06
■06■
星明かりが降り注ぐ夜明け前の道を、三人で歩く。
夕貴は勇気とふたりで、クリストファーを病院の入り口まで送り届けた。
見知らぬ街の、見知らぬ病院へ。
「じゃあクリス」
彼と別れの握手をしながら「しっかりお別れをしてね」と言うべきなのか。それとも「頑張ってね」と言うべきなのか。夕貴は迷った。
――頑張るって、何をだろう。こう言う時って何を言ってあげればいいの。
焦る夕貴の隣で勇気は、現実的な事をクリスに告げる。
「お前、ちゃんと手続きして帰国したわけじゃないし、マトモなルートじゃ日本には戻れないんだからな」
「わ、分かってるよぉ。葬儀が終わるまでふたりは、あの城で待つ? それともこの国を観光する?」
「一度帰るよ。また迎えに来てやるから、戻る日時が決まったら連絡して来い」
「うん、ありがと」
クリストファーは薄く微笑んだ。
「ねぇユキちゃん、ユウくん。次、もし僕が帰国して、一族の行事に参加しなければならない時」
「ああ」
――なんだろ? 飛行機代浮かせたいの?
そんなセコい人間ではないはずだが。
「ふたりも一緒に来て欲しいと思ってる。僕の、大切な人として」
その言葉に夕貴の呼吸は止まった。
が、隣に立つ勇気は軽くフリーズしているようだった。
「じゃあ行って来るね」
クリストファーは扉の向こうへと消え、後にはふたりだけが残された。
「あの……ゆうちゃん?」
勇気の頬がピクピクと震えている。そして低い声で言うのだ。
「あいつ……やっぱそのうち、思い知らせてやらなきゃならないみたいだな」
――おっ思い知らせるって、何をっ? まさか、ぶん殴ってっ?
「〈いい奴〉だからって、結婚相手に選ぶとは決まってないって事だっ」
――〈いい奴〉だとは、認めてるのか。まぁ、そうだよね。はは。
「まぁまぁ、そんな怯えないでよ」
「だっ誰が怯えてるって?」
「私、ゆうちゃんが納得出来ないような相手とは、結婚しないよ。だから安心して」
「そ、それもそうだな……そりゃそうだ」
「同一人物なんだもん、私達」
「そうだな、そうだよな。あぁ、そうだった」
深いため息を吐く勇気。
「私、ゆうちゃん以上に好きになれる男の子って居るのかなぁ?」
「……あ?」
「難しいよね」
「え? ……あぁ、まぁ、そうかもな」
「だけどもし、そう言う人が現れた時。……仲良くしてよね」
勇気は思い切り苦そうな表情を浮かべた。
「そいつがクリス以上か、クリス以下か」
「ゆうちゃんの基準って、クリスなんだ?」
「仕方ないだろ、今のところあいつしか候補が居ないんだし」
「そうだねー。ゆうちゃんごとお嫁さんにしようだなんて、クリスだけだよねぇ。今のところ」
「とにかく。あいつ以下のヘンな男はお断りだからな」
「はいはい。私にはゆうちゃんが居るんだから、ヘンな男なんか選ばないよ」
「そうしてください」
「うん……ふふっ」
「んだよ」
「ゆうちゃん、可愛い」
「はあぁ?」と怒り叫ぶ勇気から、夕貴は逃げた。
見知らぬ街を、ふたりで走り回る。
異国の街は寝不足の視界で不思議に煌き、妙な開放感があった。お洒落なデザインの街灯が、意識の中でゆらゆら揺れる。
もしかしたらいつか、自分と勇気はこの国のどこかで暮らす日が来るのかも知れない。来ないかも知れないけれど、来ないとは限らない。
ただひとつ、確かな事は。
将来。
どこで誰と暮らそうと、自分の傍には、中には、いつだって勇気が居てくれる。
走り回っている今・この瞬間みたいな、楽しい時が続けばいい。
――もちろん続くよね。だってゆうちゃんは最後の瞬間までずうっと一緒の、私の分身だもん。
・ おわり ・




