖スキルを授かれと言ったはずだ」
「え……? で、でもこのスキル、たぶん剣聖より強いのでは……」
「馬鹿者! そんな意味不明なスキルが、強いわけあるか‼」
「な……」
そこで俺はぎょっと目を見開いた。
そうか。
俺は転生者だからともかく、この世界の住人はチートの意味を知らない。
知るわけがないのだ。
でも、マルゴは血を分けた親だ。
説明を尽くせば、絶対わかってくれるはず……
「父上、えっと、チートというのは……」
「おお、出ましたぞ! スキル《剣聖》!!」
「おおおおおおっ!」
「すげぇぇぇぇぇぇぇええ!」
突如、教会内が大きな熱気に包まれた。
「え? 剣聖? 俺が?」
「うむ。お主は剣の道に進むがよい。明るい未来が待っていよう」
どうやら、俺とは別の少年が《剣聖》を授かったみたいだな。
目を丸くする少年に、神官が優しく微笑んでいる。
「あいつ、平民だよな……?」
「すげぇな、平民なのに《剣聖》スキルだぞ?」
「それと引き換えヴァレスときたら……」
見物人たちがヒソヒソ話し合っているが、いまは気にしている場合ではない。
まずは父上に、チートのすごさを説明しないと……
「素晴らしいっ!」
しかし父の目に――もう俺は映っていなかった。
コツコツと檀上へ歩み寄っていくと、がしっと少年の両肩を掴む。
「うむ、よく鍛え上げておるし、良い目をしておる! 少年、名をなんという!」
「え? ヒュースです。ヒュース・レイモンド……」
「ヒュース! 私の元で修行するがよい! 明るい未来を保証するぞ!」
「な……!」
俺は思いっきり目を見開いた。
嘘だろ……⁉
剣聖スキルを授けられなかったからって、そんな簡単に俺を見捨てるのか……⁉
たしかに父が跡取りに頭を悩ませているのは知っているが……
だからって、こんなに露骨に……!
「ち、父上……! なにをおっしゃてるんですか……⁉」
「む? なんだヴァレス」
しかし俺に向けられる父の視線は、やはり冷たい。
「さっきも言ったろう。私の息子たる者、必ず強いスキルを授かると。そんなゴミのようなスキルを授かった者は――最初から、私の息子ではなかったのだ」
「え……」
このセリフには覚えがある。
――おまえなんか、俺の息子じゃなかったんだ――
当時酒に明け暮れていた俺に対し、前世の父が放った言葉だ。
俺は、俺はまた……
「ふん、やっとわかったか」
うつむく俺に向けて、父マルゴが嘲笑の声を発した。
「最低限の金と食料はくれてやる。とっとと荷物をまとめて出ていくがいい」
――そうして、俺は剣アルゼルド家を追い出されることとなった。
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