ナゾナゾ
『せんぱぁ〜い! ココです〜』
「おお〜う」
平日夕方、駅近くのファミレス「シャイゼリア」
『急に呼び出してしまってすみません(^^』
「すみません、って顔じゃねぇなぁおい(笑」
『あれ? 今日は一人ですか? え? え?』
「いや、そりゃ相方といえど、こっちはもう卒業して現場出てんだ。いきなり呼び出されりゃ二人揃わない事もあるよ」
『……おお、本当にすみませんでした』
「良いよ、大丈夫だ(^^ それに、変わらずお前達も仲よさそうで安心したよ」
『もちろんですよ! 僕達も先輩みたいに社会に出て、立派に沢山の人達の役に立ちたいですから!』
「ありがとう! で? 相談ってのは何よ? どうした?」
彼等は現代社会で「とある特殊な」役割を担う存在
しかし「あまりにも日常に溶け込み」存在している為、誰もが彼等の恩恵に気付く事すら無く日々を繰り返して生きている
そんな「裏舞台の主人公」である彼等にも、悩みがあり、苦しみがあり、そして、物語はあるのだ
多分……
『いや……もう学校を卒業して現場で活躍する先輩に、その現実と言うか……リアルを教えてほしい、と言いますか……』
「なに? 何があったの?」
『ぶっちゃけ、僕達って「底辺」じゃないですか』
「……んーーーー……底辺か。んーーーー……確かに底辺っちゃあ底辺だけど、考え方、かなぁ?」
『だって、絶対に僕達は上に行く事は出来ない。花形の職でもない』
「そこはそうでも無いと思うよ? 確かに上には行けない。でも、俺達にしか出来ない仕事だからさ。それに、そんな事は百も承知で学校に入ったんだろ?」
『そうですが……』
どこかモジモジと、何となく話の真に迫らない感じの後輩
ああ、そうか……もう寒くなる季節だ「アレ」が始まったのか……
「実務訓練、始まったんだな?」
もともと地黒な顔の後輩二人の顔が、少し紅く染まる
「やっぱりねwww」
『すみません……座学では、確かに僕達の仕事は特別で、とても歴史のあるモノで、誇りを持って職務を全うする事の喜びを感じ、学びました……しかし……』
「実際に「ヤル」事と、ただ「知っている」事は、地図を見る事と、その道を自分の足で歩く事、くらいの違いがあるんだ」
『!?……』
「そうだね……確かに俺達は底辺で、しかも「汚れ」だ」
『はい……実際、訓練ですらあのレベル……我々が下に着いた方に寄るとは言え、たった数回の訓練で体に穴が空く事もあります……尋常ではない痛み……それが毎日毎日……気が狂いそうですよ……』
「それはあくまで「穴空き」の訓練だからな。上の人間達もそんな奴達ばかりじゃない」
『それに……その……とにかく「臭い」人間も多くいます。身体にその臭いが着くと中々取れなくて、洗っても洗っても……』
「昔はもっと多かったよ、それは。今はもうかなりマシよ?」
『実際、本当の所どうなんですか? 我々は本当にこのままで良いのでしょうか? 革命でも起こしてやりたくなります』
「革命かwwwうん、まぁ分かるよ、分かる。でも、まさか俺達が手に武器を持って戦えるか? 団体を組んで、皆で戦う事が出来るか?」
『……』
「そう、不可能なんだよ。俺達にはそれが出来ない。戦う事は出来ないんだ。しかし代わりに「守る」事は出来るんだ」
『……』
「納得出来ねぇ、って顔だな(笑」
『……』
「後輩……「戦う」事が出来ない俺達は負け犬か? 違うだろう? 生きていると「出来る事」より「出来ない事」の方が圧倒的に多いんだ」
『分かっていますよ、そんな事は……』
「いや、分かってないね。いいか? 「守る」ばかりの俺達が出来る「戦い」ってのも在るんだよ。それはな「絶対に守る」という「戦い」なんだ。体に穴が空こうとも、臭くなろうとも「絶対に守る」それが俺達の「戦い」だ」
『……でも、そんなの……まるでサンドバッグですよ! 殴られて殴られて殴られて……それでも殴られる……』
そうだよ……そうだ、後輩よ……分かってるじゃねーかよ……
「お前、そのサンドバッグさん、カッケーなって思わないか?」
『!?』
先輩に……この先輩に、相談して良かったと本当に心から思う……
「お、おおいおい、泣く事ぁねぇじゃねぇか」
『……だって……だって……』
「どんなに殴られても、絶対に「殴り返さない」そんな「戦い」も在る……立派だろーが! カッケーだろうが! ……サンドバッグに殴られた、なんて事件が過去、一度でも存在したか? 存在しない。そこがサンドバッグさんの「決意」さ……サンドバッグで殴られた人はいるかもしれねーが、それはサンドバッグさんが使われただけでサンドバッグさんとは関係ない」
『……すみません……涙が止まらなくて……』
「バカヤロウ……俺達が泣いてどうする。上の人間に涙を流させないのも、下の俺達の「戦い」だ……その俺達が泣いてちゃ」
『あ、でも「そこ」なんですよ……実は』
「ん?」
『我々は確かに底辺に生きる存在ですが「下」では「絶対に無い」ですよね? 絶対に「下」ではない』
こいつ……まさか「そこ」に気付くとは! ……確かに俺達は底辺の存在だ……しかし「下」では決してない! 絶対に!
さて「ナゾナゾ」です
「彼等」は一体何者でしょう?
私は昔から……「彼等」の「その名」を知った時から、ずーーーーーっと「絶対に違う」と、思っていました
「……初めてだよ……「そこ」に気が付いた奴は……多分、俺以外ではな……」
『我々は確かに底辺ですが「下」では絶対に無いですよね!? むしろ「中」……その「中心」的存在だとしか思えない! のです……』
「それはな、確かにその通りで、俺も声を大にして叫びたい事だったよ……」
『ですよね!? ああ、本当に先輩に相談して良かった……やっと分かってくれる方に出会えた……』
「俺達は、絶対に「下」では無い。それは間違いない。全ての存在に「上、中、下」は存在する。それは仕方のない事だ。学歴、年収、地位……全てに置いて「上、中、下」は存在していて、それだけは本当に、仕方の無い事ではある……が、お前達の言う通りだ。俺達は、絶対に「下」ではない!」
『我々は!』
「そうっ! 決して「下」ではない! 「中」だ!」
『しかし……』
「うん……」
『くつ中……って……』
「なぁんか変だよね……」
『はい……』
「やっぱ……俺達は「くつ下」か……」
『絶対に「中」ですけどね……』
「ね」