4の噂 ~遭遇~
新品の机の上に、何故か『水晶』の文字が書かれている。不思議に思ったツガヤマ少年はその文字に触れた瞬間・・・
同時刻、ミヤビ少女は陰険三人組に言われた通り、噂の真相を確かめるため、二年四組の教室の前に立っていた。
ー・・・・ぽぴゅ!
そういえば今日目玉焼きが失敗して卵焼きにしようとしたけど、それも失敗してスクランブルエッグになったんだっけ?・・・でも胡椒入れて食べたら美味しかったな。まだご飯もお米の量とか水の量とか研ぐのとか、まだまだ一人暮らしするには全然うまくないけど、母さん父さんには心配かけたくない。両親は今、緊急の用事で海外出張に行っている。僕なら大丈夫だ。まだ友達はゼロだけど、いつかいっぱい作って自慢するんだ。もっとが
―ぎゃじゃりゅにょぴゃぴぃ!
「!」
意味不明な言葉が僕の頭を大音量で鳴り響いた。鼓膜が破れるかと思ったけど、僕は二、三メートルくらいで飛び起きた。尻餅を付いてめっちゃ痛かった。ここは真っ暗で声も届かない世界。だが今の声、さっき二年四組の教室で聞こえたあの声と同じだ。でも何言っているのか全く見当がつかなかった。ふと後ろを見ると僕より大きな水晶珠が浮かんでいた。真っ暗な空間の中で唯一つ、この水晶珠だけが燦然と輝いていた。少しだけ楕円の形をした透明な水晶は僕が立ち上がった途端、いきなり何かを呟き始めた。
―ぴゃぴゃ・・・
「・・・・?」
―パパ・・・・パパ!
「・・へ?」
水晶は「パパ」という言葉を呟いたかと思えば、僕めがけて猛スピードで突っ込んできた。
「ぐはっ!」
なす術なく水晶の下敷きにされた僕は、大きな激痛と共に「痛!」と叫ぶと、水晶が「パパ!・・」と悲しそうな声で離れた。と思った矢先、周囲の空間から僕の意識は突然弾き出されたように、またも意識が遠のいていくのが分かった。
「ここは・・・」
僕は水晶と書かれた席の隣に、仰向けの状態で倒れていた。黒板の上の時計を見ると、四時半。三十分も過ぎていた。
僕はハッと我に返ると、すぐに家に駆け足で帰るや否や、急いで次の授業の予習をして、先生に質問されても恥をかかないようにするために、適当なおにぎり三つを食べて、夜八時に就寝したのだった。
もうあの席に水晶の文字はなかったことを、僕はまだ知らないまま・・・
「今の!」
【髀皚雅】もまた二年四組に立ち寄らなければならない理由があった。初めて会った陰険三人組に脅され、あの水晶の光の真相を確かめさせられたからである。だがいざ教室に入ろうとしたその時、反対側の戸から見知らぬ男子が勢いよく開け放つと、そのまま逃げるように二年四組を後にしたのを、雅は偶然発見したのだった。
「・・・・なんだろう?」
雅は首を傾げたまま状況を整理しようとするが、結局解決には至らず、そのまま教室の中に入ろうと戸を開けようとするが、全く開かない。仕方なくさっき男子が開けた戸を開けようと立ち寄ると、ふと地面に上着のボタンが落ちていた。さっき戸を開ける際に、勢い余って落ちたのかもしれない。
(明日にでも返そうかな・・・)
雅はそのボタンをポケットに入れて、とりあえずさっき開いていた戸に手を掛けるが、もう戸は完全に閉まっていた。力いっぱいに開けようとするが全くビクともしない。
「あれ?・・・おっかしいなあ・・確かにさっき、この戸を開けて逃げて行ったんだけど!・・・やっぱり開かない」
雅はガックシと肩を下ろすと、トボトボと二年四組を後にした。開かないのなら帰るしかない。窓ガラスをぶち破いて入るなんて恐ろしいことを、雅が出来る筈もない。あの三人をどう説得しよう。数で負けているこの状況、友人と呼べるものもいない今の彼女に味方などいるだろうか。家に帰れば、そこには誰もいない。だが孤児の私を偶然拾って下さった今の校長に大変感謝している。だからこそ一人暮らしくらいは自分でやろうと仕送りだけもらって、大きくなっていっぱい働いて恩を返すつもりだ。
そうだ。恩を返すまでは諦めない。と強い意志を湧きあがらせた雅は、あの三人を見返す算段を家に帰って考えようと決心したのだった。
漸くガラス珠(または水晶珠)が現れました。ツガヤマ少年とガラス珠の出会いが一体どんな風になっていくのか。ツガヤマ少年とミヤビ少女との出会いもこの先どうなっていくのか。・・では次回。