04-3
廊下の突き当たりに階段ホールがあった。
「僕、地下なんて物置だとしか思ってなかったなぁ」
「ま、普通そうだろ。現代なら駐車場やオーディオルームでも造るんだろうけど、昔じゃな」
「古いもんねぇ」
「そうだな」
クリストファーが勇気の背中にくっ付いて来て、恐る恐る階段を下っている。
階段には照明が灯っていない。
探せばどこかにスイッチはあるのかも知れないが、別にここで生活するわけでもない。
その存在を知らなくても、とりあえず今、下りられればいいのだ。
勇気は借りた懐中電灯で足元を照らしながら、サクサクと降りてゆく。
「さっきのばーちゃんの話、お前初耳だったの?」
「うん。もしかしてお祖母様、ユウくんを待ってたのかな」
「さぁなぁ。お前が俺の部屋に泊まってなければ、別の行動を起こしてたんだろうし。偶然じゃね?」
「かなぁ」
「どうでもいいよ」
「……そうだね」
階段を降りきって、地下の廊下へと立つ。
どことなく湿気ていて、少し寒い。
「ヘンだと思ったんだ」
「え?」
「だってここ、結構暖かい島国じゃん。サンルームなんてわざわざ造るかな? と思ったんだけど、地下からこれだけ陰気な空気が漂ってるなら、陽の光を欲する心理も分かるから」
「緯度は九州くらいだけど、気候が違うよね。でも、言われてみればそうだね。あれ? だけどこの陰気って、お祖母様のお兄さんのものじゃないって事?」
「似た気配に引っ張られるって事はあるんじゃないか?」
「あぁ、そうか。元から土地に〈有った〉って事かな」
「お前のばーちゃん、見える人?」
「さぁ……そんな話はした事がなかったと思うけど」
「なんだ。相談とかしてたわけじゃないのか」
「うん。僕、誰にも言った事はないと思う」
「ならお前、相当悩んだな?」
「悩んだよ。小さい頃は多分、家族の誰かに訴えたりしてたとは思うけど、きっと煩わしそうにあしらわれたりしたんだろうね」
「拒絶に近い反応を返す相手に食い下がり、訴え続けられる人間じゃないもんな。お前」
クリストファーは恥ずかしそうにクスッ、と笑った。
「もしばーちゃんが見える人で、兄ちゃんが〈引っ張られてる〉と考えてるなら、確かに未練を残す事になるなぁ」
「初めての恩返しが出来る、かな」
「お前次第だろ」
「そだね。ユウくん、よろしく」
勇気は「ははっ」と笑い、クリストファーの頭を平手で二度、ばさばさと抑えた。「分かった、分かった」とでも言うように。
地階は確かに、物置として使っていたのだろう。
扉は廊下にいくつもあるが、頻繁に利用していた形跡は無い。
一階に比べ、経年劣化や汚れが酷かった。蜘蛛の巣なんて至る所にあるようだ。
人が最後に足を踏み入れてから、どれくらい経っているのか分からないレベルである。
このフロアは無機質に通路が存在し、部屋が区切ってあるようだ。
電灯に照らされた箇所だけがぼんやりと姿を現しては、闇の中へと消えてゆく。
同じような通路と扉の連続は、自分の位置すら見失いそうになる。
これが夕貴なら、もう二度と戻れないと泣くのではないだろうか。
――やっぱあいつ連れて来なくてよかった。
夕貴は、地図で確認した挙句、道に迷うような子だ。
ゲームのダンジョンですら嫌っている。頭が痛くなる、とか言って。
ボンヤリと夕貴の事を考えていた時、不意に違和感に襲われた。
それに気付いたのか、背中にクリストファーがくっ付いて来た。
「ゆ……ユウくん」
「あぁ、そうだな。あの扉の向こう、だな」
言うと同時に勇気は、クリストファーの腕を掴みダッシュした。
異様な雰囲気の扉に向かって。
「あ……わ……ゆ、ユウくんっ!」
案の定、クリストファーの身体が抵抗しようとする。
スピードを殺そうと身体を傾けるし、こうやって引っ張らないと足も動かさないだろう。
怯えているのだ、それは分かる。
けれどムダに時間を使ったところで、クリストファーから恐怖心は消えやしない。
扉を開け、対面する方が気持ちが据わると言うものだ。
未知の存在だから怖いだけで、対面してしまえば〈違う感覚〉に取って代わる。
それがプラスの感情なのか、マイナスの感情なのかは分からない。
だが、ただ怯えているだけの状態よりはマシだ。
「ばーちゃんの兄ちゃんだろうが!」
「そうは言っても、言っても、さ……!」
「いいから突っ込むぞ!」
勇気はトップスピードに乗ったまま、その部屋の扉を開けた。
鍵が掛かっているだろうなとか、錆びて開かないかも、だなんて考えはしなかった。
開くと思えば、開く。
「お前が俺に教えたんだからな……晴れの日だって構わず出て来ればいいのにって!」
「えっ?」
扉の奥には仄かな明かりが灯り、その傍には男が座り込んでいた。




