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偽りの英雄 聖闘女アムサリア  作者: ミニチュアハート
~英雄と宿敵の章~
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負荷

「リナ意識が戻ったな」


「ごめんなさい。『愚問ね』なんて大口叩いておいて」


 そのやりとりをしながらも倒れた陰獣へ駆け寄り、無防備な背中に上段から剣を振り下ろす。真後ろへの馬蹴りを、のけ反り躱すと空圧が前髪を跳ね上げた。前転して私たちの反撃を逃れた陰獣は木を駆け登っていった。


 すかさず飛びかかってきた陰獣の脇腹を斬り払うと、再び剣を握る手と関節に強い痛みが走る。

 バランスを崩して転げた陰獣が反対側の木に背中を打ち付け倒れたが、この好機に追撃できない。全身を襲う痛みで剣を落としてしまっていたからだ。


「リナ?!」


「これはなかなかキツイわね」


 たった数度の、それもこちらが有利な攻防で、私の体は悲鳴を上げてしまった。体を鍛えていないわけではない。でも闘いで使う力はまったく違うことを実感した。


「あと何度も振れそうもないな」


 腕も背中も腰も足もズンと重い痛みを感じるが、アムサリアとひとつになって体の感覚が薄くなっていることを考えると、実際はもっと強い痛みなのだろう。そう思うとこのあとが少し心配だ。


「リナ、次で決めよう。そのためにもっともっと大きな負担がかかると思うが耐えてくれ」


 その言葉には不安や心配といった感情が強く込められているのが伝わってくる。本気で危険だということなのだろう。


「いくら魔獣ディスペルムが相手だって、エイザーグに比べたら小物よね。奇跡の英雄が本気を出したら一発でおしまいでしょ?」


「そのとおりだ!」


 その言葉と同時にアムサリアの心力が高まっていく。だけど、この抑え込まれるような息苦しい感覚はなに?


「リナ耐えろ」


 心力の増幅だけで押しつぶされるような、弾け飛びそうな、意識が消えそうな、そんな感覚が私を襲う。上級法術を高位術者がおこなうと、心と体にこれほどの負担を強いるとは思わなかった。


 起き上がった陰獣は低く身構えると左側に走る。かと思うとすぐさま右に跳び、また左に切り返す。私の周りを回りながら素早く左右に反復し、左、左、右と不規則にとび跳ねてリズムを崩す。


 この攻撃は絶対に外せない。もっと集中して同調しないと。この動きに着いていけずに攻撃を外せばもう次はない。それどころか命もないかもしれない。


 生まれて初めて命を懸けた戦場に身を置き、どうしようもないほどの恐怖が襲ってきた。アムサリアとの同調もゆらゆらと不安定になっているように感じる。次の瞬間には陰獣の攻撃でこの命が尽きるのかという恐怖のせいだろうか。


「大丈夫だ」


 アムサリアのひと言でその恐怖が薄くなっていく。気持ちが落ち着いて持ち前の集中力が戻り、サーっとあたりが静かになって耳も目も感覚もすべてがハッキリした。


「トルクス・エンハンサー」


 瞬時に感じ取ったわずかな変化に反応して法文が唱えられ、法術発現と同時に全身に強烈な衝撃と痛みが走った。右側面から飛び込んできた陰獣が振り下ろした屈強な腕を受け止めたのだ。


「死ぬ気で押し返せ!」


「うぅあぁぁぁぁぁ!」


 アムサリアの勢いにシンクロし、普段は使わない荒々しい掛け声を張り上げた。肉体強化の上級法術で受け止めた攻撃を、あらんばかりの力で押し返し、そのまま剣を上段に構えて大きく一歩踏み込んだ。


「グラン・ファイス・ブレイバー」


 押し返されて仰け反った陰獣に、闘気と心力の斬撃を斬りつけると、インパクト時に発生した爆発の衝撃が私自身の体をも襲った。


 今まで体験したことのない法技の大発現力による心力と闘気の解放は、外部から強い力で吸い取られるように私の中の力を奪っていった。


 消えそうな意識と焼かれるような全身の痛みに耐えて目を開けると、陰力の衣が消失したディスペルムが肩から両断された体を晒して息絶えていた。


 終わってみれば圧勝。彼女に体を貸してから一方的に有利な闘いだった。なのに私はボロボロだ。


「わたしの取って置きの技だったのだが、自身を護る力場の出力が足りなかった。すまない」


「それは私の心力不足でしょ。錬成に必要な心力が足りなかったんだからしかたないわ」


 一歩足を踏み出すと今まで以上の痛みが体に響き、その痛みに耐えきれず地面に倒れ込んだ。


「体の悲鳴を感じたか?」


 倒れた私の前にアムサリアが立っている。彼女が私から出たことで本来の痛みや消耗の感覚が戻ったのだ。


「さっき話したとおり、ずっとリナの中にいると魂にも心にも大きな負荷がかかる。最悪キミと言う存在が消失しかねない」


「そうだったわね。さっきはともかく今その話を聞いたら『愚問ね』なんて言えないわ」


「よく耐えてくれた。もう休んでくれ」


 彼女の言葉を聞いた私の視界はだんだんと狭まっていき意識を失った。


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