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ガラス珠の少女  作者: Sin権現坂昇神
第一章 『ガラス珠の少女』
9/29

9の噂 ~赤水晶~

女子トイレの前に駆け付けた攣ヶ山鸑門少年。だが女子トイレに入るということは社会的に危ないと察したのか、トイレの前で待つことにした。だが中々出てこない(水晶から人間に変わった)【晶】に攣ヶ山鸑門は焦りが生まれた・・・、

(走った先ってこっちでよかったっけ・・・?)

 【攣ヶ山鸑門(つがやまがくと)】は一年一組の教室を飛び出した直後、【囗清水(いしみず)(あきら)】の走った方向に目をやった。そこは階段を(はさ)んで生徒専用トイレがあり、廊下(ろうか)の行き止まりには『調理準備・実習室』があった。現在調理実習室は出入り禁止になっているので入れない。禁止の理由は不明。階段に降りたかと思ったが、一年一組の教室にいる人間がすぐ(となり)の階段の音を聞き(のが)すとは考えにくい(授業などに集中して聞いていない生徒もいる)。禁止の調理準備・実習室は(かぎ)()かっていて入れないということは・・・

(トイレか。・・・・ハッ)

 鸑門少年は思い出したように躊躇(ためら)った。もし(あきら)と【大黒(おおぐろ)泊里(とまり)】が女子トイレにいるのだとすれば、男子が入るなど言語道断(ごんごどうだん)。セクハラ・痴漢(ちかん)(うたが)いをかけられることは事理(じり)明白(めいはく)

(仕方ない・・)

鸑門少年は保身のため、トイレの前で待機することにした。そして待機する(あいだ)熟考(じゅっこう)を始めた。

(晶・・来い!上手く女子に取り入って、仲良くなってこっちに来い!僕が女子トイレに入らずに済む!女子トイレの前で(さけ)ぶのも危ないんだ!)

考えた(すえ)、鸑門少年は運よく晶が泊里と仲良くなって、女子トイレから出ることを(いの)った。

―・・

鸑門が祈りのポーズを取ってから刻々(こくこく)と五分、そして十分が経過(けいか)した。だが一向(いっこう)に女子トイレを出て行く者はいない。(さいわ)廊下(ろうか)を出る生徒も大人もいないため、鸑門はただじっとトイレの前で祈りを(ささ)げても、(おどろ)(もの)は今の所いない。鸑門少年の顔はみるみるうちに(あせ)りに変わった。

(後五分で教室に戻らなかったら・・・先生に怒られる!)

鸑門少年は体を(ふる)わせながら、進展しない現状に少しずつ焦りを見せた。

だが。

―キャー!

「!」

女子トイレから突如(とつじょ)悲鳴(ひめい)が起こった。悲鳴の後、教室から出ていく者や階段からやって来る者がいないため、さっきの悲鳴は鸑門少年しか聞こえない大きさであることが分かった。鸑門少年はすぐさま悲鳴が(だれ)なのかを考えた。

(今の声は水晶(すいしょう)のような()(とお)る声じゃない・・・そして女子トイレから・・・ってことは・・!)

晶ではない女子生徒ということになる。鸑門少年の顔は晶ではないことで安心したが、もし晶でないとしたら・・と考えるや(いな)や、(たちま)ち顔が青ざめた。

(晶が何かしたんじゃ・・・!)

「晶!」

 鸑門少年は()ても立ってもいられなくなり、女子トイレに走った。もちろん攣ヶ山鸑門(つがやまがくと)は男子である。


―バタン((とびら)が開く音)

「・・・!」

 鸑門(がくと)少年(しょうねん)(おもむろ)に女子トイレのドアを開けた。最初に映ったものは女子トイレの内装(ないそう)で、(ゆか)と側面には(うす)ピンク色のタイルが()()められており、(おく)には顔一つ分の換気用(かんきよう)(まど)(のぞ)き防止のための特殊加工がしてある。外から窓を見れば真っ白な風景にしか見えない)、そして天井には薄橙色(うすだいだいいろ)分厚(ぶあつ)い板が()()けられている。()いで左側には四つの個室が並んでいて、出入り口の近くには洗面台が二つ、そして大きな鏡が一つあった。

鸑門少年は女子トイレの内装を確認した後、(ようや)く洗面台の前にいる女子二人を発見した。

「・・えぇえ!?」

だが女子二人の様子が明らかにおかしい。特に晶の顔である。あの()(とお)るような晶の(はだ)はそこにはなく、(そば)にいるガングロ女子の肌のような黒い何かが顔いっぱいに()りたくられていたのだ。晶のすぐ(そば)化粧品(けしょうひん)を両手に持った【大黒(おおぐろ)泊里(とまり)】がいることから、泊里が晶の顔に黒い何かを塗ったことは明白であった。ふと泊里と鸑門の目が合った。

「うぅぉおりゃあああー!」

泊里は男子の気配を察知するや否や、すかさず鸑門に向かって体を勢いよく()じると、そのまま三回転しながら横蹴(よこげ)りからの膝蹴(ひざげ)り、そしてトドメに(かかと)()とし攻撃(こうげき)を見事連続で命中させた。全ての攻撃を受けきった鸑門は、(もう)スピードで回転しながら後退し、後方の出入り口のドアでぶつかって、そのまま床に(たお)れた。泊里はかっこよく着地して、こう言い放った。

「男子!この『神聖(しんせい)なシークレット・レディー・オブ・フォレスト(神聖な神聖なる女子の森)』に入ってくんな!」

「うぷっ!・・・ううぅ・・」

 鸑門少年は膝蹴りにより大ダメージを受けた腹部(ふくぶ)(おさ)えながら、必死に口とお(しり)から昨日まで食べておいた物が出ないように努力した。(もが)き苦しむ鸑門を見て、晶は泊里(とまり)の手を強く(にぎ)ると、(あわ)てて言った。

《泊里ダメ。パパをいじめちゃダメ!》

「パパ?・・こいつが!?・・・・意味分かんない」

 だが泊里も晶の口から出た「パパ」発言に疑問を(てい)した。鸑門少年は(いた)がりながら、泊里と晶の会話を耳にして(おどろ)いた。

「いってて・・・(何で二人が会話できるんだ?・・・って、そうかあの鏡のせいか・・・)」

 洗面台にある大きな鏡のお(かげ)で晶の姿が見え、他人であっても肌に()れれば会話ができる。鸑門少年は新たな発見を(のが)さぬように、(すみ)やかに生徒手帳に記録した。晶との会話に成功した人物はこれで二人目。鸑門少年は激痛で顔を(ゆが)ませながらも、とりあえず泊里との会話を(こころ)みた。

「ぼ、僕は・・攣ヶ(つがやま)鸑門(がくと)。君の・・な・・名前は・・」

 泊里は痛みを我慢(がまん)してこちらに話しかけてくる鸑門を見て、首を()めようとしたあの男であることを思い出し、再び恐怖(きょうふ)(しん)(よみがえ)った。だがこのまま何も言い返さないのも(くや)しいので、泊里は少し鼻を高くして言い返した。泊里の(しん)は、二度の負けは許されないことにある。

大黒(おおぐろ)泊里(とまり)よ。悪い?パパ(・・)」

 ムッと答える泊里を見て、鸑門少年は授業の間に考えていたことを話し始めた。

「パパはやめて・・・って(ちが)う。今日の朝。教室に着いた時、僕は大黒さんに(ひど)いこと言った。しかも大黒さんの首を絞めようとしたことを謝ります。ごめんなさい。あんな(こわ)い事をこれで許せるわけがないのは分かってる。けど、とにかく謝りたかった。女子トイレに来たことも謝ります。ごめんなさい」

 鸑門少年は横に(たお)れた状態で、泊里の前で頭を二度下げて謝罪(しゃざい)した。すると泊里の顔はあの時の自分の行いを思い出し、すぐさま首を横に()って応対した。

「待ってってば!それは私が100パー(セント)悪いって!・・・私だって周り見えてなかったし・・・自分の化粧ブームが上手くいかなかったせいをあんた達で八つ当たりして・・・だから謝るのは私!本当にごめんなさいっ!」

 泊里も負けじと頭を思い切り下げようとした。が、(いきお)いをつけ()ぎて地面のタイルに頭をぶつけた。

()ったー!・・頭が・・割れるぅ!」

泊里は激痛のあまり、化粧品を床一面に落としながらのた打ち回った。

「だいじょう・・」

 泊里の頭から血が流れる現場を目撃(もくげき)した鸑門少年は、今すぐにでも助けようとするのだが、(いま)だに激痛が収まる気配もなく、泊里を助けることができない。そして晶は赤い血を見た途端(とたん)、体を硬直(こうちょく)させて小さく(つぶや)いた。

《赤い・・・》


―サァ・・


 晶は泊里の頭上から(にじ)み出る赤い血を見た瞬間(しゅんかん)、時間が止まったように動かなくなった。「晶―?」

鸑門が動かなくなった晶を見て、思わず口走った。だが晶の変化はもう(すで)に始まっていた。晶が動かなくなったのも一刻(いっとき)。晶の(ひとみ)が光り出したのを皮切りに、赤い水晶のような形の瞳に変わった。(かみ)(いろ)もそれに呼応するかのように赤色に変わっていく。そして晶は泊里の手を力強く(にぎ)()めると、頭部から出た血が赤い(ほのお)(ごと)く発光し、その赤い炎が傷口の周りを一瞬(いっしゅん)(おお)いつくした。

「何して・・・」

《パパ・・・今は静かに・・》

「・・・」

 手を()れなくても晶と会話ができる鸑門少年は、この一連の晶の行動を見届けることにした。今晶が泊里にしている行為は害を与える行為か(いな)か。今決断することは出来ない。ただ最後まで見届けなければ、晶の行動の真の目的は分からないと思ったからだ。

「くぅっ・・」

泊里も痛みに()えながら、晶の行動を終始見守った。そして見守っていくうち、血が炎と共に少しずつ小さくなっていった。泊里自身、血の流れが段々(だんだん)と引いていくのが感覚で(わか)った。

 そして―

《・・・もう大丈夫》

 晶は全身(特に(かた))の力を抜いて、安堵(あんど)の表情を浮かべて言った。握った手の力も(ゆる)んでいる。泊里はさっきまで激痛に苦しんでいた時と、明らかに(ちが)心地(ここち)よい感覚に終始戸惑(とまど)った。

「・・あれ?なんか温かい・・・それに血が止まったような気が」

「晶・・・いったい何を・・・」

 鸑門少年は(いぶか)()に晶を見た。晶は足を地べたにへたり込んだまま、言葉に表そうと鸑門に向かって身振り手振りで話し始めた。

《私もよく分からない。けど、泊里の血を見た瞬間自分でもよく分からないくらい「どうしよう」という感情が(あふ)れてきて、気づいた時には泊里の頭の(きず)を必死に(おさ)()もうと・・・》

「・・やっぱり・・」

 鸑門少年は晶の必死の説明にひと()ず安心した。晶のやった行為は害とかそんな行為じゃない。誰かを助けたいと思ったことでの行動だったことに、鸑門は喜んだ。だが晶の行為(こうい)が実際害のないこうだったのか。晶は自分のやった行為を反芻(はんすう)して不安になった。

《余計なことだったかもしれない・・》

 不安に()られる晶に鸑門少年は、一呼吸置いて自分の体を確認した。もう痛みは引いている。そう思った鸑門は晶の元に()()ると、晶の頭に手を置いて(やさ)しく()でた。

「晶は命の恩人だよ。はあ~・・よかったあ~」

 鸑門少年は(ようや)緊張(きんちょう)の針が()けると、地面にへたり込んだ。晶の返事はなかった。ただ一筋(ひとすじ)(なみだ)(ほお)を伝って、緩みきった(くちびる)の中に入っていった。晶は泣きながら笑っていた。泊里はそんな晶を見て笑って言った。

「泣くか笑うかどっちかにしろって・・・ありがとう、晶」

 いつの間にか晶の髪は、タイルと同じピンク色に(もど)っていた。(ひとみ)も元の透明(とうめい)に近い白色に戻った晶は、透明な(なみだ)を流す普通(ふつう)の女の子に変わった。だが一つだけ問題があった。さっきまで化粧していた(あと)が涙で(にじ)んで、晶の顔が少しだけ(こわ)くなっていた。

多分この文章が、ガラス珠の少女の現時点で一番長い文章だと思います。なので少々時間がかかってしまい、投稿に多少の時間がかかってしまいました。申し訳ございません。前後編に分けようかと思いましたが、どこを区切ればいいか分かりません。読みづらかったらごめんなさい。晶、鸑門、泊里の三人はいったいどうなっていくのでしょう。ということで次回。ワートリ復活おめでとうございます!

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