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Twin drop  作者: あおい
04
18/25

04-3


 廊下の突き当たりに階段ホールがあった。


「僕、地下なんて物置だとしか思ってなかったなぁ」


「ま、普通そうだろ。現代なら駐車場やオーディオルームでも造るんだろうけど、昔じゃな」


「古いもんねぇ」


「そうだな」


 クリストファーが勇気の背中にくっ付いて来て、恐る恐る階段を下っている。


 階段には照明が灯っていない。

 探せばどこかにスイッチはあるのかも知れないが、別にここで生活するわけでもない。

 その存在を知らなくても、とりあえず今、下りられればいいのだ。


 勇気は借りた懐中電灯で足元を照らしながら、サクサクと降りてゆく。


「さっきのばーちゃんの話、お前初耳だったの?」


「うん。もしかしてお祖母様、ユウくんを待ってたのかな」


「さぁなぁ。お前が俺の部屋に泊まってなければ、別の行動を起こしてたんだろうし。偶然じゃね?」


「かなぁ」


「どうでもいいよ」


「……そうだね」


 階段を降りきって、地下の廊下へと立つ。

 どことなく湿気ていて、少し寒い。


「ヘンだと思ったんだ」


「え?」


「だってここ、結構暖かい島国じゃん。サンルームなんてわざわざ造るかな? と思ったんだけど、地下からこれだけ陰気な空気が漂ってるなら、陽の光を欲する心理も分かるから」


「緯度は九州くらいだけど、気候が違うよね。でも、言われてみればそうだね。あれ? だけどこの陰気って、お祖母様のお兄さんのものじゃないって事?」


「似た気配に引っ張られるって事はあるんじゃないか?」


「あぁ、そうか。元から土地に〈有った〉って事かな」


「お前のばーちゃん、見える人?」


「さぁ……そんな話はした事がなかったと思うけど」


「なんだ。相談とかしてたわけじゃないのか」


「うん。僕、誰にも言った事はないと思う」


「ならお前、相当悩んだな?」


「悩んだよ。小さい頃は多分、家族の誰かに訴えたりしてたとは思うけど、きっと煩わしそうにあしらわれたりしたんだろうね」


「拒絶に近い反応を返す相手に食い下がり、訴え続けられる人間じゃないもんな。お前」


 クリストファーは恥ずかしそうにクスッ、と笑った。


「もしばーちゃんが見える人で、兄ちゃんが〈引っ張られてる〉と考えてるなら、確かに未練を残す事になるなぁ」


「初めての恩返しが出来る、かな」


「お前次第だろ」


「そだね。ユウくん、よろしく」


 勇気は「ははっ」と笑い、クリストファーの頭を平手で二度、ばさばさと抑えた。「分かった、分かった」とでも言うように。



 地階は確かに、物置として使っていたのだろう。

 扉は廊下にいくつもあるが、頻繁に利用していた形跡は無い。


 一階に比べ、経年劣化や汚れが酷かった。蜘蛛の巣なんて至る所にあるようだ。

 人が最後に足を踏み入れてから、どれくらい経っているのか分からないレベルである。


 このフロアは無機質に通路が存在し、部屋が区切ってあるようだ。

 電灯に照らされた箇所だけがぼんやりと姿を現しては、闇の中へと消えてゆく。


 同じような通路と扉の連続は、自分の位置すら見失いそうになる。

 これが夕貴なら、もう二度と戻れないと泣くのではないだろうか。


 ――やっぱあいつ連れて来なくてよかった。


 夕貴は、地図で確認した挙句、道に迷うような子だ。

 ゲームのダンジョンですら嫌っている。頭が痛くなる、とか言って。


 ボンヤリと夕貴の事を考えていた時、不意に違和感に襲われた。

 それに気付いたのか、背中にクリストファーがくっ付いて来た。


「ゆ……ユウくん」


「あぁ、そうだな。あの扉の向こう、だな」


 言うと同時に勇気は、クリストファーの腕を掴みダッシュした。

 異様な雰囲気の扉に向かって。


「あ……わ……ゆ、ユウくんっ!」


 案の定、クリストファーの身体が抵抗しようとする。

 スピードを殺そうと身体を傾けるし、こうやって引っ張らないと足も動かさないだろう。


 怯えているのだ、それは分かる。

 けれどムダに時間を使ったところで、クリストファーから恐怖心は消えやしない。


 扉を開け、対面する方が気持ちが据わると言うものだ。


 未知の存在だから怖いだけで、対面してしまえば〈違う感覚〉に取って代わる。

 それがプラスの感情なのか、マイナスの感情なのかは分からない。


 だが、ただ怯えているだけの状態よりはマシだ。


「ばーちゃんの兄ちゃんだろうが!」


「そうは言っても、言っても、さ……!」


「いいから突っ込むぞ!」


 勇気はトップスピードに乗ったまま、その部屋の扉を開けた。


 鍵が掛かっているだろうなとか、錆びて開かないかも、だなんて考えはしなかった。


 開くと思えば、開く。


「お前が俺に教えたんだからな……晴れの日だって構わず出て来ればいいのにって!」


「えっ?」



 扉の奥には仄かな明かりが灯り、その傍には男が座り込んでいた。

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