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偽りの英雄 聖闘女アムサリア  作者: ミニチュアハート
~偽りの真実の章~ 前編
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ブライザの思い

「ブライザさん」


夕闇が過ぎ、星が瞬いている空をみながら考え事をしている俺を部下が呼ぶ。


「そろそろ時間です。準備をしてください」


「わかった」


呼びに来たマウという少女の顔は明らかに緊張した面持ちだ。その理由はふたつ。


ひとつは俺の命令により恐ろしい妖魔獣の討伐の任付いたグラドが彼女の実兄だからだ。もうひとつは言うまでもなく、今から数時間後にフォーレス王国との全面戦争へと突入することになるからに他ならない。


天候が雨でないのは悪くはないが、できれば星明りのない曇りが望ましかった。


ブンドーラとその近辺の小国、町村、さらにはゴロツキの集まりから亜人族など、かなりの数が参戦する。それを引き連れて進軍すればたちまち発見されて迎え撃たれてしまう。そのため、各々が各方面から隠密かつ迅速にフォーレス国領土の静寂の森に集結して身をひそめ、一斉に襲撃する算段となっている。


「よし、武装完了した部隊から順次出発させろ。絶対に騒ぎを起こすなって伝えておけ」


「昔の盟友と大騒ぎしたあなたがそれを言うんですか?」


俺はマウの皮肉に笑って返した。


「お前も盟友に再会したときはあれくらい盛り上がっていいぞ」


「はいはい。兄が無事に戻ってきたら、そうさせてもらいます」


この返答には笑って返すことができない。なにせ、俺の命令によって妖魔獣という恐ろしい敵のもとにグラドは向かったからだ。正確にはアムと妖魔獣の闘いの結果を知らせに戻らせるために付き添わせた。しかし、グラドの性格から考えれば、ただ見ているだけということはないだろう。


「ブライザさん小隊の準備も間もなく完了しますので、また知らせに来ます」


マウはそう言ってテントを出た。


俺が引き連れてきた先行部隊は二十人編成の小隊が二十組。そろそろ追いつくであろう後続も同じくらいの規模の部隊が七つで約二千人の精鋭。リリサ組が加わればプラス千五百といったところだ。


ブンドーラの悪政に苦しむ陰で、ブライザ組とリリサ組が同盟を結んできた援軍がおよそ一万強。この日のために準備してきただけあって質も上々だ。そして、本来はその反乱軍と敵対するはずのブンドーラ軍の八千の騎兵も、フォーレスに反旗を翻して加わる。


その他、亜人や近郊を根城にするごろつき共で二千人。総勢三万人を超える軍勢となるはずだ。


対するフォーレス国の騎士団は二万弱ということだが、不意を突けばそのすべてを相手にする前に決着を付けられる。ただ、ひとりの実力はかなり高いため、できればまともにぶつかりたくはない。


俺は普段は使わない防具を身に付けながら二十年前のイーステンドのことを思い出した。


破壊魔獣エイザーグとの闘いは特になにも考えることなく持てる力を振るっていた。それは、人に害をなす獣を討つという確固たる意味を持っていたからだ。


しかし、イーステンドを出てからは人と闘うことが増えた。数年間そんな仕事をしていたが、善悪ではない紛争の片棒を担ぐ傭兵業に嫌気がさしてしまった。


その後、ブンドーラ王国で傭兵業をしていた際、ひょんなことからフォーレス王国の悪行と聖闘女の存在を知らされる。


闘いを糧として生きていながらも、闘いに明確な正当性がないことに苦しんでいた俺は、悪と断定できるフォーレスのおこないによって意味のある闘いに出会ったのだ。


「この闘いには正しさがある」


フォーレス王国のバックボーンたる聖都がなにを(たくら)んでいるのかはわからない。ただ、人体実験をしているような国がまともなはずがない。


仲間や敵兵の犠牲の上にしか立たない平和もある。たとえ戦争になったとしても、フォーレス国民の救済、ひいてはブンドーラを含む近隣の人々の脅威の排除に繋がると言い聞かせていた。だが、本当の理由は悪しき聖闘女を討つためだった。もっと厳密に言えば、盟友と同じ称号を持つ者が悪であることが許せなかったのだ。


今身に付けている決戦用の防具はエイザーグと闘ったときに使っていた物だ。年季の入った物だが旧友が作ってくれた優れものであるため今も愛用している。盟友の死という大きな傷が疼くのだが、それによって闘いへの意志は褪せることはなかった。


「この傷の疼きが消えちまったら……」


テントを出た俺は柄にもなく空を見上げて昔を懐かしんでいる。このことが、闘いの意志が弱まっている証拠なのではないかと心配になった。


色々と思いを巡らせているあいだに装備を整えた部下を連れたマウがテントから出てきた。そして、俺にこう言った。


「ブライザさん。本当はあなたも彼女たちと一緒に行きたかったんでしょ?」


「なんでそう思う?」


「これから大きな闘いがあるのに兄を付き添わせるなんて、あなたらしくないからです。向こうが奇跡的に上手くいけばそれにこしたことはないですけど、妖魔化したグレイモンキールをあの条件で倒せるとは思えません。たとえあなたでも。それに……」


「貴重な戦力であるグラドを付き添わせたのは、それだけ俺がアムを大事に思っているからだと。だが、ブライザ組の大将がその任を投げ出すわけにはいかないからと、それが苦肉の策に思えたってか?」


自分が言う前に話の続きを言われてしまったことで、マウは目を丸くして俺を見ている。


「そうだよ、今からでもすっ飛んで行きたいくらいだ。だけどよ、ウソかホントか死からも生還した俺の聖闘女だぜ。きっと妖魔獣なんかにゃ負けねぇ。だが少しでも手を貸したい思いはどうにもならなかった」


マウが思っていた以上に俺がアムを助けたいという思いが伝わったのだろう。その表情は若干引き気味だった。だがこのことで、アムと共に勝利を勝ち取りたいという新たな意思が湧き上がってきた。


「ほら、正直に話してやったんだ。これでスッキリしただろ。早く小隊まとめて出発しろ」


「ブライザさんの意外な一面を見られて本望です」


「馬鹿野郎、本望とかそんな言葉使うな。お前は最後方で救護の担当なんだ。死にやしねぇよ」


「あなたな意外な一面をもう一度見るために、彼女が無事であることを願ってます。それとあなたの無事も……」


「俺のほうが次いでかよ」


そう言って笑い合ったのを最後に互いに表情を引き締める。


テントの先の広場に集まる仲間と合流し、俺たちはフォーレス王城の近郊にある、静寂の森に向かって出発した。


アムは妖魔獣を打ち破る。絶対に! あとは時間との勝負だ。


このときの俺は、時間に間に合うかどうかという二択しか考えていなかった。


先が気になる人、面白いと思ってくれた人、ブクマ、評価、よろしくお願いします。


ひと言でも感想をもらえたら嬉しいです。


どうぞ、よろしくお願いします。

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