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偽りの英雄 聖闘女アムサリア  作者: ミニチュアハート
~偽りの真実の章~ 前編
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戦略

 朝、目覚めて隣のベッドを見てみると、いつもと変わらず俺よりも早起きなアムはいなかった。着替えてから部屋を出て階段を下りたところで、朝食の準備などでいそいそと働くメイドが、アムが庭に出たのを見たと教えてくれた。


「アム」


「おはよう」


 アムは鞘のままのリンカーを構えてゆっくりとした動きで体を動かしていた。


「ブラチャとシエスタがやっていた訓練だ。ヘルトに教わったものだと。基礎の基礎だと言うがブラチャたちもヘルトも毎朝欠かさずやっていると言っていたのを思い出したので、わたしもやってみることにしたんだ。剣さばきの微妙なズレを確認して効率的な動きに修正し、その動きのために使う筋肉も意識して鍛えるということだ」


 法術の才能がないヘルトが武術と闘技で英雄と呼ばれるほど強くなった基盤の訓練なのだろう。


「そうなのか。なら俺も付きあうよ」


 剣を取りに部屋に戻った俺は、一時間ほどアムと一緒にその訓練をおこなった。


「精が出るね」


 ハーバンが庭に出てきて声をかけてきた。


「尊敬すべき、ある街の英雄に習ってね」


「そうか。もうすぐ朝食ができるから適当に切り上げて食堂に来てくれ」


「ありがとう、すぐに行くよ」


 そのあとすぐに風呂で汗を洗い流した俺たち。朝から風呂に入れるとはなんたる贅沢とアムも感激しつつ、俺たちは食卓へ向かった。


 朝にしては割と重めな食事をガツガツとたいらげた面々は、それぞれ好みのコーヒーや紅茶などを飲んでいた。


 食事の片づけを済ませたリリサさんがテーブルに戻って座ったところでハーバンは大き目の巻物をテーブルの端に置いて話し始めた。


「ではブライザ組が推し進める全面戦争を回避して、聖闘女を討つ作戦の詳細を聞いてもらう。まずはリリサ組が立てた作戦とこの半年間おこなってきた活動についてだ」


 そういってハーバンが話し始めた作戦はフォーレスの国力を少しずつ衰退させるものだ。大きな部分を占めるのは兵糧や物資を断つ。フォーレスのバックボーンたる王都は遠く離れており、人体実験という非人道的なことをやっているのを隠すために、他国との繋がりが希薄である。その役割を担っているのがブンドーラ王国だ。


 食料や物資はブンドーラが近隣の村や街より徴収している。王都からの直接の援助は得ていないため、その供給源を断ちさえすれば国力を衰退させることができる。


 城下街に大きな農園も家畜を育てる畜産施設も充実していない上に、大した備蓄もしていないというので、物価の操作や傘下の盗賊団に村や街を襲うフリ、つまり自作自演によって治安の悪化などの理由を作って供給を絞っていた。


 ブンドーラ王国自体は厳しい税によって徴収をおこなっているのだが、裏ではブライザ組とリリサ組がブンドーラ城から奪取した食料や物資を戻している。この行為によってふたつの組は支配国と繋がる信頼を得ている。


 他にも盗賊団の排除や田畑を荒らし、人を襲う野獣や魔獣の討伐をおこなうなど、組織の力と協力性を見せていた。


 対フォーレスに向けて徴収量は3割減。ここ半年は6割減としてフォーレスに収めている。作戦開始2ヶ月前から完全に断ち、王都からの援軍援助が来る前に国民を解放して聖闘女を討つという算段を立てている。


 ブンドーラは異種族混合軍で一気に攻めることで早期決着を狙い、多少長引いても兵糧の問題で時間はこちらに味方するという。


「とういうのが当初から予定していた作戦ではあったのだが、フォーレスにこちらの意図を気付かれたか、情報が漏れたか。向こうからの進軍の可能性があると情報があったわけだ。そうなると聖都からの援助や援軍がすでに準備され始めている恐れがある」


 よってリリサ組が発案した長期計画は破棄され、相手の準備が整う前に討って出るプランに移行になりそうなのだ。


 猛角族を含むいくつかの種族の助力を得られ、フォーレスに多少の戦力減衰はあるにしても、真っ向からぶつかるのはやはり厳しいらしい。


「ここまではいいか?」


 ハーバンは俺たちに確認してから説明を続けた。


「リリサ組の立てた作戦にはもうひと段階あるのだが、それはまだ調査中で確定していない。だが、これが上手くいけば真っ向勝負を避けることが可能になる……はずだ」


 語尾を弱めた言葉のあと、最初にテーブルに置いていた巻物を広げた。


「これはフォーレスの前身であるラドムド王国が建てられたときに極秘裏に作られた地下施設の見取り図だ」


 広げられた紙には要人の出入りや緊急時の避難所、脱出経路のみならず、実験場に魔獣の飼育場といった怪しげな設備が描かれていた。


「おい、これってフォーレスの人体実験に使われているんじゃないのか?」


「その心配はない。そこはすでに廃墟となっていて現状はウォーラルンドの魔女の呪いで妖魔となった奴らの住み家になっている。そのおかげで調査が難航しているんだがな」


「そうです。ですが私たちにはのんびりと調査する猶予はもうありません」


 そう言ってリリサさんは初めて曇った表情を見せた。


「施設の7割は調査できましたが、城内へと続くと思われる場所に行くにはある場所を通らなければならず、そこに強力な獣がいるのです。部隊で突入したくとも通路も部屋も狭くて大勢で闘うのは不可能でしょう。それにあまりに多くの人員を投入して騒げばフォーレスの者たちに気付かれる恐れもあります」


「しかし、そうは言っていられない状況になってしまった。明日にでもその獣を倒して調査を進め、城内に入るための入り口を探さなければならない」


「ですがハーバンさん。その腕ではとても闘えないのでは……」


 恐る恐るといった感じで部下のひとりがそう言うと、ハーバンは自分の両腕を見てからうつむいた。


「ならばその役わたしたちが代わろう」


 思いを察してか罪悪感か、アムは地下施設の魔獣討伐を進言した。


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