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制御

  「いやいやみなさんお疲れさまでした。魔女の脅威は去って新たな脅威も拘束されてハッピーエンドですね」


  多大な被害、目の前でノラを失ったウラとハム。奴の(てのひら)の上で踊らされた街の人たちのことを考えれば、その言葉は適切ではない。


  「そんな怖い顔で見ないでください。魔女の被害は私のせいではありませし、あの魔女だって殺すしかなかったわけでしょ? この妖魔だっていずれは出てくる予定だったわけですから。それをこうして拘束したのは私たちですよ。感謝こそされ恨まれるようなことはないと思うんですけどね」


  「それで……、おまえはあの妖魔をどうするつもりだ」


  そこに切り込んでいったのはアムだ。


  「こうするんです」


  肩から掛けた大きな鞄から一辺が40センチくらいの四角い、いや菱形の板状の物を取り出した。おそらくこれも法具だろう。


  「見ていください」


  手のひらに乗せて法力を加えると法具は手のひらから離れて浮遊する。その法具を拘束された妖魔に向ってかざし法文を唱えた。


  「スティー・ルワン・ズハート」


  法具から出た光が妖魔の額を照らすと、法具は照らしていた額に向かって引き寄せられるように張り付き、光の帯が頭に巻き付いてぼんやり青く光り出した。


  「これで安心です」


  今にも拘束を解いて暴れだそうかともがいていた妖魔は、動きを止めて大人しくなった。


  「ほんとかよ」


  あれほどの妖魔があんな法具ひとつでおとなしくなるのを見て思わず口から漏れた。


  命懸けで闘っていたみんなをバカにされたよう結末。その思いを激しくぶつけたくなる感情が込み上げてくるのだが、その感情の中にどこか安堵(あんど)が混ざっていることで、その行動を抑制する。


  最後の最後にこいつらの手を借りることになってしまったが、兎にも角にも新たな脅威は去った。


  長年の使命である封じられた魔女の監視は終わり、街の人たちは不安に駆られ恐怖に怯えることなく使命から解放され、これからは平穏な日々が送れるのだ。


  「そこの妖精さんが長い年月を掛けて魔女を倒す力を蓄えていたのと同じように、われわれも生まれてくる妖魔を確保するための力を蓄えていたんです。ただね、魔女が邪魔だったんですよ。大きな力は技術でどうにかできますけど、魔女の呪いにはどうにも打つ手がなくて」


  「その役目は僕たちに任せたわけだね」


  「ですね。でも、そのための助力は惜しみませんでしたよ」


  本当にこいつらはこの化け物を手に入れたかっただけのようだ。そのためなら利用もするし助力もする。


  「魔女の支配力のために妖魔たちがなかなか完全な一個体となることができなかったんですが、あなた方が魔女を追い込んでくれたおかげで力が弱まり、こうして誕生してくることができました。見てください、この威風堂々とした姿と秘めた力を! 言うなれば妖魔王ですな」


  結果論だが抑止力となっていた魔女を俺たちが追い詰めたことが妖魔王を誕生させてしまったということになる。


  「とは言え、魔女の支配という核となるものがなくなってしまったこいつは、ただ暴れるだけの化け物ですがね。今はまだ」


  「ビートレイ、こいつを何に使うつもりだ」


  長年魔女を討つために力を合わせてきたビートレイ。その彼に裏切られたような思いのヘルトが彼に言い寄った。


  「ヘルトさん、あなたがこの街の秩序を護りたいと思うように、私たちはこの世界の秩序を護りたいのです」


  「この世界の秩序?」


  「おっと、ついつい余計なことを口走ってしまいました。ともかく、妖魔王は私の制御下にありますのでこのまま連れて帰ります」


  拘束する法術を完了した従者たちがビートレイのそばに戻ってくる。妖魔王を拘束していた光の檻は少しずつ弱まって消えていった。


  「では妖魔王、付いてきなさい」


  ビートレイの腕の法具がぼんやり青く光る。それに合わせて妖魔王の頭に張り付いた制御法具も青い光を増した。


  1歩2歩と歩き始める妖魔王。こんなもんを制御して何をしたいのだろう。それ以前に本当に制御できるのだろうか?


  そんなことを危惧した俺の前を横切ろうとした妖魔王の額の光が黄色く変わって大地を揺らす歩みを止める。それに気づいたビートレイが振り返り妖魔王を見上げると、慌てて腕を伸ばし腕の法具に法力を込めた。


  「ぐももおおおおおおぅ」


  そのビートレイに抵抗しているとわかる唸りで額の光は赤く変わる。


  「ラグナさん」


  「なんだ?」


  「プランAからプランDに移行しますのでみなさんに伝えて欲しいのですけど……」


  ビートレイの表情から次の言葉を察した。


  「こいつを倒してもらえませんか?!」


  「ばかやろう、ここまでやっといて最後に丸投げするんじゃねぇ!」


  「ごおおおおああああああ!」


  天を仰いだ妖魔王の雄叫びで、ビートレイの付けている腕の法具が弾けた。

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