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偽りの英雄 聖闘女アムサリア  作者: ミニチュアハート
~偽りの真実の章~ 前編
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案内

 おじさんと部下の後ろに付いていった俺たちが連れていかれた場所は広い庭を持つ豪邸。豪邸というよりも要塞といった頑強で大きな建物で、門も分厚くいかにも外敵から護るための作りと思えた。


 広い庭には数人の部下が並んでおじさんを出迎えている。


「お帰りなさい……ませ?」


 妙な言葉での挨拶になったのは彼の怪我の見たからだろう。


「大丈夫だ」というようなしぐさを見て部下たちは動きを止める。心配そうな視線と、俺たちを不審に思う部下たちの圧を受けながら、玄関に続く長い長い石畳を進んでようやく扉の前に着いた。


「その守護獣はここで待たせてくれ。あとで裏口から大部屋に入ってもらうから」


 アムはグラチェの頭を撫でてここで待つように指示をした。


 扉を開けて中に入るとすぐに女性が出迎えに出てきた。


「お帰りなさい」


 優しげな声で迎えたのはその声に相応しい雰囲気を持った綺麗な人だった。歳は俺のお母さんと同じくらいだろうか? 俺が思うのもなんだが、若々しさはお母さんに引けを取らない品の良い人。


「ただいま」


 彼女に対して部下たちは深々と頭を下げて挨拶をする。


「どうしたの? ひどい怪我をしているじゃない!」


 驚きよりも心配顔なところを見ると、たぶんこういうことがよくあることなのかもしれない。彼女は小走りで駆け寄ってきた。俺たちのが彼の取り巻きでないことに気が付きいたのか、目が合うと小さく会釈した。


「あら、お客様をお連れになったのね」


「はじめまして、わたしはイーステンド王国から来た、アムサリア=クルーシルクと申します」


「俺はラグナ=ストローグです」


 アムに次いで俺も挨拶する。


「わたくしはハーバンの妻、リリサと申します」


「ん、ハーバン? あぁ彼のことですね」


 と言うアムに、リリサと名乗った女性はおじさんの顔を見る。


「まだ名乗ってなかったな。俺はハーバン=ライフタル。この街の気のいいおじさんだ」


 調子のいい紹介に俺は呆れた。


「アムサリアさんにラグナさん。ようこそお越しくださいました。主人がお世話になったのかしら?」


「あぁ、俺を叩きのめしたとんでもない奴らだ。いつまでかわからないがうちに泊まることになったから丁重にもてなしてやって欲しい」


 そんな紹介の仕方があるか! と焦ったが、その女性は苦笑いしただけだった。

「外に彼女らの守護獣もいるからそっちも頼むよ」


「わかったわ。みんなお昼まだなんでしょ? 簡単にだけど作るから待っててね」


「いや、我々は大丈夫ですから気を使わないでください」


 部下たちはそろって遠慮するのだが、柔らかいながらも押しの強い彼女に促され、彼らも玄関ホール横の部屋に押し込まれた。


「あなたたちは二階の部屋へどうぞ」


 広いホールに鎮座する門を思わせる扉を開けると階段がふたつ、左右の壁に沿って二階に向って伸びていた。


 その階段を静かに上がるリリサさんに案内されるがまま、連れてこられた部屋の扉は素晴らしい装飾が施されていた。客間としてはあまりに豪華なため入ることに気が引ける。


 ゆっくりと開けられた扉からは薄手のカーテン越しに柔らかな光が差し込み、その光を受けて飾られた調度品たちが品良く輝いていた。


 家具は派手過ぎない落ち着いた高級感を漂わせ、洗練された感性によって作られた部屋は手入れも行き届いている。俺たち、いや少なくとも俺には似つかわしくない部屋だった。


「わぁぁぁぁ」


 アムから出た声はあまり聞いたことのない乙女を思わせる柔らかな声で、この部屋がおおいに気に入ったことがわかった。


 リリサさんは部屋の奥の扉に入り、なにやらカタカタと物音をさせたあと折りたたまれたなにかを抱えて出てくる。


「わたくしと主人のお古ですけど良かったら部屋着に使ってください。それと今お風呂も入れたので十分もすれば溜まりますからそちらも使ってください」


 驚く俺の顔を見てかリリサさんは申し訳なさそうに言った。


「お泊りになるのはこの部屋で良かったかしら? お風呂は大浴場もありますからそちらのほうがよろしくて?」


 俺はあわてて否定する。


「いや、とんでもない。こんな凄い部屋は初めてで驚いているだけです」


「お心遣いありがとうございます。至れり尽くせりで感謝の言葉が思いつかないほどですよ。しばらくのあいだですがお世話になります」


「いえ、こちらこそ。きっと主人がご迷惑かけたのでしょうから」


「迷惑というほどのことではありませんよ。こんな素晴らしいところに泊めていただけるのですから、理由はともかくお知り合いになれて良かったです」


 きっとこの言葉は本心だろう。彼女の心の声が聞こえたかのように俺は確信した。


「では食事ができましたらお呼びしますので、それまでゆっくりくつろいでください」


 彼女は微笑んで部屋を出ていった。

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