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協力

  「魔女が動き出したぞ!」


  魔獣と化したハムと闘う闘士たちの声だ。


  「ウラ、今説明した通りだ。いいな」


  さっきまでとは違い力のこもった瞳が俺を見返した。


  「グラチェーーーー」


  数秒後、塔の近くで結界を張るために力を貸していた風の聖霊精獣のグラチェが駆けてきた。きっとアムが酷いダメージを負ったことはわかっていたはずだが、自分に与えられた任務をまっとうするために我慢していただろう。心配げにアムの頬に鼻をすり寄せている。


  「アムがこんな風になったのはあの魔女が原因だ。お前はヘルトと一緒に奴と闘ってくれ。陰力による強力な呪いがあるから気を付けろ」


  グラチェは魔女に視線を向けて牙を剥き出して低く唸る。


  魔女は闘士たちをおちょくるように現れては消え、現れては消えを繰り返し、ハムの肩に乗って妖々しくい体をすり寄せた。


  「ヘルトー」


  後ろから声を掛けると視線を向けずに聞いてくる。


  「ダイナーさんの容体は?」


  「大丈夫、もう命を落とす心配はない」


  「そうか、良かった。こっちは魔女が動き出して厳しい事態になってる」


  「そのことで提案があるんだ。ヘルトたちに魔女を引き付けてもらいたい。その間に俺とウラで仙人様を助ける」


  「仙人様を助ける? そんなことができるのか?」


  一瞬だけ俺を見て聞き返した。


  「やってみなければわかないけど、俺たちは助けたいと思ってる」


  「その鎧、そうか話にあった奇跡の鎧だね」


  「あぁ、これがあればこその提案だよ」


  「わかった、僕たちも魔女と魔獣を同時に相手にするのは厳しすぎる」


  「呪いに耐性が高いグラチェは魔女の相手をしてもらうから、仙人様の方に気を引く程度だけ人を残してもらえると助かるんだけど」


  ヘルトは頷くとすぐに指示を飛ばした。


  「エイシュ、ガドー、シルドさんは魔獣の相手を。深追いせず気を引けばいい。残りは魔女を狙う。サウス、ノーツ、オウケンさんは前衛に」


  ヘルトの跳躍を合図に戦闘は再開した。


  「ウラ、やるぞ」


  「はい」


  俺とウラは力強くお互いの手を握った。



     ※※※

 

 

  「俺たちで仙人様にかかった呪いを解くんだ」


  「強力な魔女の陰力にまみれた力を取り込んでしまったハムにゃんをどうやって?」


  数分前。アムの奇行によって魔女を討ちそこなった上に、相棒のハムが魔獣化したことで万策尽きたと気力を喪失したウラ。そんな彼女に対して俺はハムを助ける可能性があることを告げた。


  「あれほどの強力な呪いを解くには輝力の量も輝力の純度も足りません。私の溜めてきた力を使えば破呪をおこなうことはできたでしょうけど……」


  俺の提案にウラは消極的だった。


  「大丈夫、その力は俺がなんとかする。でも解呪の法術自体はまだまだからっきしだから、それはウラがやるんだ」


  疑問めいた顔で俺を見るウラに説明を足す。


  「向こうの塔でウラが破呪の力を使ったとき仙人様と手を繋いでいたじゃないか。あれは仙人様が力を集めてウラが術を使ったんだろ? ようはあれと同じだ。俺が輝力を増幅強化するからウラは解呪に専念してくれ」


  「あなたひとりであの強力な呪いに対抗するというのですか?」


  絶対に無理だという声で聞いてくるウラに俺は絶対の自信を込めて返答する。


  「自慢じゃないが……、いや、自慢だけど俺の輝力の純度はイーステンド王国一だ。この奇跡の鎧は相手の輝力を蓄えて増幅させることもできる。だからその力で呪いに対抗する。あとはウラが仙人様に絡みついた呪いをほどくことができるかにかかっている」


  数秒の間を置いたあとに寄せていた眉根を寄せ直し、強い意志の表情で応えた。


  「わかりました、ご協力に感謝します」

 


    ***

 


  3人の闘士がハムを撹乱し、俺たちは後方に下がり術の用意をする。


  「ありがとうございます」


  「お礼の言葉はちょっと早いな。それは仙人様を助けてから聞かせてくれ」


  ウラの輝力を受けた俺は彼女の輝力を蓄えていく。本来なら自分の輝力が蓄えられているはずなのだが、人間に転生した時点であの頃のような莫大な輝力は保持されなくなってしまった。それはこれからの鍛錬で許容量を増やしていくしかない。だから、今はウラから流れてくる輝力を蓄え、それを目一杯増幅する。


  俺たちの企てに気付いた魔女が狂乱の表情でこちらを睨んだ。


  「させない」


  ヘルトたちが休みなく攻め立てて魔岩石のあった街の中心部の方へ押し込んでいく。


  ひとしきり暴れまわっていたハムが握った両腕を振り上げて地面に打ち付けると、大地が波打ち高波となって押し寄せてきた。


  「グレイテッド・ガイア・マウンター」


  ハムを牽制する法術士が俺たちの前で高波に対抗する山を築き上げる。山は波を突き破り左右に引き裂くが、その勢いに耐えきれず亀裂を走らせ崩れていく。


  「ダメだ、耐えきれない」


  「エアロ・バースト」


  そこに横から飛び込んできた闘士が押し寄せる土の波を破裂させたことによって、俺たちは飲まれずにすんだのだが、ハムの攻撃はそれだけでは終わらない。


  左腕を横に振り払うと黄緑色の光が三つ灯ってそれを風が包み込み鳥の形を成した。さらに右腕を振り上げると赤い光が三つ灯りそれを炎が包み込んで四足歩行の獣となった。


  「精霊幻獣です。魔獣となっても精霊を使役する力が使えるなんて」


  「うぉぉぉぉぉぉぉ!」


  ハムの叫びが幻獣たちをけしかける。


  ウラは腰に刺していた30センチほどのステックを引き抜いた。


  「ガイア・クレイト・ガーディアン」


  「ウァラー・ストリーム・スネーク」


  「ディバイン・バルテクト」


  3つの法術が続けざまに使われると、岩石の鎧を纏った土の騎士と激しい流水の竜が現れ、俺たちは白い光に包まれた。


  「私の精霊幻獣の力はハムにゃんには及びませんがこれでなんとか……」


  ウラによって呼び出された精霊幻獣はハムが呼び出した精霊幻獣と激しく交戦を始めるが、数もともかくあきらかに力負けしている。


  「そんなに甘くはありませんでした」


  力を取り戻した聖霊仙人のハムが陰力に飲み込まれて暴走しているのだから半端な力で抑えきれるはずはなかった。


  闘士たちも幻獣に翻弄されて自分たちを護ることで精一杯だ。


  「伏せろ」


  抑え付けたウラの頭の上を風の鳥が高速で通過する。


  「どっせーい」


  ウラの腕をひっぱって投げ飛ばした勢いで自分も地を蹴ったところに、ハムの拳が突き刺さり土砂を撒き散らした。


  「これじゃぁ集中できない」


  振り上げた拳が間髪入れず振り下ろされる。


  「ガイア・クレイト・ゴレイムズ」


  盛り上がった地面から3体の頑強そうな土人形が現れハムの拳を受け止めたが、1体の上半身は吹き飛んでしまった。もう1体は片腕を失いながらもハムの胴体に組み付いて押さえつける。


  体格は互角。損傷しながらも土人形2体はハムにのしかかって時間が稼いでくれている。


  「オーガス・スパイラル・アローラ」


  振り上げたウラの手から渦巻く炎の矢が放たれ空を舞う風の鳥を追い回し、風の鳥を1匹焼き落とした。


  「今のうちです」


  再び流れ込んできたウラの輝力を受けて溜めこんだ輝力を最大限に増幅しウラに渡し返す。握った手から、ウラがその輝力を錬成し解呪の法術を組み上げていくのが伝わる。


  今の俺には複雑すぎてとても組み上げられない解呪の上級法術はみるみる錬成されていき、ウラが発する煌々《こうこう》とした光が解呪の法術が完成したことを知らせた。


  「すごい輝力ですね、これなら解呪できるかもしれません」


  「それは元となるウラの輝力がすごいからだ」


  大格闘で土人形を打ち砕いたハムに向かって走り出すウラに引っ張られて足を回転させる俺の後方から、風の鳥がより強い風を纏って強襲してくる。しかし、俺もウラも法術発現の直前で迎撃できない。


  「バースト・ザンパクト」


  体当たり気味に飛び込んできたの闘士が風の鳥を撃ち落とした。自ら爆発に飲み込まれながら地面を転がり少々焦げた顔を上げる。


  「やぁラグナ君、ギリギリ間に合ったみたいだな」


  「トシさん」


  彼は俺たちがこの街に来て初めて会った東の街門の番兵だ。


  トシさんは立ち上がると炎の幻獣に苦戦する仲間を助けるべく駆け出した。その動きは速く力強い。サウスさんやノーツさんに大きく劣るモノではなかった。


  「あいつもなかなかやるだろ?」


  トシさんと同じく東の街門の番兵のタカさんが数人の闘士たちを引き連れてやってきた。


  「トシは闘技があまり得意ではないんだ。法術も風の法術が少し上手い程度でな。だからヘルトのように体術を必死で磨いてたんだよ。番兵だったからって弱いなんてことはないんだぜ」


  俺の内心を読んだような笑みを浮かべた。


  正直なところ彼が大きな戦力になるなんて考えていなかった。たかが街門を警備する番兵、軽い性格の若い闘士団見習い。そんな風に侮っていた自分が恥ずかしい。この街の人はみんなこのときのために努力を重ね、才能の壁などと言う見えない障害に負けずに力を蓄えてきたのだ。


  「よし、お前らの相手はあの妖魔もどきだ」


  「おう!」


  勇ましい掛け声で軽装重装の闘士たちが飛び込んでいった。

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