ARE YOU READY?
『吾輩はチェリーである。名前はある。タクトって言います。22歳です。
なぜ私が22歳になってまで童貞なのか、それは私が単にモテなかったいう理由だけではありません。私は他の人に比べて特段モテるというわけではありませんが、女性との交際経験は人並みにはありました。今までに童貞を捨てるチャンスはあったわけです。であればこそなぜまだ童貞なのか、その理由は海よりも深く、大地よりも広い理由があったのです。
私が小学6年生の頃、クラスに好きな女子がいたのです。私はその子に告白しようとしていました。
しかし私のこの告白は失敗に終わりました。なぜなら・・・・・・・・・・』
(・・・うーん、この後どういう話にしようかな。)
昼下がりの大学。大学の講義室の中で一人、俺はノートパソコンの前でこの小説の展開を考えていた。この小説というのは、つまらない授業の暇つぶしに俺が思い立って書き始めたものだ。
スマホいじりに飽きて代わりにやりだしたが、案外楽しくなり、時間を忘れて書いている内に受けていた4限の講義は終わっていて、次の講義も入ってなかった俺はそのまま講義室に残って続きを考えていた。暇つぶし目的に始めたからいつやめてもいいのだけど、どうせならこの小説を完成させようと思っていた。
ふと時計をみると時刻は5時32分、そろそろ切り上げて帰るかと耳にしていたイヤホンを外し、ノートパソコンを閉めかけたその時。
「・・・吾輩はチェリーである。へぇー」
「どっ!」
急に右耳後ろあたりから聞こえたきたその声に、俺は反射的に驚いて思いっきりノートパソコンを閉じて振り向いた。叩きつけるように閉めたせいでバンっと音がなったが、パソコンの心配をするのは少し後になる。
その声の先の人物は俺が思いもよらぬ人物だった。てっきり友達だと思ったのが、予想は全く違った。そいつ、彼女はさっき受けた4限の講義で何度も見かけたことのある顔の女だった。身長は165㎝あたりだろうか。背中あたりまで伸びた黒い髪は、その一本一本にまで潤いが行き届いているかのようなサラサラヘアーで美しい。その髪におおわれた小さい顔は、瑞々しくハリのある綺麗な肌を纏い、透き通るような目はパッチりと開いていて吸い込まれそうだ。鼻筋はすらーっと通っており、顔の一つ一つのパーツがまるで彫刻のように整っている。さらに目測推定Fカップはあるだろうと思われる胸。男の夢がいっぱい詰まったその大きい胸は着ている服などお構いなしにその存在を主張している。しかし、その胸と対照的にきっちりと引き締まったウエスト。出るとこは出て締まるとこは締まっている、要はスタイル抜群だ。そんな容姿の彼女は人の目線、強いては男の目線を引き付ける魅力も持っていた。
俺も目にするたびに、めちゃめちゃ可愛いじゃねえか!と心の中でテンション上がっていた身だが・・・
そんな容姿がとてつもなく整っている彼女が俺の目の前で玩具を見つけたいたずらっ子のような意地の悪い笑みを浮かべていた。
そう意地の悪い笑みである。なぜ俺はただの笑顔ではないと分かったのだろうか。理由は簡単だった。彼女のこの笑顔は意地の悪いものだとはっきりと顔が物語っているのだ。俺が人の表情を読むのが得意なわけでもなく、おそらく誰にでも判別できるくらいわかりやすく、まるで意地の悪い笑みのお手本を見せられているようだった。そんな顔に俺は一瞬見とれてしまった。