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不意の再会

  森の中の聖霊仙人の小屋では、自慢のロングケープを披露したウラがハムと一緒に街に向かう準備をしていた。


  この時点で俺とアムが街を出発して三時間と少し経ったようだ。正確な時間がわかった理由はウラとハムの住むこの家には時計があったからだ。それも割とお洒落なやつが。


  こんな森の奥の小屋にそんな洒落た置時計があるとは意外だ。なぜなら住んでいるのは森の妖精と獣人の半霊体なのだから。


  「ハムにゃんこれはどう?」


  「最高にゃ! その服がそんなに似合うのは世界でウラたんだけにゃ」


  「ハムにゃんだってその個性的な帽子はステキ過ぎてクラクラしちゃうね」


  「森の外は陽射しが強いにゃ。新しく作ったこの帽子で行くおー」


  「それなら私もハムにゃんのコーデに合わせてこれにするね」


  隣の部屋からは何やら楽し気な声が聞こえてくる。


  出発の準備をすると言ってすでに十分が経過していた。出されている残りのお茶を啜りながら俺が待っていると、かなり遠くの方からドーン、ドーンと大きな音が響いた。


  なんの音だろうとぼんやりと考えていたが、信号弾を上げると言ったヘルトの言葉を思い出し、椅子を倒しながら立ち上がって外に駆け出す。


  だが、街の方角を見上げても深い森の中では上がった信号弾を確認できない。


  「ラグナさん、お待たせしました」


  「今のはなんの音にゃ?」


  ウラお手製のケープを深々と被ったふたりが出てきた。


  「たぶん街から上がった信号弾だと思うんだけど、森が深すぎて全然見えないんだ」


  「そういうことならぼくに任せてにゃ」


  ピーピピッ


  ハムが指笛を鳴らすと森の木々の隙間から大きな怪鳥が飛んでくる。その怪鳥は茶と白のグラデーションが美しくトカゲのような長い尻尾を持っており、ゆっくりと俺たちの前に降り立った。


  「さっき鳴った音は何にゃ?」


  「クークー」


  怪鳥はハムの目をじっと見ながら喉を小さく鳴らしている。


  「街から光が上がって弾けたって言ってるお」


  「やっぱり、それでその光は何色だった?」


  俺の質問をハムが怪鳥に伝えると、ハムはうんうんとうなずいた。


  「好物のうさぎの血と同じような色だと言ってるにゃ」


  「あ、あぁ赤い光ね。それは魔女の復活が近いという緊急事態だってことだ」


  まさかこんなに早いとは想定外だった。


  アムはまだ施設を捜索中だ。迎えに行ってたら二十分は時間が掛かる。俺だけでも戻ってみんなに手を貸すべきだし、ウラたちも街に連れて行かないといけない。


  「街に急ごう。ウラたちのことを説明する時間も必要だ」


  俺は小屋へ戻って自分の荷物を準備する。


  扉を開けて外に飛び出すとふたりの姿が見えない。次の瞬間、後ろから俺の体になにかが巻き付いて上にひっぱり上げた。


  「うわぁぁぁぁぁぁぁ」


  見上げると先ほどの怪鳥だった。俺を尻尾に巻き付けて飛び上がっている。


  「急いで街に行くにゃぁ」


  怪鳥の背中から俺を覗き込んでハムが言う。


  高い森の木々を抜けて空へと舞い上がると、街の上空ではまだ信号弾の光が瞬いていた。


  「この禍々しい感じはやばそうだ」


  「そうですね、すでに昨日と同じくらいの危険域に迫りつつあります」


  「街の中心部に飛び込むにゃ!」


  「ちょ、ちょっと待った!」


  ハムの掛け声を聞いて俺はその行動を制した。


  「なんにゃ?」


  「このまま戦地の真っただ中に飛び込んだら魔女の使徒だって思われて、説明する間もなく袋叩きになりかねなだろ。一度信用ある人に説明して協力を取り付けよう」


  すでに魔女の力が漏れ出したこの状況ではヘルトもどこにいるのかわからない。俺はワイフルさんから部隊の人たちには口添えしてもらうのが無難だと判断した。


  「門から少し離れたあの巨木の影に降りよう」


  「わかったにゃ」


  ハムの指示を受けて怪鳥は急降下しする。


  『うおー、怖えぇ!』


  未体験の出来事に顔を引きつらせた俺を尻尾で掴んでいた怪鳥は、地上から十メートル程度の高さで翼を広げて急減速し、翼を羽ばたかせてゆっくりと地上に降り立った。


  「きみはここで待機にゃ」


  「ククー」


  俺を降ろした怪鳥はハムの言葉に従ってその場に座り込み、その背中からふたりは飛び降りた。


  「それで、どうやって街に入りますか? このまま一緒に?」


  「ひとつ考えていた方法があるんだ」


  俺はふたりに作戦を伝えた。

 

     ***

 

  俺は先行して門番に向って歩く。そのあとに続く足音はひとり分だ。


  「門番ご苦労様です」


  「これはこれは、お帰りなさい」


  早朝に俺を送り出した人と同じ番兵が出迎えた。


  「森の調査はどうでしたか?」


  「えぇ、研究施設も見つけました。ただ中は危険な状態で入れなくて」


  「それと仙人様には会えたのですか?」


  「はい、会うことはできました」


  番兵の表情が変わる。


  「本当ですか?! それで仙人様は力を貸してくれると? 今はどちらに? 我々がお迎えに上がった方が良いですか?」


  矢継ぎ早に跳んでくる質問の嵐。


  「仙人様は今準備中で俺たちには先に行けって。魔女が出てきそなんですよね? 急がないと。それで、馬車に乗ってヘルトのところに行きたいのですが、どこに行ったら乗れますか?」


  「この緊急事態では路線馬車は止まっていると思うんで、直接馬車馬を管理している厩舎に行った方がいいですけど、地理を知らないと説明が難しいな。この先の通りを左に曲がってそこからいろいろ曲がるところが幾つかあるんだよね」


  「そうですか、なら昨日泊めてもらった人のところに行って聞いてみます」


  「そうですね」


  「んじゃ行こう、アム」


  すると、うしろで立っているフードから、


  「にゃぁ」


  と俺の掛け声に妙な声で返事がされた。


  『ばっか、なんでそんな返事するんだ』


  「ん?」


  番兵も変な声が聞こえ怪訝な表情を浮かべる。


  「んっんん。では行ってきます。番兵の方々もこちらの護りをお願い致します」


  軽い咳払いに次いで可愛らしい女性の声でそう告げられた。


  「了解しました。我々の街をよろしくお願いします!」


  番兵はビシッと敬礼して俺たちを見送った。


  「仙人様、声出しちゃダメでしょ」


  ある程度離れたところで話しかける。


  「ごめんにゃ、つい成り切って返事しちゃったにゃ」


  ウラに肩車されたハムがしょんぼり答える。


  「結果的に上手くいって良かったですね。アムサリアさんに成りすますとはナイスアイディアでした」


  ハムを肩車しているウラの機転で事無きを得ることができた。これもウラの作った大き目のケープのおかげだ。


  「よし、急ごう」


  ヘルトと合流するための馬車にどこで乗れるか教えてもらうため、俺たちは昨夜お世話になったワイフルさんの家に向かった。


  街は多くの人が声を掛け合って何やら動き回っている。それが幸いして俺の後ろをヨタヨタと走るウラを気にする人はいなかった。


  「そこの角を曲がったらすぐだ。ウラと仙人様はそこで待っててくれ」


  ワイフルさんに口添えをお願いするにしても最初からふたりを会わせるのはやはり心配だ。俺は道の角に隠れるふたりを確認してから玄関に進みドアを叩いた。

 

     ***

 

  「おう、今から出る」


  扉の向こうから聞きなれない低い男の声が返された。ガチャリという音がして扉が開いていく。俺は二歩下がり扉が開くのを待つと、ごっつい中年のおじさんがひとり扉から出てきて目が合う。


  「あっ」


  「ん?」


  一瞬の間を置いて頭の中で記憶の引き出しがガバガバと開かれていく。正解の引き出しに当たるまで二秒半。おそらく相手も同じだっただろう。ほぼ同時に正解を引き当てた。


  「おまえは!」


  「あんた!」


  驚いて後ろに下がろうとしたが足がもつれて転倒してしまう。


  おじさんは手に持っていた荷物を落として肩に担いでいた剣を勢いよく抜こうとするが、鞘と柄が狭い玄関に引っかかって抜くことができない。


  お互い慌てているため立ち上がれないわ剣は抜けないわとバタバタとなっていた。俺は後ろ向きの四つん這いのままで家の前の通りまでドタドタと下がる。


  『なんであの人がここに?!』


  おじさんも引き抜こうと暴れていたが一旦剣を鞘に納めてこちらに走ってくると、改めて剣を引き抜いて高々と上段に構えた。


  「なにやってるんだい?!」


  ワイフルさんの声が聞こえる。


  「家に入ってろ、魔女の使徒だ!」


  叫び声と同時に振り下ろされた斬撃を布に包んだままの剣で受けて横に流しながら反対側に転がって起き上がる。おじさんはすぐさま踏み込んで横一線に俺の胴を薙いできた。


  俺はそれを踏ん張って受け止める。


  物凄い形相をしたおじさんの目が俺を睨み付ける。


  「俺の家族を狙うとは、ゆるぅぅぅぅさん!」


  巻き舌で怒りのこもった言葉をぶつけ、重く早い連続攻撃繰り出す。


  「ちがっ」


  俺は猛攻に喋ることも許されずそのまま後ろへずるずると押し込まれていく。


  「やめるのです」


  そこへ、隠れていたウラが現れた。


  「この闘いは無意味です」


  そんな言葉は怒り心頭の彼には届かない。


  「お前はあのときの女か」


  俺を押し飛ばしてウラに向かって踏み込むと、剣を横に構え体をひねった。


  「エルス・ザンバー」


  ウラに向かって振り抜かれた剣から空圧を纏った斬撃が放たれ、彼女を斬り裂いてケープがふたつに千切れ飛んだ。


  「あぁ!」


  ドスン、ゴロゴロ


  千切れ飛んだ首が転がって壁にぶつかって止まった。


  「ウラー!」


  荒々しい風の斬撃によって胴と首が切り別れてしまった。


  「痛いにゃ!」


  地面に落ちて転がった片割れが叫んだ。


  「危ないですよ。風の精霊さんが助けてくれなかったら大怪我するところでした」


  首を飛ばされたウラの体も起き上がって愚痴を漏らす。


  「ナニモンだ?!」


  「何者かですって?」


  おじさんの問いかけに片割れ同士がスクリと立ち上がった。


  「ぼくたちは、悪は絶対許さない正義の使者」


  バサっとケープを剥ぎ取る。


  「森の妖精ウラです」


  「その相棒のハムだにゃ」


  ズバッとポーズを決めたふたりの姿は、剛毛な獣とおぼしき頭に鳥の羽がふんだんに使われた上着を羽織り、大きな爪が輝く手袋をはめていた。


  その姿を見たおじさんは顔を引きつらせた。


  「お前ら……呪いを受け入れた魔女の使者だな。ふざけやがってぇぇぇ」


  「なぁー!」


  『なんでそんな格好してくるんだよ!』


  すっかり頭に血が上っているおじさんは、じわりじわりとふたりに詰め寄る。たまらず俺はその間に割り込んだ。


  「まずはお前からか。昨日の借りを返してやるぜ」


  気合十分の彼の後方から攻撃を制する声が掛けられた。


  「おとうさん、ちょっと待って」


  『おとうさん?!』


  ブラチャとシエスタのふたりが驚き顔でこちらを見ている。


  「おまえら、危ないから中に入ってろ!」


  子どもらを気遣う声を上げながら遠間から放たれた突きを弾き、鞘に納められたままの剣を中段に構える。


  気勢を発して休まず打ち込まれてくる猛撃は昨日よりも激しい。俺は受けながら少しずつウラたちのいる方へと後退していった。


  「やめろ、俺は闘う気はないんだ」


  ようやく発せられた言葉だが、それを聞いてやめてくれる状態ではなさそうだ。


  苛烈な攻撃をなんとかしのいでいると、


  「仕方ありませんねぇ」


  後ろでふわりと光が灯されるのを感じる。


  「ラグナさん、口で言ってもわからない人にはお仕置きしましょうか?」


  「や、やめてくれ、事態がややこしくなる!」


  全力で遠慮する。


  「ゲイル・スライサー」


  「エルス・リフレクト・ガーダー」


  体を縮めて防御態勢を取る俺に高速三連撃が打ち込まれるが、速度重視の軽い斬撃は体に纏われた風の鎧が弾いた。


  「ちっ」


  しかし、舌打ちしつつも弾かれた剣を両手で掴み法技を錬成していた。


  「ヘビー……」


  「やめなさーーーーーーい!」


  耳をつんざいたその声を受けて、法技を中止したおじさんは俺の右側に剣を振り下ろして素早く後方へ距離を取る。そして、さっと後ろを振り向いた。


  「バカ、なんで出てきた。三人とも中に入ってろ」


  「バカはあんただろ。いきなり飛び出して斬りかかるなんて」


  ワイフルさんが俺の方に歩いてくる。


  「おい!」


  たまらず声を上げるおじさんそっちのけで俺の肩に手を置いた。


  「ラグナ君怪我はないかい?」


  「俺は大丈夫です」


  「ごめんよ、うちの主人がトチ狂ってこんなことしちまってさ」


  「おい、そいつらは魔女の使徒で」


  ワイフルさんは振り向くと静かにゆっくりと、それでいてしかっりした声で言った。


  「とりあえず剣は締まって家に入りなさい。話はそれからだよ。さぁラグナ君おいで、それからそちらのふたりも一緒にいらっしゃい」


  ワイフルさんの登場で、張りつめていた緊張感は消え去り、闘いは中断された。


  手を引かれて連れて行かれる俺を見て、ウラとハムもトコトコと付いてくる。


  警戒と解いていないワイフルさんのご主人は横目でふたりを見ながら子どもふたりと一緒に家の中に入って来た。

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