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ガラス珠の少女  作者: Sin権現坂昇神
第一章 『ガラス珠の少女』
8/29

8の噂 ~鏡からこんにちは~

ガングロ女子のイライラは既に頂点を超えていた。このイライラをどうしたらいいか。ぶつけたい気持ちを震わせんながら、鏡を見るとふと後ろから声が聴こえた。透き通るような、まるで水晶のような純粋な声・・・

「はあ・・・もうイライラする!」

 ここは一年一組の教室を()け、階段を通り()ぎた先にある女子トイレの中。ガングロ女子は(くず)れたメイクを水で(あら)い流していた。ガングロ女子は自分なりの化粧(けしょう)(どう)があり、(だれ)よりも早く流行の化粧を見つけては、流行の発信源となり続けていた彼女だった。しかし最近は化粧ブームも下火になり、誰も自分に見向きをしなくなっていた。ガングロ女子は自分の信じてきた化粧道に裏切(うらぎ)られた気分になり、今も(なお)憂鬱(ゆううつ)な日々を送っていた。そんな状況(じょうきょう)の彼女に、【攣ヶ山鸑門(つがやまがくと)】、次いで【囗清水(いしみず)(あきら)】との接触が彼女の平常心をゼロにした。

「何なのよ、あの態度(たいど)!マジむかつくんですけど!私の邪魔(じゃま)するなっての!」

 ガングロ女子は何でもいいから(なぐ)りたかったが、トイレの(ほとん)どは(かた)い材質で出てきているために、このイライラの感情を消し去ることができずにいた。ストレス。(たま)り溜ったストレスが今の彼女の全てを着実に(むしば)んでいた。・・・そんな時、

《黒いもやもやが充満(じゅうまん)してる・・・》

「!・・(だれ)?」

 ガングロ女子は声がしたすぐ後ろを()(かえ)ると、そこには(ゆか)のピンクのタイルと同じ(かみ)をした女子が立っていた。その女子はいつの間にかガングロ女子の右手を(にぎ)()め、真剣(しんけん)な顔で話しかけてきたのだった。

「・・あ!あんたあの!」

 ガングロ女子はすぐにその女子の顔が、手鏡に映り()んだ女子だと(さっ)した。

《ごめんなさい。(おどろ)かせてしまってごめんなさい》

 晶は深々と頭を二度も下げて(あやま)った。しかし手を握りながらの謝罪(しゃざい)により、ガングロ女子は本当に心から謝っているのかと正直(しょうじき)半信半疑(はんしんはんぎ)であった。でもそれよりもガングロ女子の目線は、晶の髪の(つや)の方に行った。

「あんたの髪・・キラキラして綺麗(きれい)・・・じゃなくて私と同じクラスだったけ?」

《・・・》

 晶が首を横に()る時に起こる。多種多様(たしゅたよう)な色合いに変化する髪に、ガングロ女子の目は(たちま)(うば)われる。同級生・・・にしては身長がやけに高く、声も時々途切(とぎ)れることがある。体の輪郭(りんかく)も背景に溶け()みすぎて時々(ときどき)同化(どうか)していようにも見える。そう。どこか人ではない。人を(かたど)った何かに・・・

「あんたまさか・・・妖怪(ようかい)(たぐい)?」

《!・・》

図星(ずぼし)か!」

 ガングロ女子のトンデモ発言に晶は目をまん丸くして固まった。だがゆっくりと首を横に振る晶に、ガングロ女子はガックシと(かた)を落とした。進展しない状況(きょう)を変えるため、ガングロ少女は一先(ひとま)自己(じこ)紹介(しょうかい)することにした。

「私は【大黒(おおぐろ)泊里(とまり)】、あんたは?」

《【囗清水晶(いしみずあきら)】・・・》

 名前にしては普通(ふつう)だったので、泊里(とまり)は少しだけホッとした。

「そ、まあさっきの件は一先ず許してあげる」

《ありがとう》

「で~もっ、一つ条件」

《?》

 晶は首を(かし)げて泊里の顔を見た。

「ちょっと顔貸しなさい」

 泊里はそう言うと晶の(ほお)()れると、ニヤリとほくそ()んだ。

 

―それから三十分(みじゅうぶん)()った(ころ)・・・


コツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツ・・・


―おい攣ヶ(つが)(やま)五月蠅(うるさ)いぞ!

「!・・ごめんなさい・・・気を付けます」

 鸑門少年はなかなか(もど)ってこない晶に、不安を(かく)せなくなっていた。シャーペンの先端(せんたん)(つくえ)の上にコツコツと当て、それが教室の中を大きく鳴らし続ける。まさに教師や他の生徒にとっては立派(りっぱ)騒音(そうおん)問題(もんだい)であり、教師の秋羽(あきば)に注意される始末。一応初めての授業でもあり、苦手な国語に集中しなくてはならないのだが、もうそれも限界に達していた。晶が何か危ないことをしていないか、人間ではないということが原因であの女子と言い争いになっていないか。・・・いや(むし)ろ言い争いからもっと(ひど)いことになって・・・晶を映す方法を(いく)らでも作りだせるこの現代で、囗清水晶は生きづらくはないだろうか。鸑門少年の不安は次から次へと頭を(よぎ)り、またシャーペンをコツコツしそうになった時。

(もう限界だ!)

「先生後ろの席の人がなかなか戻ってきてないので、見に行ってもいいでしょうか?」

―!・・・何だ、攣ヶ(つがやま)。知り合いなのか?

「え・・・っと、はい!」

 (うそ)だ。だが教師を説得するには、これくらいはっきり言わなくてはいけない気がした。嘘をつく自信はなかったが、秋羽は「う~ん」と僕の顔をジーっと見つめながら「分かった」と、何か決心したかのようにこう言った。

―分かった。十五分以内に帰って来いよ。

丁度一時間目の授業の終了時刻を十五分切った頃。先生の許可が下りたことで、鸑門少年も決心がついたように立ち上がった。

「・・・ありがとうございます!秋羽先生!」

 鸑門少年は颯爽(さっそう)と教室を出て行った。だが鸑門が出て行った後、泊里と鸑門の(いさか)いを目撃(もくげき)した生徒達の(うわさ)が始まった。


―ねえ。知り合いって絶対嘘だよね?

―知り合いだったらあんな(ひど)いことしないっしょ?(せん)(こう)バカじゃん(笑)

―あの女子ももう話しかけんなっての。メイクも古臭(ふるくさ)いしさあ(笑)

―言えてる~ハハハッ

―あいつもし女子がトイレに居たらどうすんだっての

―そんなもん一つに決まってんじゃん。それ目的で言ったんだろ

―ああ、そういうことか~

 

憶測(おくそく)がさらなる憶測を呼び、生徒達の低レベルの噂の基盤(きばん)が完成していく。だがそんな中、ただ一人の生徒が(ほお)(づえ)を付いたまま、無言で鸑門を目で追い続けた。名を【()()(たける)】。女性の美しさを持ち合わせた、れっきとした男子である。鸑門少年はそんなことは(つゆ)()らず、晶の方に向かって走って行った。

一年一組、総勢二十人。他もそんなくらいの数なので二、三年合わせて結構な人数です。校長やるじゃん。【大黒泊里】(おおぐろとまり)。ついにガングロ女子から卒業した泊里の運命やいかに・・では次回。

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