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妖魔王

  「なんだあれは?!」


  突き出た前腕だけで俺たちの身長を大きく上回る。次に現れた頭部は人間の物に見えなくもないが、その険しさと巨大な牙が獣以上に獣らしさを強調している。


  魔女を握って突き上げていた腕を地面に押し付けながら墓から這い出るように体を持ち上げた。


  『でかい』


  体半分でそう思った。


  地上に上がり直立したその何かは10メートルに迫ろうかというほどの巨人だ。


  手足は異様に大きく獣の鉤爪(かぎづめ)を持ち、地に届く尻尾が存在する。体は獣人というよりは大毛類をメインに様々な獣の特徴を併せ持っており、巨獣といっても差し支えない大きさだ。


  「おい、あれってまさか」


  「どうやらそのまさかのようだ」


  さすがのアムも声から緊張が感じられる。


  魔女との闘いで忘れていたひとつの不安要素。ウラたちが阻止しようとしていた新たな脅威。魔女の力によって生み出された妖魔たちがひとつになった存在。


  出現した桁違いの脅威にどう対応すればいいかわからない俺たちは、ただただ見上げるばかりだった。後方の街の人たちからもひとつの声も上がらない。


  わずかに首を動かす巨大な妖魔は手に握った魔女に視線を落とす。しばしそれを見ていたが、おもむろな動作でその手に握ったぐったりとしている魔女を口へと放り込んだ。


  「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ」


  その光景にウラは絶叫する。正気を保っていられるかも心配になるほどのその姿を見て、ようやく俺も思考が追い付きはじめてきた。


  魔女を飲み込んだ妖魔は一番近くにいる俺たちに視線を向ける。


  「やばいな、こっち見てるぜ」


  剥き出しの巨大な牙はあの凶悪なエイザーグさえ可愛く思えるほどの大きさだ。


  『巨獣に手を出してはならない』


  これはこの世界で生きる上での基本的な決まり事である。


  デカいだけで強い。魔獣のように殺戮(さつりく)の意志を持たなくても圧倒的に強いのだ。


  もちろん害ある巨獣に対しての討伐は何度か聞いたことはあるが、人間や他の獣たちに理由なくかかわる個体はほとんどいない。少なくともイーステンド王国周辺では。


  ゆっくりとした動作で足が踏み出され、連動して腕が動く。振り上げたその腕が止まったかと思うと、巨大な手がこちらに向って降ってきた。


  「避けろ!」


  アムの掛け声で事態を認識したおのおのが、それぞれに回避運動をおこなう。


  ヘルトがパシルを、アムがウラを、俺がハムを抱えて散会したその場所の地面をすくい、土砂を遥か彼方に吹き飛ばした巨大な妖魔。攻撃の間合いから大きく離れた俺たちへ踏み込んでくる。


 『速いっ』


  わけじゃない。一見緩慢(かんまん)な動きだが、巨大な物はそう見えるらしい。


  油断してはいなかった。ただその規模が違い過ぎて予測できなかったのだ。次の回避は間に合わないと悟って俺はハムをぶん投げる。


  「グラチェ頼む」


  体を縮めて巨大な質量の張り手を受けた俺は、光の帯を引きながら今まで体験したことの無い高さと距離の弧を描いて地面へ落下した。


  「くぁ、効いたー」


  後方への跳躍と鎧の護りのおかげで見た目の派手さほどダメージはない。すぐに起き上がり戦場を見ると慌ただしく動き回る闘いの場にビートレイが向かっている。よく見ればその向こう側に従者のひとりが見えた。見渡せば残りのふたりも四方に立っている。


  『あいつら何かやる気だな』


  お互いに合図をするように上げた手には法具と思われる箱が握られていて、ビートレイのそれが光って互いに光で繋がると、巨大な妖魔を中心にして囲った。


  「何をするつもりだ」


  痛む体を押して近付き肩を掴んだ。


  「あの妖魔を止めるんです」


  思いがけない言葉を聞いて絶句してしまった俺にいやらし笑顔を返したビートレイは、微妙に立ち位置を調整して法具に力を込める。


  「スクエア・ケイジ・リストレイン」


  発せられた法文を受けて法具が起動。対角線に発射された呪力がその中心で暴れる妖魔を捕らえ動きを鈍らせた。法具を繋いでいた四角い光は妖魔を中心に縮んで光の檻を形成し、巨大な妖魔はその檻の中で縛られたように動きを止めた。


  「ね」


  ビートレイが自慢げな顔をしてこちらを向き、


  「さぁさぁ、最後のお仕事です」


  軽やかな歩みで巨大な妖魔に向って行った。

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