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Twin drop  作者: あおい
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■00■


 期末テストが終了し、開放感に溢れながら友達と下校をする。

 七月の陽射しを浴び、四人の少女達は裏庭の歩道を楽しげに歩いていた。その他大勢の生徒達に紛れて。


「駅地下に出来たジェラート行ってみたいかも」


「あたしはねぇ、繁華街にある台湾のお店がいいッ」


「いいねぇ~、雪花冰食べたいな。食べると心が天使になっちゃうよねアレ」


 打ち上げの話である。まもなく校門を出てしまうと言うのに、まだ行き先が決まっていなかった。


「夕貴はどこか行きたい所ある?」


 そう問われた少女がハッとして顔を上げる。


「私は、美味しければどこでも」


 嗣岡夕貴つぐおかゆきは、苦笑いを浮かべた。


 とりあえずテストから解放されたのだから、いつもならこのメンバーと同じくらいには元気を取り戻している――はずだった。


 だが、どうもひとりだけ様子が違う。


「今、ナニか別の事考えてたっしょ~」


「え? もしかしてテストの出来が悪かったのぉ?」


「そっそれはっ、いつもと同じで普通だったもんっ」


 顔が赤くなるのを感じた。夕貴は確かに、勉強が好きなわけではない。

 けれど今考えていた事は本当に、それとは違ったのだ。


 ニヤニヤした三人に取り囲まれ、夕貴はたじろいだ後、ため息を吐いた。


 ――いいや。どうせ後で相談するつもりだったんだし。


「ミサちゃ……従姉がね、来月披露宴するの。ウェディングベールにドロップ付けるの頼まれてて、そのデザインの事考えてた」


 三人が「えーっ!」と声を上げる。


「すっごいねぇ! 夕貴ちゃんのドロップ、綺麗だもんねぇ。頑張って!」


「いい結婚のお祝いじゃん~、ガンバれ」


「ベールだけ? ティアラは?」


「い、いやさすがにそこまでは」


 ベールに散りばめるだけより、ティアラは遥かにハードルが高い。高すぎる。


 自分が使うのならともかく、親族の御目出度い披露宴に、そこまで手出しをする気はなかった。


 しかし、ティアラに憧れていないわけではない。

 女の子なら誰だって好きだと思う。


 だが、それとこれと話は別だ。

 自分は装飾品デザイナーなどではなく、普通科に通うただの高校生でしかないのだから。


「だからね、自宅のフェイスタオルに幾つかデザインを施してみたんだけど、食べながらでいいから見てくれないかなぁ。女の子目線の感想が欲しくて。そこからまた考えてみたいし」


「持って来てるの?」


「うん」


「売ってくれてもいいよ?」


「は?」


「いっそ商売にしちゃえばいいのに。夕貴と同じドロップ使ってるのなんて、他に見た事無いしさぁ」


 それはそうだろう、と夕貴も思う。

 自分の使うドロップは、どこかで売っているビーズやラインストーンではないから。


 ――ドロップはオリジナルと言えば完全にオリジナルだけど、材料費タダだしな。それに素人の私が、お金は取れないよ。


 相手がいくら友達でも、ムリだ。

 確かに将来的に、小遣い稼ぎが出来れば嬉しいと思ってはいるけれど。


 ――材料の美しさと技術力は、別だからなぁ。


 自分はお金を取れるほどではないと、自覚している。

 市販のアクセサリーパーツにドロップを好きなようにくっ付け、遊んでいるのが今のレベルだ。


 でもまぁ確かに、大量生産品では見かけないような品に一応は仕上がるので、女性受けはいい。

 だから従姉のミサからも今回の話をもらったのだ。


 ――他の人に使いこなせる素材じゃない事は確かだし。材料として売り飛ばす事も出来ないもんね。


 趣味でウハウハ大儲け、と言うのは漠然とした、まだまだ先の話だ。

 今は普通に、自分で地味に楽しむのみである。


「おい、夕貴」


 背後からの声に、気持ちがギクリと反応した。

 友達は夕貴より素早く身体を翻し、彼を歓迎する。


 そこに姿を現したのは自分達より少し背の高い、同じ学校の制服を着たひとりの男子だった。


勇気ゆうきくんだぁ~」


「夕貴ちゃん、彼氏だよ、彼氏っ」


「彼氏じゃないって!」


 夕貴は慌てて否定する。


「彼氏じゃねーよ。夕貴は俺の分身だって、何度言えば分かるのお前ら」


 勇気と言う名の少年は、真顔で言った。友達が「ひゅー」と囃し立てる。


「ゆ、ゆうちゃん……」


 その言い方では、余計に誤解されるのに。


 確かに彼は、夕貴の分身だ。

 それ以外に言いようはない。


 でもそんな事、他の人には伝わらない。

 こんなの、言って理解してもらえる事ではないのだから。


 単なる友達、いや、親戚とか言えばいいのに。最近では一緒の家に〈住んで〉いるのだし。


 なのに勇気がこんな言い方をするから、彼氏認定されている。

 もうどんなに言い訳しても覆らない。

 みんな、そう信じてしまった。


 一応、勇気だって否定はしてくれるのだが、それが〈分身〉だなんて言葉では、余計に誤解されるだけだ。


 ――もっと他に言い方があるのにな。事情があって一緒に住んでる親戚とか、さ~。


 分身だけあり、夕貴と勇気の顔の作りはほぼ同じである。

 なのに、なぜにみんなからは他人と思われてしまうのか。


 男子と女子では、例え同じ顔でも与える印象が違い過ぎると言う事だろうか。


 ――まぁ、性格違うしなぁ。性格が違うと言う事は、表情が違うって事だしなぁ。性別も違うしなぁ……だから私達は〈分身〉なんだけど。


「はいはい、仲がいいのはもう充分知ってるから。勇気くんもこれから打ち上げ一緒にどう?」


「ちょっと、ココハちゃん止めてよ。今日は女子会なんがたら、ゆうちゃん遠慮して」


「遠慮するのはいいけど、俺も甘いの食いたい。何からのおみやげを期待する」


「……え」


 ――誰のお小遣いで? もしかして私? 私のっ?


「どうせお前、ベールの事でミサから小遣い入るだろ。お前のドロップの半分は〈俺の手柄〉だからな」


 ――それを言われると、否定出来んぅ。


「てか半分どころか、ほとんど俺の手柄だけど」


 反論出来ない。


「分かりました」


「素直でよろしい。それでこそ俺の夕貴」


 ――だから他の人の前で、そう言う言い方、止めてってば。


 勇気はいつも、夕貴を肯定してくれる。

 褒めてくれるし、好きだと言ってくれる。


 けれどそれは彼が、彼自身に告げているのと同じ事だった。

 彼は、自分自身を好きなのだ。

 自身を肯定している。


 ――何と言う自信家……いや、それがいい事なのは分かってるけどさ。


 自分自身を信頼している、その強い気持ち。

 それを垣間見るたび、夕貴は彼が羨ましくなる。


 ――あの自信、どこから来るんだろう。


 分身でありながらこんな気持ちになってしまう自分が、少し可哀想な気がした。


 ――出来のいい兄弟が居る平凡な子って、きっとこんな気分なんだろうなぁ。


 兄弟どころか、相手は自分の分身だ。非常に複雑な気分である。


「で、結局みんな雪花冰でいい?」


「いいーっ。大好き、嬉しい、楽しみ、早く行こー!」


「たーいわん、たーいわんっ。いつか本当の台湾に旅行するーっ」


「みんなで行こうねー」


「ねーっ」


 みんなの表情から、ハートがスプラッシュしまくっている。


 ――台湾は美味しいものがいっぱいあって、日本人にとってはいい国だよね。


 行き先が決まるのとほぼ同じタイミングで、校門を出た。


 ――ん?


 するとそこには、こちらに背を向けた女子生徒の群れが壁のように出来ており、ちょっと異様な雰囲気が漂っていた。

 みんな同じ方向を向き、ヒソヒソと声を殺し、囁き合っている。


「え、ナニどうしたの」と友達のひとりが女子の垣根に近づき、彼女達の背後で数回ジャンプした。


 すると彼女は「ヒャッ」と妙な高音を漏らした。そして着地した後、こちらを振り返る。


「みんな、クリストファーだっ」


 中学時代の同級生、が脳裏を過った。

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