生きてりゃ人間、死ねば死体
その身体から魂が抜けた殻を人は、死体と呼ぶ。
私の目の前にあるのは明らかに死体だ。
でも、数時間前までは母親という人間だった。
女手ひとつで今まで育ててくれた良き母親。
思春期というのに口喧嘩さえした事も無い良好な関係の親子だった。
共に生き、共に笑い、共に泣いてくれた。
顔に掛かった白い布をそっと取ってみる。その肌は既に生気を失い灰色をしていた。
鼻と口に綿を詰められ瞼は、うっすらだが開いていた。
まだ死にたく無かったろうに、まだ私が、心配だったろうに。
死体という響きは良くないからか遺体と呼ばれる事が多い。
「今晩は、ご遺体の側で最後の別れをして下さい。」葬儀社の人間が今まで何度と
話してきたであろうお馴染みのセリフを私に吐き掛けた。
私の母親はもうここには、居ない。ただの殻が横たわってるだけだ。
そんな死体に私は、とても寄り添えない。私は、自分の部屋で夜を過ごした。
翌日、火葬場の煙突から煙が上がった時、初めて泣いた。
きっと私を見守ってるであろう母親の魂に手を合わせた。
「これからも私を見守っていてください。」
母親の遺影が、優しく私に微笑みかけていた。
「死」をよくテーマに上げたがるのは、やはり近場で目の当たりにしてきた経験がある事と、未だそれを乗り越えられていない自分がいるかもしれないからかも・・と思う事があります。