「02」 車掌の女の子は〇〇〇 〇
「―――――くさん! お客さん! 起きて下さい! ま、まったく、なんて格好してるんですか!」
遠くから声が聞こえてくる。
女の人の声だ。
(何故かはわからないが相当焦ってるな。)
起きようとしても意識が朦朧としていて、何も見えない。
(どうしよう...)
「お客さん! とりあえず服くらい着てください! 襲われたらどうするんですか!」
またあの声だ。
(え、俺裸なのか? ていうか、「襲われる」?... 俺は男だぞ。)
何とか手は動かせる。
暗闇の中、手探りでこの状況を理解しようとした。
(ああ、頭ん中がもやもやする。)
「ひゃっ!...」
誰かの酸っぱい声と同じくして、ふいに何かが手に当たった。
良く触ってみる。
「----っ!!!」
(柔らかい... 餅か? っていやいや、何で俺はこの状況でそんなもの掴んでるんだ。)
大きさはリンゴくらい...
(リンゴと餅... リンゴ餅?)
「って! さっきから何をやっているんですか、あなたは!」
びっくりして俺はリンゴ餅から手を放す。
そして、時同じくして、俺の意識は現実へと引き戻された。
目の前には先ほどの声の主と思しき女の子がいた。
歳は高校生くらい。
電車の乗務員の制服を身にまとい、編み込みの黒髪で、すらりと長い脚。 出る所は出て引っ込むところは引っ込んでいる。
赤みがかったオレンジ色の目は、辱めを受けているように潤み、俺へと向けられていた。
「あ、あの、どうかしました?」
「どうかしましたじゃないです! まったく。」
「あれ、そういえばリンゴ餅は? どこいった?」
「どこにも行ってません! 人の胸を勝手に触っておいて、おまけにリンゴだとか餅だとか言い放題言って!」
そういうと彼女は、両手で胸のあたりを隠した。
そこで俺は悟った。
「あ... いや、そんなことするつもりは... なんかすみません!」
俺はめいっぱい頭を下げた。
(もうこの状況は痴漢じゃないか。 転生していきなり務所送りはごめんだ。)
「はぁー... ま、いいです。 女の子同士ですから。」
(許してくれたはいいが... 女同士? どういうことだ?)
「何言ってるんですか。 俺は女なんかじゃありませんよ。」
「お客さん、まだ寝ぼけてるんですか? さっさとこれ着てください。」
彼女はそういうと、ジャージの上着を俺に差し出した。
ほのかにいい匂いが鼻腔をくすぐる。
「あ、ありがとう...ございます。」
袖に腕を通そうとして、ふと気が付いた。
胸に大きな山2つ...
そして股の間には... 無い...
「あ、あの、乗務員さん、ちょっといいですか。」
「はい、なんでしょう?」
「えーっと、俺に... あるべきものが無くて、無いはずのものがあるんです...」
「...え...?」
彼女は黙ったままだ。
確かにこんなこと言われたら、意味が分からなくなるのも無理はない。
必死に俺が何を言いたいか理解しようとしているようだった。
彼女と同じく俺もフリーズしてしまった。
何がなんだかさっぱりだ。
(なんで、女子の体になっている? 資料にはそんなこと...」
気づいた時にはもう俺は、電車を出て改札に猛ダッシュしていた。
「え、あっ! お客さん!」
乗務員の彼女は、手を伸ばして呼び止めようとしていたが、俺は走り続けた。
端的に申します。
「主人公、性転換しました。」