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開戦

  ラグナとがウラとハムと一緒にダイナー家で話をしていた頃……

 

     ***

 

  森の聖域に隠された研究施設の探索を終えて建物から飛び出したわたしは、事態が急転していることに気付いた。建物の中では感じなかったが、この聖域にも届くほどの陰力を街から感じる。


  「早すぎる」


  昨日の夕方に不完全とはいえ封印法術陣によって抑え込まれてた魔女が、一日と経たずにそれを破ろうとしている。


  「まずい、急がないと」


  ここの探索で一時間以上は使っている。いつからこんな状態になったのかわからないが、ラグナたちはもう向かっているはず。


  「ここまで徒歩で二時間強。急いだら一時間かからず戻れるか」


  わたしは深く茂る草木をかき分け、力強くそびえる大樹の間を横切り街を目指した。

 

     ***

 

  第二部隊に先導されて魔女が封印される魔岩石に向かうヘルトは、幾度かの妖魔との戦闘を繰り返して封印の塔へと到着した。四つの塔へと部隊を配備し、後発の補給部隊と精霊獣の到着を待つあいだも妖魔は湧き戦闘は続く。そんな中で彼はひとつの懸念を抱いていた。


  『昨日に比べて妖魔の湧きが少ない。封印の効力は昨日と同じくらい弱いのに』


  「妖魔の数が少ないな」


  補給部隊と一緒に到着したサウスが後ろからヘルトと同じ考えを口にした。


  「サウスもそう思う?」


  精霊獣たちはサウスが連れてきて、今それぞれの塔に配備してる。


  「うん、完了次第戦闘開始だ。みんなの頑張りのおかげで鉱魔青石にも輝力の充填が完了してる」


  「妖魔が少ないからって油断するなよ。おまえは病み上がりだ。それと前に出過ぎるな」


  「心得てるよ」


  ヘルトの優しい笑みは年齢より幼く見える。子どもの頃からヘルトを弟のように接してきたサウスは、英雄と呼ばれるようになった今でも少し過保護気味に気遣っていた。


  ドーン


  塔から精霊獣の配備が完了した信号弾がひとつ上がると、続けざまに3つの信号弾が上がった音が聞こえた。


  「よしみんな、これが最後の闘いだ。必ず成功させて家族の下に帰ろう」


  「「おう!」」


  「作戦開始!」


  ヘルトの号令を受けて部隊が四つの塔に囲われた魔岩石のエリアに突入した。


  塔の間隔は約七十メートル。その中心に魔女の封印の要となる巨大な魔岩石が屹立している。その塔が封印の効力を持続するための結界を張っている。グラチェを含む精霊獣を塔に連動させて精霊の力を増幅し、妖魔たちを少しでも弱体化させるのがこの作戦のポイントのひとつだった。


  「作戦プランCに変更。第二部隊は妖魔を牽制、主力部隊の補佐に徹しろ。数は少ないが手ごわい相手だ。ひとりでは絶対に当たるな」


  数は少ないが妖魔の体躯は昨日より一回り大きい個体が多い。その分強くなっていると分析しヘルトは作戦を変更した。


  「封印法術陣形成部隊配置のエリアを確保しました」


  突入から6分でヘルトのいる東の塔の妖魔たちを魔岩石エリアの中心に押し込んだ。


  「トラス姐さん」


  「おう。封印法術形成部隊突入」


  威勢の良いトラスの声を受けて部隊は確保されたエリアへと進み入る。


  「法術陣形成開始」


  上空に薄っすらと大きな円が浮かび上がり、少しずつ紋様描かれていく。


  「さて、昨日よりも消耗したこの状態でどれだけ早く陣を形成できるかだな」


  「私も前線に出た方が良いのではないでしょうか?」


  トラスの呟きを聞いてパシルが提案する。


  「呪いに対する耐性が高いと言っても戦闘能力で主力に遠く及ばない。パシルはこの部隊の護衛と伝令に尽力を注いでくれればいい」


  パシルは見守ることしかできず手持無沙汰で落ち着かなかった。彼女は護衛としても最後尾であるためすぐに出番が回ってこない。


  「二時の方向、壁が薄いぞ。妖魔の動きに振り回されず持ち場を護れ!」


  パシルは封印法術陣形成部隊 第一支援隊隊長などという大層な肩書を貰ってはいるが部下が4名の小さな部隊だ。トラスはパシルの叔母にあたるため、全ての部隊に護られているここで自分のそばに置いておきたいのだということは聞かずともわかる。昨日の闘いでも風の陣に異常があったときに呼び出されて風のほこらに護衛まで付けて見にいかせたのは、危険なこの場から引き離すための口実でもあった。


  こんな場所で護られるのではなく、闘いの場に出て少しでも役に立ちたいというのがパシルの望みだった。だが、パシルが闘う状況になるということは前線が破られて妖魔がこの法術部隊にまで迫って来るということ。それはあってはならないこと。


  そんな葛藤を抱きながら見守ること十数分、伝令が前線で動きがあったことを報告した。


  「魔女の霧を確認、北側赤の塔です。部隊は後退しながら妖魔と交戦中」


  「行くよサウス」


  「おう!」


  ヘルトの掛け声でふたりは赤の塔方面へ走り出す。


  「出てきたか、ここからが本番だぞ。さぁお前たち、一番安全な場所で護られてる私たちができることは前線で闘う者たちのために全精力をつぎ込んで少しでも早く陣を完成させることだ」


  最前線の指揮はヘルトが、後衛の指揮はトラスが取る。


  「パシル、解呪要員5名、それと第三部隊を投入だ」


  「はい」


  トラスの指示を受けてパシルが叫ぶ。


  「待機中の補給部隊の解呪班から五名を赤の塔へ。待機中の第三部隊は第二部隊とともに主力部隊の支援へ向わせろ」


  伝令班は素早く赤、黄、青の塔へと走りだした。


  作戦開始から約20分。封印法術陣の形成は三割に達していた。

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