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偽りの英雄 聖闘女アムサリア  作者: ミニチュアハート
~偽りの真実の章~ 前編
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条件

 その場にはふたりの声だけが静かに流れ、それを囲う者たちの緊張感はいまだ解かれない。おそらく、闘いのさなか不意を突いた攻撃に瞬時に反応したこともさることながら、法具を持たずに法術を発現させたアムに驚き、思考を止めてしまったようだ。


 そのとき俺もようやく気が付いたのだが、アムは法具を持たずに法術を発現できるんだから、法具を持たなくても肉体強化等の法術も使えるのでは? それもアムほどの者なら無意識で発現させられるだろう。


 だから、あのときに言った、


「法具を使わないわたしの実力がどれほどなのか自分でもわからないんだ」


 という言葉の意味は、『法具を使っているときと、そうでないときの境界がどこにあるのかわからない』ということなのだろう。


 こうして、街ぐるみでおこなわれていた大盗賊国家の国民による度が過ぎた悪戯(いたずら)は、アムによってちゃぶ台をひっくり返すように返り討ちにされたことで終了となった。


 膝を付き一息ついている大盗賊国家国民を束ねるおじさんに、アムは手を差し伸べて助け起こす。


「いつつつつ」


 アムの手刀を受けまくった腕が痛かったのだろう。顔をしかめてその痛みを盛大に吐露(とろ)した。


「大事に至らなくてなによりだった」


「おいおい、どう考えても両腕とも骨にひびがいってるぜ。十分に大事に至ってるだろ」


 その問いに少し驚いた顔をしたアムは、


「あなたの立場とあなたの部下であろう街の人たちがだよ」


 と返した。


「お嬢さん、可愛い顔して怖いこと言うんだな。力の片鱗(へんりん)を見せられてその脅し文句を言われちゃたまらんよ」


「脅しというわけじゃないさ。例え手を抜いても対人戦はひとつ間違えれば命を落とす可能性があるし、殺人は相応の心の汚れを生む。そうならないための素手による闘いを選択したあなたの判断は、多くの者の心と命をおもんぱかっているとわたしは感じたんだ」


「あんたにはかなわねぇな」


 おじさんが顔を引きつらせるのも無理はない。この闘い、武器を持たずに殺意を見せなかったことが幸いとなった要因だ。もし、数と武力に物を言わせていたならば、どれだけの死傷者が出たかわからない。決して命のやり取りを良しとしないアムだって、俺たちの命と天秤にかければそれなりの闘いを強いてしまうだろう。


 部下の数人がそのおじさんの周りに集まってくる。きっと彼らが直属の部下だ。


「さて、俺たちの完敗となったわけだが、もし命を取るって言うなら俺の首だけで勘弁してもらいたい」


 その言葉を聞いて部下たちはおじさんをかばうように前に出た。


「そんなことは望まないさ。そちらもわたしたちの命を奪う目的ではなかったわけだし」


「こんな治安の国だが街の中では命のやり取りはご法度で、そんなことをしたら重罪になっちまう。もちろん俺もそんなことは望まない」


 常識的に考えて悪戯(いたずら)で済むことではない。武器は持たなかったとはいえ、これほどの人数で取り囲まれる事態に俺は命の危機すら覚えたのだ。ある程度平静を保てたのはアムがいればなんとかなると思った……、そこまで考えて自己嫌悪におちいった。


 あぁ、アムを護るはずの俺がアムを頼りにしているなんて情けない。この思考により、彼に対する俺の中の怒りの感情は小さくしぼんでいく。


「では勝者であるわたしが敗者であるあなた方に命じる」


 アムの凛々しい声に一同が注視する。


「そうだなぁ、今から言う三つの条件を聞いてもらおう。まずは、今後わたしたちに妙なちょっかいを出すことを禁じる。これを破った場合は相応の痛みをともなうことになるので、そこは覚悟してもらおう」


 言葉と同時にアムが発した気勢がこの場にいる者にそれが本気であると理解させた。


 静まり返ったところでさらに条件を告げる。


「ふたつめは、なぜウォーラルンドの情報を必要としているのかその理由を開示すること」


 その言葉を受けて周りからピリッとした空気が発っせられたのだが、アムが続けた言葉がそれを少し和らげる。


「その理由いかんによってはわかる範囲で情報を提供しよう」


 こんな仕打ちを受けたのにここまで譲歩してやる必要があるのだろうか? だがそうすることになにか意味があるのだろうと(かんぐ)ぐった俺は、次に出された条件のためだったのだと理解した。


「そして三つ目。この国やフォーレスの成り立ちについて教えてもらおうか」


 ウォーラルンドでワイフルさんに、大昔に何代目かの聖闘女がこの国に訪れたということを聞いて気になっていたのだろう。


「あっそうだ、最後に……わたしたちがこの街にいるあいだ、住まいと十分な食事を提供してもらいたい」


「お嬢さん、条件は三つじゃなかったのか?」


「ダメかい?」


「いや、財布をすり取ろうとしたお詫びに最後の条件はおまけしとくことにしよう」


(あぁ、譲歩した理由はこっちの条件を飲ませるためだったのかもしれない)


 俺はそう思いなおした。

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