表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガラス珠の少女  作者: Sin権現坂昇神
第一章 『ガラス珠の少女』
6/29

6の噂 ~水晶は煌めく(めざめて)・下~

石→女の子?

「は・・(はだか)!?・・・」

 (ぼく)が女性の裸を見たのはいつ以来だったろうか。母以外には目の前の女性で二人目だ。今にも消えそうな輪郭(りんかく)の中に収まる薄橙色(うすだいだいしょく)(きら)めく素肌(すはだ)。そして肉付きがほっそりとしている中で、(ひじ)まで()れる大きな巨乳(きょにゅう)(にじ)(いろ)(かがや)く長い(かみ)首筋(くびすじ)から(ゆか)まで()び、大人(おとな)びた顔つきに純白(じゅんぱく)(ひとみ)の女の子・・・女の子というよりは大きな女人(にょにん)と言った方がいいだろうか・・・。

「・・・・・」

女人は起きて早々(そうそう)あっけらかんとした顔で、ジーっと【攣ヶ山鸑門(つがやまがくと)】の顔を(のぞ)()む。鸑門少年は一目見た瞬間(しゅんかん)から、女人の爪先(つまさき)から頭の(はし)まで、恍惚(こうこつ)眼差(まなざ)しで見蕩(みと)れていた。だが鸑門少年の記憶(きおく)からぼんやりと時計の針を思い浮かんだ。

「ハゥ!」

―・・・意識(いしき)が飛んd・・飛ぶわけにはいかない!遅刻(ちこく)御免(ごめん)だ。無遅刻無欠席が唯一(ゆいいつ)取柄(とりえ)だった僕が、全裸(ぜんら)の女性を見ただけで終わるわけにはいかない。とりあえず深呼吸。からの思いきり自分の(ほお)(たた)いて、女人のあられもない姿を、すぐさま毛布で(かく)して言った。

「とととっとりあえず・・・僕の新品のパジャマ着てくださいっ!新品など(の)で安心して大丈夫(だいじょうぶ)でふ(す)!」

「・・・・・んー」

 女人は焦燥(しょうそう)する鸑門少年の言葉を聞くと、ゆっくりと(うなず)いた。(あせ)る鸑門にゆっくり女人。相反(そうはん)する二人の時間を、時計の針が刻々と刻み続ける。

「やばいばやばいびゃびゃい!やびゃい!!!」

鸑門少年は明かなタイムロスに舌を()(まく)ったが、無理やり平常心に戻すと、冷静に(いま)(わか)る女人のデータを分析(ぶんせき)した。

(僕の言葉が判るということは、日本語が(わか)るってことだ。髪が赤かったり青かったり黄色かったり、光の当たり方で色が何色にも変わってたから何人(なんじん)か判らなかった。最終的に色は、僕の毛布の灰色を映し出すような灰色だった。・・・?ってことは無色(むしょく)透明(とうめい)の髪?・・・いやそんな髪見たことない)

 鸑門少年は髪の色で外国の人かどうかを判別している。(ちな)みに鸑門少年は、日本では黒と白髪しか見たことない。

(いやいや今はそんなことどうだっていい。早く学校に行かなくちゃ・・・急いで服を持ってきて・・・・あ、改めて考えると僕の身長と女性の身長が全然合っていない。どう考えても身長百八十センチくらいある・・・)

「え・・っと合う服がなかったです。ごめんなさい」

 体格差さえまともに確認できない自身の不手際(ふてぎわ)に、鸑門少年は謝罪と共に情けない気持ちに(さいな)まれた。すると女人はゆっくりとした動作で鸑門少年に右手で手招(てまね)きしてきた。裸でそんなポーズされたら、思春期(ししゅんき)の男子ならいつ(おそ)ってもおかしくない。だが今はそんなことに(うつつ)()かしている(ひま)などない。と、鸑門少年は躊躇(ちゅうちょ)なく本能を押し殺した。だが一向に手招きをやめない女人に鸑門少年は渋々(しぶしぶ)、渋々顔を近づけた。すると女人が僕に急接近したかと思えば、少年の右の(ほお)と女人の右の頬が密着(みっちゃく)した状態で、少年の耳元に向かって小さな声で言った。

《【囗清水晶(いしみずあきら)】》

「え?」

《名前》

 まただ。直接(ちょくせつ)脳内(のうない)に語りかける声。この現象は学校でも聞いたあの声。やはりこの女人があの光の正体なのか?

「君が・・・ってそんな場合じゃない!早く学校に行かなきゃ遅れる!」

 最早(もはや)そんな悠長(ゆうちょう)なことを考えている(ひま)などなかった。ふと時計を見ると、とっくの昔に五分経過(けいか)していた。後五分で学校に着かなければいけない。鸑門少年は制服をトップスピードで着替(きが)えると、冷蔵庫(れいぞうこ)からバナナ一本をトップスピードで口に放り込んで、(かばん)を持って家を飛び出した。

「急げ!急げー!いーそーげー!」

 もう無我夢中(むがむちゅう)だった。そこまで走ることが得意でないにしろ、体は(すで)火事場(かじば)馬鹿力(ばかぢから)を発動していた。そして少年は時間ギリギリで登校する生徒の(だれ)よりも早い足で、学校に向かって()け出したのだった。


「ぜえ・・・ぜえ・・・とう・・ちゃく・・」

―おい、お前な・・・。

 それから鸑門少年は五分も経たずに学校に着くや(いな)や、校門前に立っていたのは三節棍(さんせつこん)をぶんぶんとぶん回す秋羽(あきば)先生であった。(あき)(がお)眉間(みけん)(まゆ)(ひそ)める秋羽に対し、鸑門少年は(いま)(きん)(ちょう)()くことはない。理由は明白。自分の席に着くまでが登校であり、こんなところで時間を食うわけにはいかないのだ。鸑門少年は(あら)い息を()らしながらも、秋羽の目を半開きで(にら)みつけながら言った。

「ぜえ・・遅刻・・・じゃない・・ですよね・・では」

―何言ってんだ?おい、ちょっとま!?

 鸑門少年は秋羽の返答を待つことなく、その場をトップスピードで後にした。秋羽先生は鸑門少年を見ながら、首を(かし)げてこう思った。

―あの女子生徒って新入生だっけ?・・・なんか光の反射で目がチカチカして見えたり見えなかったり・・・・って何言ってんだ俺?


 それから(さら)に三十秒後。鸑門(がくと)少年(しょうねん)は無事二階の一年の教室に着くと、目の前の一年一組の教室の中に入っていった。

中に入ると四、五人の生徒が友達数人を(かこ)って、教室の角と角を陣取(じんど)って五月蠅(うるさ)いトークを()り広げていた。その他は芸をして(まわ)りを笑わせたり、自分の席に(すわ)って()ていたり、本を読んだり、友達を囲って話していたり、カードゲームをしていたりしていた。だが鸑門少年は周りの音を一切無視し、自分の席の方に向かって行く。席は男女混合、名前の五十音順で縦列(じゅうれつ)からして席は、教室の丁度(ちょうど)()(なか)に位置していた。

「・・・!」

だが自分の席を見ると、知らない女子が陣取って他の女子数名と話していた。だがそんなことは鸑門少年にとって関係ない。一分一秒を争うそんな時に四の五も言っていられない。鸑門少年は自分の席の前に立つと、(おもむろ)上履(うわば)きを脱いだ。そして自分の机の上に立つと、陣取っていたガングロ女子が鸑門の気配に気づくや(いな)や、舌打ちと同時に鸑門の方を(にら)んできた。

「何だよ、ハゲ。おまえの席なんてねぇよ()!」

「今すぐそこ退()かなければ今からお前の首を()める」

 ガングロ女子の言葉を言い終える前に、鸑門少年はスッとガングロ女子の首に向かって手を伸ばしてきた。鸑門の顔は獲物(えもの)()らえるハンターのように・・・

「!?」

鸑門少年の手がガングロ女子の首筋(くびすじ)を捕らえる0.002ミリ前、ガングロ女子は目の前の男子が本気で自分を殺そうとしていることを(ようや)く理解すると、椅子(いす)から転げ落ちながら席を(はず)し、半泣き状態で自分の席(鸑門のすぐ後ろ)に座った。その後、ガングロ女子は顔を(かく)したまま、あまりの恐怖(きょうふ)に体をガタガタ(ふる)わせながら泣いていた。

「二度目はない。次は必ず殺す」

―ビクッ

 背後(はいご)から()こえた冷たい声に、ガングロ女子は小さな悲鳴を(こぼ)した。鸑門少年のその言葉は(まさ)しく警告であり、そのお(かげ)でガングロ女子の寿命(じゅみょう)幾分(いくぶん)か減った気分になった。鸑門少年が席に着いた直後・・


―キーンコーンカーンコーン・・・


丁度八時四十五分のチャイムが鳴り(ひび)いた。

「はあぁ・・」

 鸑門少年は(ようや)く全てのミッションをコンプリートしたことに安堵(あんど)し、大きく息を()いた。(あせ)がこんなに出たのは初めてで、何故(なぜ)か後ろの席がガタガタ震えているように思えたが、気のせいだろう。さっさと必要な教材を(そろ)えて一時間目の準備をしなくてはいけない。鸑門少年が粛々(しゅくしゅく)と授業の準備を始める中、あの殺意をもって首を絞めようとした現場を目撃(もくげき)したクラスの半数は、鸑門少年を(おそ)れ終始震えていた。

「どうしたー!そんな暗い空気でー!!」

そんなどんよりとした教室に一際(ひときわ)元気(げんき)な声で入ってきた担当教師は【秋羽爽二(あきばそうじ)】。先ほど正門前で鸑門少年を(むか)えた教師である。三節棍(さんせつこん)をこよなく愛す男。秋羽は何とかこのどんよりとした空気をぶち(こわ)すため、次にこう言い放った。

「お前らに一つ言っておく。朝はシャキッと前を向く!」

―・・・・

「おいおい、これから初めての中学校生活が始まるっつうのによぉ・・」

 二日目から生徒達に無視され、秋羽爽二は溜息(ためいき)(こぼ)して出席を取り始めようとした、その時。ペンを取り出し出席簿(しゅっせきぼ)を取る(さい)、出席簿の金属部分が太陽の光を(とら)えた。次の瞬間(しゅんかん)太陽(たいよう)の光に当たった金属部分がうまい具合に鸑門少年の方に反射した。秋羽はその時鸑門を見て、再度首を(かし)げながら鸑門少年にこう切り出した。

―お前・・・何で女子生徒を(にぎ)ってんだ?

「・・え?何言ってるんですか?」

 準備を終えた鸑門は、きょとんとした顔で秋羽に答えた。秋羽は改めて鸑門を見るが、さっきまでいた(はず)の生徒の姿は見えなくなっていた。更に他の女子席を見ても、全員の女子が席に着いていて、先ほど目撃(もくげき)した女子の姿はなかった。

()間違(まちが)いか・・・いや何でもない。すまないな

「はあ・・・」

 鸑門少年は一体何だろうと思い、ふと圧迫(あっぱく)された手の先を見た。

「ほ?!」

 右手の先、地べたにちょこんと座る囗清水(いしみず)(あきら)の姿があったのだ。

(でも服が・・・ってその服・・・)

 服はしっかりとこの学校に合った女子生徒の着る冬服を着ていた。ホッと(むね)()()ろすが、すぐに我に返ると、鸑門少年はすぐに他の生徒達を見渡(みわた)した。

(・・・あれ?・・・誰も晶を見ていない。無色透明でいろんな色に変化する髪なら誰でも注目するはず・・・???)

《私はパパしか見えないし、聞こえない》

(え?・・・どういう)

 また鸑門少年の直接脳内に(ひび)(あきら)の声。鸑門少年は三度目なので左程(さほど)(おどろ)かなくなっていた。

《パパの禿(はげ)の部分に私の(たましい)()()まれた。それがある限り、私を見て感じることができるのはパパだけ》

 鸑門少年は必死で理解しようとするが、つまり周りからみれば晶は『幽霊(ゆうれい)』という意味なのだろうか?晶は即座(そくざ)に鸑門少年の考えを否定した。

(ちが)う。晶はもともと石だった。そんな私を初めて感じ、触れ合ったパパは私のパパであって、私が唯一(ゆいいつ)この身を許すオンリーワン》

「おい攣ヶ(つが)(やま)、何ボーっとしてんだ。出席だぞ!」

「!は、はい!」

 鸑門少年は突然(とつぜん)の先生の声に(あわ)てふためいたが、晶との会話を聞いてこないということは・・・

《そう、この会話もパパと私だけの空間で成り立っている。だから誰にも邪魔(じゃま)されない》

(でも(さえぎ)られた)

《それはしょうがない。周りから見れば、晶と会話している時の鸑門はボーっとしているだけの変な人》

(それは()ずかしい・・)

《とりあえず授業が始まるからその後で》

 晶は何かを(さっ)したように話を切り上げた。


―キーンコーンカーンコーン


 九時のチャイムが鳴り響く。晶はこれを予測していたのだ。一時間目の合図。一時間目は国語、僕が一番苦手な科目である。

(この授業は絶対(ぜったい)見逃(みのが)せない。国語の後であっちの階段で話そう)

 まだ鸑門少年は晶の言葉の半分も理解していなかったが、とりあえず次の授業に集中することに決めた。

《分かった。じゃあ散歩してくる》

晶はそう言うと、鸑門少年の手を離れ、一年一組の教室をテクテクとアヒルのごとく歩き回り始めた。鸑門少年は晶に問いかけた。

(本当に見つからない?)

 晶は()(かえ)ることなく(うなづ)いて答えた。

《パパの持ち物を持っている人か、極度(きょくど)の直射日光が当たらなければいい。今は丁度日差し()けのカーテンが(おお)ってあるから・・》

(・・・確かに日光が当たれば水晶も(きら)めくな・・・・)


―キラン


「ん?・・・今の・・」

《あ》

(え?)

 ここは教室。太陽以外にも光らせる道具は五万とあるこのご時世(じせい)に、晶は不用意に手鏡(てかがみ)でメイクをしているガングロ女子に近づいていた。不思議(ふしぎ)そうに鏡を(のぞ)き込む晶に、ガングロ女子が気付かないわけがなかった。

時間がないので簡潔に、晶はスタイル抜群の身長179センチの女の子。瞳の色・・純白、大好きはパパ。職業・・・娘!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ