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祖父ワリドは頑固者だ。


昔ながらの工法に徹底的にこだわり、突き詰めて研究し、それを更に進化させることで、このセメンサで『十二技師』と呼ばれる一流の職人の一人に数えられるようになった。


「じぃちゃんのことはじぃちゃんと呼べ。いいな」


「分かってるよ。でも拳骨はひどいよ」


「お前が悪い」


今では数が少なくなったラーガの血が濃く出た『純血種』でもあり、その見た目はヒューマからは程遠い狼人間のようなものだ。


そのため身体能力も一般のヒューマを軽く凌駕しており、先程な拳骨も(本人は軽くやったのだろうが)想像を絶する威力で、私の若く元気な脳細胞がどれほど死滅したかわからない。


「こんな可愛い孫を殴るなんて」


「喧しい。もう一回するぞ」


因みに頑固というのは子供っぽいという皮肉でもある。


「いやいや、ごめんねライナス君」


狭い工房の奥から聞こえていた作業音が一旦止み、薄暗い中から一人のヒューマの男性が出てくる。


身長は160ぐらいと少し小柄で、人の良い苦笑いを浮かべている彼は祖父の唯一の弟子、カナンさんだ。


年齢は30を少し過ぎたところだったと思うが、童顔のためか年齢よりも若く見える、薄緑の髪を短く切り揃えた青年だ。


「コラ!カナン!貴様は黙って作業を続けぃ」


「は、はい!すいませんっ!」


十二技師とその工房は、その名声もさることながら、それぞれが特殊な技術やノウハウを持つ。

そのため街の外からも含めて弟子になりたいと頭を下げてくる者は後を絶たない。


が、祖父の工房は規模が小さなこともあり、そして何より祖父の性格と言動が中々に過激なこともあり、長期間逃げ出さずに弟子として勤められる人は非常に、非常に少なかった。


そもそも弟子を取るつもりは祖父は毛頭なかったそうだが、十二技師の一人に数えられるようになってからは、流石に周囲からの技術継承に対する圧力もあるのだとか。


祖父は仕方なく、最初は同じラーガを中心に弟子を取っていたらしいのだが、ラーガという種族は祖父を例外にして不器用な者がとても多い。

よって、全員祖父によって叩き出された。


ラーガを諦めた祖父はヒューマを弟子にしてみたが、祖父曰くヒューマは「根性無し」が多いらしく、結果こちらも殆どが最後には泣き叫んで逃げ出すか、病院送りになって失敗した。


そんな中、近年稀に見るタフさと根気強さで漸く正式な弟子として固まりそうなのがカナンさんだ。


祖父も彼のことは何だかんだ評価しているらしく、当たりは相変わらずキツイが、少しずつ技の基礎を伝授し始めているようである。



「で、今日は何じゃ。また『工作遊び』か」


「うん、そのつもり。いいでしょ?」


「…ふん、好きにせぃ」


祖父は太い腕をデフォルトのように腕組みして私を一瞥すると、工房の奥にズンズン進んでいく。


「素直じゃないよね、師匠は」


ハハハといつもの苦笑いを深めてカナンさんはそう私に笑いかけ、小走りでその後を追っていった。


……あの偏屈老人を「素直じゃない」で片付けて付いていける人は、やはりあの人ぐらいだな。


私には孫補正で比較的優しく(?)接してくる祖父だが、対外的な祖父の過激な振る舞いをよく知る私はカナンさんが厳しい修行を容易く受け入れる僧か仏の何かに見えた。



はてさて。


私が身内からの暴力を受けながらもわざわざここまで来たのは祖父の言う「工作遊び」が目的である。


工房内は3つの部屋が並んだ形になっているのだが、その最奥の部屋には金属を加工するための炉や作業台、その他の工具類が並んでいる。


そこには絶対に立ち入るなと祖父から強く厳命されている私は、最早好奇心でそこにフラッと入るような愚は犯さない。


……まぁ、何度も懲りずに立ち入った結果、私が扱えるいくつかの工具(使い古したもの)を投げ捨てるかのように渡されたのだが。


真ん中の部屋(部屋というより通路的な感じだが)の隅には、それらのマイ工具と小さな作業台が置かれてある。



そして、この真ん中の部屋の両端の壁には、セメンサで十二技師と讃えられる祖父の作品ーーーー『駆動鎧(バトルメイル)』が並べられていた。



駆動鎧とは、簡単に言うと、前世におけるパワードスーツのようなものである。


その形状は中世ヨーロッパにおける西洋甲冑を思い浮かべていただければ分かりやすいだろうか。

とにかく、人がそれを着用し、身を守り、戦うための防具である。


しかし、本来防具としての機能しか持たないそれを、この世界の住人たちは前世における最近技術が組み込まれたパワードスーツばりの身体能力向上機能を持たせるまでに昇華させた。


それが、この駆動鎧(バトルメイル)なのである。


「やっぱり、カッコイイよね。師匠の作品は」


気付かない内に後ろに立っていたカナンさんが呟く。


振り返ると、その表情は、まるで少年のように輝いていた。


「僕も師匠に次ぐ、……いや、いつか師匠以上の駆動鎧を作り上げて、みんなの役に立ちたいよ」


「カナンさんなら、できますよ」


「ははっ、本当にライナス君は大人びてるな。なぜだか、昔の友人と話している気になるよ」


まぁ、中身は40前のおっさんなのでね。


「ただ、まだライナス君がこれを着ることは出来ないなぁ。それとも、僕と一緒に工匠を目指す?」


「あぁ、私はーーーー」


「ーーーおいカナンッ!!何くっちゃべってやがる!!貴様ぶん殴るぞ!!!早く資料持ってこい!!!!」


「はっ、はいぃッ!!申し訳ございません!!!」


雷のような怒声と、嵐のように奥の部屋に飛び込んでいくカナンさんの後ろ姿を見送り、私は作業台へ向き直る。



前世から自分が夢中になれることを探し続けてきた私であったが、今世で最初に見つけた一縷の希望はこれであった。



駆動鎧をこの手で作り上げる……のではない。



私はこれを利用して、この世界を旅してみたいのだ。

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