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偽りの英雄 聖闘女アムサリア  作者: ミニチュアハート
~英雄と宿敵の章~
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復活

 黒いアムとの闘いに決着がつき、俺に憑依していたアムザーグが彼女の中に入っていった。それによって俺の感覚が戻ると、この闘いで酷使していた体の悲鳴が聞こえ、俺はその場に両手両膝を突いた。


 体力も筋力も振り絞った疲労感。だけど、鎧のおかげでダメージはたいしたことはないようだ。激しく亀裂が走ったこの鎧も、輝力が回復すれば修復していく。


「あいつは天才だな」


 聖闘女の強さに対して素直にそう思い、仰向けに寝転がった。となりで倒れている聖闘女を形作る者から感じる陰力の威圧感は消えないが、さきほどまでの禍々しさはない。


 壁を打ち壊す轟音が響いてそちらに視線を向けると、グラチェが偽エイザーグの首筋に噛み付いて抑え込んでいる。そのまま振り回し、三度地面に叩き付けて投げ飛ばした。着地もできず落下したエイザーグは、グラチェの頭部に冠した三本の角から撃ち出された輝力の光球に撃たれ、黒い煙を上げて崩壊した。


「そっちも決着か」


 グラチェは力を使い果たしたのか弱々しい光を発して元の幼獣に戻って壁際にへたり込んだ。


 これでようやく終わったと胸を撫でおろしたときだ。


 突如、全身の身の毛がよだつ気配が大聖堂を包んだ。光を反転したかのような光景が広がり、自分がこの場に存在してはいけないとさえ思える気持ち悪さがしみ込んでくる。その根源は俺とアムザーグが切り飛ばした黒いアムの右腕だ。本体を失った腕が激しくうごめき、床に刺さったクリア・ハートを飲み込んだ。


「なんだよ……」


 それはすぐさま膨れ上がり、この世のモノとは思えない異様な姿を形成し始めた。


 全身に苦しむ人の顔が浮かび上がり、無数の手足が生えて触手がうごめく、獣とは言えない何か。化け物という表現が一番適切だろう。


「ラグナ逃げろ! アムの魂を失った邪念がクリア・ハートを通じて押し寄せてきている。制御を失って暴走しているんだ」


 クレイバーさんの叫びを受けて立ち上がろうとしたが、今の体の状態ではそれすらもままならない。


 顔の付近にいくつもある目がギョロギョロと動き、そのひとつと視線がぶつかった。そして、化け物の中で起こった力の高まりを感じた。


「おじさん、咆哮がくる!」


 俺はそう叫びながら近くに倒れるアムに覆いかぶさり、クレイバーさんもリナさんを抱きかかえて法術障壁を発現させた。


 次の瞬間、大聖堂内に絶叫が響き渡る。


 音が色を持ったように波動が見える。意識どころか命を刈り取る衝撃が襲い、俺はアムを護るために残った輝力の残滓を使って咆哮に抵抗した。ささやかな光の飛沫が鎧の表面から散るのだが、損傷していた右肩周辺の装甲が弾け飛んだ。


 壮絶な咆哮で削り飛ばされた床や土砂に飲まれた俺たちは、大聖堂内の壁に激突した。


「うぐぁ!」


 飛ばされたさなかにアムから離れた俺は瓦礫に埋もれてしまう。


 ラディアとしてアムと受けたエイザーグのモノとは違う。全方位に、より広範囲におよぶ咆哮だ。


「せっかくアムと再会したっていうのにこれで終わりかよ」


 この絶望的状況に言葉でさえ抗えない。


 ガラガラ、ズサーン


 瓦礫を押しのける音だ。


 ザッ、ザッ、ザッ


 誰かが近付いてくる。


「どうしたラグナ、諦めたのか?」


 心が折れかけたそのとき、確かに聞こえた。


「わたしを護ってきたあいつは、この程度のことで音を上げたりはしなかったぞ」


 少し上から目線なその声は、今までとは違い空気を震わせてこの耳に届いている。


 かすれる目を凝らして声のする方を見ると、そこに立っていた。全身から噴き出さんばかりの陰力を内包し、化け物が発する威圧感を物ともせず堂々と受け止めるアムサリアが。


 俺の前に現れたアムが纏う鎧の色は漆黒。さっきまで闘っていた黒いアムと同じだ。


「その姿、その力は……」


 だが、あの黒いアムとは違う。だけど、霊体でもない。俺の記憶にある聖闘女アムサリアに近しい者が今ここにいる。ただし、その力は聖闘女とは真逆の力だ。


「まぁいい、今は寝ていろ。わたしのせいでこんなことになったわけだし、後片付けは自分でしなければな」


「ブオォォォォォォォォォ!!」


 アムに対してだろう。化け物は威圧するように高らかに咆えたが、その威圧がそよ風であるかのようにアムは受け流し、ゆっくりと持ち上げた右腕を化け物に向けて手を開いた。


「さぁリンカー、長い昼寝の時間は終わりだ」


「リンカー?!」


 すると、化け物の体から剣が飛び出し、アムの手に納まった。アムはブンブンと軽く左右に振り払い、切っ先を化け物に向けて構える。


 アムに握られているのは奇跡の闘刃リンカーだ。クリア・ハートとは違い熱い心力の波動がみなぎっている。


「リンカーなのか?」


 おれは驚きと疑問を言葉にした。


「よう、久しぶりだなラディア、じゃなくてラグナだったか。そんなところでぶっ倒れているとは情けねぇ。頭と手足が生えたら貧弱になったか?」


 こんな憎まれ口を叩く奴は間違いなくリンカーだ。


「格好付けて俺たちの前から消えたと思ったら、蒼天至光(そうてんしこう)の中で長らく出待ちか? この場面で再登場とは格好付けたがりにもほどがあるな」


「アムの前で格好付けるのがおれの主義だ。それに、あのとき約束しただろ。最終決戦のとき、おれはアムの右手に握られて、また一緒に闘うって。今がそのときだぜ!」


「できもしない約束をしたくせに、奇跡的にそうなったからってよく言うぜ」


 思っていることを馬鹿正直に口に出すところは変わらない。


「おれの異名を忘れたのか? 奇跡の闘刃リンカー様だぜ。これくらいの奇跡は当たり前なんだよ」


「前回の途中退場はマイナスポイントだ。今回が上手くいってようやくチャラだぜ」


「チャラどころか釣銭が出るほど挽回してやるから、弱っちいおまえは巻き添えを食わないように、穴でも掘って隠れていな」


「そういう悪態をつくところが以前から嫌いだったんだ。この腐れ包丁が」


「昔はお高くとまった態度がいけ好かなかったが、今のおまえはわりと好きだぜ」


 そう言ってリンカーはカラカラ笑った。


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