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談議 1

  ワイフルさんにたしなめられた旦那のダイナーさんは、ブツブツと文句を言いながら俺たちに続いて自宅へと入ってきた。


  家に入るとワイフルさんは俺たちを向かい合わせで座らせて、コップにお茶を注ぎ茶菓子を出して自分も座席に着く。


  「のんびりしている場合じゃないけど、このままってわけにはいかないからね」


  釈然としない顔をしている旦那さんは俺の顔をじっと見ていた。


  「この人は私の主人のダイナー。元はこの街の闘士団で、今は傭兵としてこの地域でいろいろな仕事をしているんだ。そして、今回は魔女の封印儀式の護衛として雇われているんだよ」


  「ぞ、存じております」


  彼女の説明を受けてガチガチになりながら返事をする。


  「そりゃ存じているよな」


  ダイナーさんは俺を睨んだまま低い声で威圧した。


  「それでラグナ君だけど、彼は昨夜ヘルトに頼まれて一晩ここに泊めたんだよ」


  何か言おうとしたダイナーさんを目で制して言葉を続ける。


  「イーステンド王国から聖都を目指して旅をしている途中でこの街に立ち寄って、街の騒動に巻き込まれて魔女の封印に手を貸してくれることになったと。間違いないかい?」


  「はい、間違いありません」


  「それで、なんであんたはラグナ君を目の敵にしてるんだい」


  ようやく言いたいことを言えるようになったダイナーさんは身を乗り出しながら怒涛の如く言葉を発した。


  「こいつは昨日、風のほこらを襲った魔女の使徒だ。もうひとりの女は強大な陰力で法技を放ち、俺たちをぶっ飛ばした挙句にほこらもぶっ壊した。おかげで魔女の再封印儀式は失敗しちまったんだぞ。そんな奴がなんで俺の家で寝泊まりしてやがるんだ!」


  ワイフルさんは腕を組みうんうんと頷いて俺を見た。


  「で、ラグナ君の答えは?」


  みんなの視線が俺に集中する。


  「さっきワイフルさんが言った通り、俺とアムはイーステンドから聖都を目指してる途中にこの街に立ち寄りました。途中で風の陣を形成するダイナーさんらに出くわしたんですけど、突然襲われたのでやむなく応戦したんです」


  「それはおめえらがっ!」


  「黙って聞きなさい」


  「なので、アムがその場を切り抜けるために陰力の法技を使ったところ、手加減が上手くできなくてほこらも一緒に壊してしまいまして……すみません」


  「手加減だぁ?!」


  『手加減』が癇に障ったのだろう、立ち上がって威圧してくる。


  「なるほど、それでダイナー、あんたはなんで彼らを襲ったんだい?」


  「そりゃこいつらが魔女の使徒だからに決まってんだろ。信じられないような陰力の法技でほこらごとぶっ壊しやがっただからよすほどのヤベー奴らだぞ」


  「それは闘った結果だろ? 私が聞いてるのはその前だよ。なんで彼らが魔女の使徒だってわかったんだい?」


  「ツヴァイが言ったんだ。魔女の使徒だってよ。俺も最初は信じられなかったけどな。こいつらの力がそれを物語ってるじゃねぇか」


  『アムはともかく俺の力は物語ってはいないじゃん』


 目は合わせられないが心で抗議する。


  「それにこいつの横に座るおかしな連中はどうだ? この呪われた獣が以前から噂にあったチョロチョロと物資を盗み儀式の準備の邪魔をする魔女の使徒に違いないぜ」


  そのおかしな連中は出されたお茶をすすっていた。


  「私たちは魔女の使徒ではありません」


  「にゃ」


  「それじゃぁ何者なんだい?」


  ワイフルさんの優しい問いかけにふたりは飲んでいたお茶を置いて答えた。


  「申し遅れました。私は森の妖精のウラ、そしてこの子はハム、私の従者です」


  と言って被っていた獣の被り物を取ってみせた。


  ダイナーさんらは一瞬ギョッとしたが、その下から現れたウラの姿を見てさらに固まった。


  「なにそれ、ヒゲ生えてるじゃん」


  ストレートにツッコんだのは大笑いのブラチャだった。


  「ふ、ふざけてるのか」


  ぷるぷると肩を震わせて口角もヒクつかせるダイナーさん。


  「どうやら呪われた者ではなかったようだね」


  くすくすと笑いながら言う。


  「お忍びではありますが、昼間から街に出てきたのでハムにゃんとペアルックでお洒落してみました」


「ぼくの手作りなんだお」


  「良くできてるじゃないか」


  「にゃ~」


  ハムはワイフルさんに褒められて上機嫌だ。


  「魔女の使徒ではありませんが、あなた方の邪魔をしたことに間違いはありません。わたちたちは魔女の再封印を望んでいませんので」


  その言葉におおらかなワイフルさんもビックリしたようで、大笑いしていたブラチャも真顔になりダイナーさんの威圧も一段増した。


  「待って待って、違うんだ」


  たまらず俺が割って入った。


  「この小さな獣人族のハムはこの街の全ての人が崇めている聖霊仙人、ハム=ボンレット=ヤーンその人だ。決してこの街に害を成すために邪魔をしたわけじゃない」


  「聖霊仙人だと?!」


  さすがに驚いたようで一瞬の静寂のあと、俺に集まっていた視線がハムに移った。


  「バカ言ってんじゃねぇぞ。魔女と闘った屈強な獣人族の聖霊仙人様が、こんなちんちくりんな獣だなんてことがあるか」


  棘のある言葉に再び悲し気な表情を見せる。


  『メンタル弱いなぁ』


  「確かにハムにゃんはちんちくりんで大した力はありません。ですが!」


  ここでウラは両手でテーブルを叩き語気を強めて言い放った。


  「掃除も洗濯やってくれますし、何よりモフモフです」


  「…………」


  「あと下手なりに料理もしてくれます」


  『あぁ誰か助けて』


  状況に似つかわしくない空気と噛み合わない会話に、怒り、戸惑い、苛立ち、呆れ、そして少しの笑いの感情が入り交ざる。だが、


  「つまりですね、すごく他人想いで優しいんです」


 この一言でそれらの感情は優しさに溶けて受け入れられた。

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