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偽りの英雄 聖闘女アムサリア  作者: ミニチュアハート
~英雄と宿敵の章~
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困惑

 彼女が何を言っているのか理解できない。俺と共にあったというアムの心。奇跡の鎧に納められていたエイザーグ。さらに邪念に取り付かれて黒き闘士となっているアムの魂。それらはすべてひとつだったと彼女は語った。


 アムは強い英雄願望によりグラチェを母体とし、自らの半心半魂(はんしんはんこん)を使って宿敵のエイザーグを作り出し、その宿敵を討つ英雄となった。


「来るぞ!」


 クレイバーさんの声と同時に黒いアムが動き出した。近づくだけで不快になるオーラに包まれ、肩に(かつ)いだ剣を勢いよく振り下ろす。


 黒いアムの法技は猛烈な剣圧を生み出して、大聖堂の床ごと俺を吹き飛ばした。


「お前もアムサリアだって?!」


 床を転げながら数秒遅れて問い返した。


「エクス・ファイム・トルネード」


 エイザーグだと告白しながら、自身もアムサリアだと訴えた彼女は、憎しみと悲しみの感情を乗せた火炎竜巻を放った。


「そうだ、だから許せなかった。英雄となるためにわたしをエイザーグにしたあいつを。わたしだって同じ夢を持っていたんだ」


 ときおり彼女に感じた理解しがたい表情や感情の意味をやっと理解した。


「あぁぁぁぁぁぁ」


 黒いアムの呻く声で火炎竜巻が内側から弾け、中からより大きな氷刃(ひょうじん)の波動が天を突いた。黒いアムが剣を振り下ろすと氷刃の竜巻は勢いよく地を走り俺たちに向かってくる。


 避ければリナさんたちに当たる。俺は法術に渾身の心力を込めた。


「エクス・ロッグ・ウォーラル」


 俺と竜巻のあいだに岩の壁が屹立して氷刃の竜巻の進行を食い止めたが、勢いの衰えない竜巻が瞬く間に削り砕いていく。


 奇跡の鎧と一体となり、以前よりも増幅力と錬成力を高めたが、その法術を発現させるにはこの折れた法剣では役不足だ。


 そう考えているあいだにも岩壁の半分が削り砕かれ、あと五秒も耐えられないだろう。


「エクス・ファイム・ブラスト」


 エイザーグの法術が竜巻の根元で大爆発を起こし、岩壁ごと爆散あせた。その爆風で後ろに吹き飛んだ俺は一回転して仰向けで着地した。


「無事だったな」


 そして、爆発を起こした当人から一方的に安否を確定された。


「誰が無事だって?」


「リナとクレイバーだ」


「俺は数に入ってないのか」


 彼女の信じがたい告白に対して怒りを覚えていた俺だが、この以前にもあったようなやり取りによって、エイザーグがアムサリアなんだと思えてしまった。


(本当にお前もアムなのか)


 だけど、目の前にいる邪念に捕らわれ苦しむアムのことを想うと、その言葉は口に出せない。


 足を振りその勢いでヒョイと起き上がり俺は彼女に声をかける。


「おい、アムザーグ」


「な、なんだその呼び名は?!」


 その焦り方や切り返す言葉は、ラディアではなくラグナの知るアムサリアと同じものだ。


「お前が本当にアムサリアなら今は俺に力を貸せ」


 彼女はその申し出に言葉を詰まらせた。


「何かするにしてもまずはアムの魂を救うためにあの邪念を祓ってからだ」


 彼女は顔をしかめながらも小さくうなずいた。


「俺が前に出るから援護しろ。隙があったらデカいのを撃ち込んでくれ。上手く抑えることができたら俺の輝力の波動でアムの魂に群がる邪念を吹き飛ばしてやる」


「……わかった」


 俺たちがそう言葉を交わして黒いアムに向き直ると、俺の意志に呼応してか呻き声を上げて剣を横に振るった。すると、体を取り巻いていた赤黒く禍々しい陰力が剣に絡め取られていく。


 「何をする気だ?」


 それは一気に密度を増し、振りかざした剣先から放出されて獣の形を成した。


「な……」


 エイザーグ、そこに現れたのは紛れもなく破壊魔獣エイザーグだ。


「バカな……」


 こう言葉を漏らしたのは自らがエイザーグだと告白した彼女だ。信じられないがその姿と脅威は俺の記憶とも一致する。低い唸り声からの激しい咆哮が体と心を震わせた。


「これはやばいぞ」


 そう言って瞬きする間に、俺の側面にエイザーグが現れた。


 不意を突かれた俺は視線だけを向けると、凶悪な爪を有する左腕が振り上げられていた。しかし、振り上げた腕は俺に振り下ろされず、飛び込んできた黄緑色の獣がエイザーグに組み付き押し倒した。


「ぐおぉぉぉぉぉぉ」


 その獣は頭部に三本の角を冠し、(きら)めく黄緑色の体毛に包まれて、白く輝く光を発していた。


「グラチェ!」


 しなやかで強靭な尾を振り、アムザーグに応えたエイザーグに似た獣はグラチェだと言うのだ。


「どうなってんだ?」


 次々に展開する事態に俺の思考はまたしても置いていかれてしまった。


「グラチェは私の輝力を受けて聖獣に変化したんだ」


「おじさん!」


 そう話したクレイバーさんはつらそうにしている。


「グラチェが心に語りかけてきた。それに同意してかなりの量を輝力を渡したんで少々堪えたが、魔獣を抑える戦力としては申し分なかろう」


 今、エイザーグと壮絶な闘いをしているグラチェはエイザーグの母体だった。そのグラチェがクレイバーさんの輝力を受けてエイザーグそっくりな聖獣となって闘っている。


「ラグナ。グラチェが偽エイザーグと闘っているうちに、わたしたちは奴をなんとかするぞ」


「おう」


 それから俺とアムザーグは、ギリギリの回避と微妙な法術の連携で黒いアムと渡り合っていた。


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