5の噂 ~水晶は煌めく(めざめて)・上~
何故か眠れないツガヤマ少年。そんな少年はふと制服の方を見て、どこか違和感を抱いた。
「パチン(瞼を開く音)」
現在夜の九時過ぎ。借家にただ一人、緊急の依頼で仕事に行った両親に代わって家の留守をすることになった【攣ヶ山鸑門】少年は、唐突に目を覚ました。目を開けた理由は定かではないが、予想される事態と言えば悪い夢を見たということだろう。だが必死に思い出そうとしても夢の内容が全く思い出せない。
(・・・明日も学校だっていうのに・・・)
攣ヶ山少年は溜息を付いて、ふと壁に立て掛けてある制服をチラリと見た。
「似合わなかったな・・」
そういえば学校の廊下の階段に大きな鏡があったっけ。自分の制服姿を見て「誰だ?この服と自分の合わなさは」と落胆したのを思い出し、少年は二度目の溜息を付いた。明日もこの服を着なくてはいけないのか・・・憂鬱になりそうだ。
鸑門少年はズーンと沈む気持ちのまま、他に見る物もないので仕方なく制服を眺めていた。
「・・あれ?何か膨らんでるような・・・」
鸑門少年は上着の右ポケットに膨らみがある部分を発見した。まだそこにはハンカチすら入れていなかったはず。鸑門少年はその膨らみが気になり、ベッドを降りて制服の前に立つと、早速右ポケットの中を弄ってみた。
「・・う~ん・・・・なんか固い?・・・でもそんなに大きくないみたい」
独り言をぶつぶつと呟きながら、ポケットの中にある者を取り出して見た。手の平にあるそれ(・・)はまるで、純粋な光そのものを見ているような、眩すぎる物体が確かにあった。目を凝らしてみると、日の平の指紋や血管の細部まで見えてしまうくらいに透明な石(?)であった。硬さもなければ重さもない。握り締めれば壊れてしまいそうな小さな石。形は直径十ミリメートルの菱面体(菱型の多面体)ほどしかなく、落してしまえば探すのは非常に困難の代物だ。
(宝石・・)
鸑門少年の頭を真っ先に過った文字は宝石と『値段』であった。
「これ・・・幾らだろ・・?本物なのか?・・・でも一体どこから入り込んだんだ????」
鸑門少年の頭は途端に熱暴走、後にショート(短絡)した。そして放心状態に陥った少年は、体を一回転して後ろのベッドにダイブした。
―ボフッ
羽毛布団の臭いが部屋を充満する。と言っても、今日初めて使うので新品特有の刺激臭が鸑門少年の顔を歪ませる。だがそのお陰で平常心を取り戻し、また頭の中で葛藤を始めた。
(宝石・・まだ本物かどうか全く分からない。けどもし本当だったらどうしよう。もし持ち主がいるなら早く返さなきゃ・・・・もし警察総出で探していたら・・・)
不安と暗雲が鸑門少年の頭を駆け巡る。
(どうしよう・・・もうこの宝石という存在が恐怖の大魔王のように見える。この宝石をどうするかで僕の運命は大きく一変するのかな・・・いやする。しなければいいのにと思うけど、偽物かどうかは誰かに確かめればいい。そうだ。骨董屋だ!そこに行けば少なくとも本物かどうかはわかるはず・・・!)
鸑門少年はやっとのことで明るい未来を見つけ出し、いざ支度しようとするが、全く力が入らない。
(あ・・やっと・・・・眠れ・・る・・・・・スカ~)
鸑門少年は十時を過ぎ、漸く眠気が復活して寝ることができた。宝石を握ったまま・・・
・・・ここは二年四組の教室・・・夢か・・・・・
もし光の正体が僕と同じ人だったなら友達になれただろうか・・
そうだったらいいな・・
人ではなくてもいいのだろうか・・
動物だったら?
幽霊だったら?
悪い人だったら?
・・・
・・・
・・・
この町を少しでも楽しく生きるためには、この町で暮らしている人と接する必要がある。
だから誰でもいい。
あの光が本当に輪郭そのものの人だったら・・・
出来れば異性がいいかな・・
女子の友達はいなかった・・
今のうちに慣れておかなきゃ・・
そういえばあの光の中の人の姿は僕よりか頭一つ分大きかったっけ?
二年四組なら一学年年上なら当然か・・
年上と友達になるのも悪くないかな・・
ちゃんと笑って言えるだろうか・・
「友達になってください」って・・・
・・・・・・・・
・・・・
・・
―チュンチュンチュン・・
小鳥の囀りが聞こえる・・・って
「あああああ!」
僕は目を丸くして飛び起きた。そしてすぐさま窓を見る。そこには晴天の朝日が神々(こうごう)しく見下ろしている。時間は九時になる十分前。九時になれば百パーセント遅刻である。
「嘘・・・予習しても遅刻すれば第一印象最悪だ・・・」
と思ったが、そういえば昨日『ハゲえもん』というあだ名をつけられる恥辱を受けたんだった。今更遅いか。・・・・いやいやでも遅刻はもっとダメだ。この家から学校の距離は八分くらい。速攻準備していけば大丈夫だ。朝食は・・・バナナで我慢だ。
―ンー・・・
「・・へ?」
鸑門少年が必死で頭を整理していると、ふと後ろから声がした。水晶のような透き通る女の人の声。勢いよく後ろを振り返ると、そこには布団以外何もなかった。
―キランッ
いや・・・・違う。日光がそこに光を当てたことで、同じ布団に寝転ぶ寝癖の付いた長い髪の女性の姿を映しだした。だが今にも消えそうなその淫靡な肢体をよく見ると、服を着ていない。
つまり・・・・
短い文が多いですが、変に伸びるのもどうかと思っての判断です。続きはこの後に上がると思いますので、少々お待ちください。この少女、結構大きい。