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ガラス珠の少女  作者: Sin権現坂昇神
第二章 因堕応報-いんだおうほう-(仮題)
26/29

壱拾六の噂 押し寄せる恐怖(死)

絶望は突然やってくる。悪戯に…笑顔と共にやってくる――

それでも尚…進む? それとも…

「これ……いいっ!」


 ここは三人の記憶領域が混在して作られた世界、『記憶領域混同型・領域度K・場所:軋轢(あつれき)小学校四階三年一組周辺』。トイレの花子さんは、暇つぶしのつもりで一人の少女にある種を()いた。が、思った以上に面白い展開へ行く中、花子は段々と快楽の衝動に駆られていった。

 その結果、花子はひょいっと瓢箪(ひょうたん)に隠れるようにジャンプすると、手をドリルのように変え瓢箪の表面に穴を空けた。そして左腕の根元まで突っ込んだかと思えば終始恍惚(こうこつ)な表情を浮かべるのであった。

まるでゲームをプレイするかの如き。瓢箪に()り込んだ腕を何度か回転させては、手を広げたり握ったりと様々な動きを繰り返して、瓢箪の中に閉じ込められた少女・髀皚(ももしろ)(みやび)を操作した。


「あれ…これは――!」


そして花子はあるものの感触を発見すると、すかさず掴んだ。ドクンドクン…と脈打つ弾力性のある(いびつ)な球体。それは正しく――髀皚雅の『心臓』であった。だが、花子はそれに気づいた瞬間、快楽と更なる興奮が融合し、左手をこれ以上ないくらい激しく動かし始めた。


「あ…あああああ!!!!」

「いけいけっ蛸壺童子!」


雅は心臓を(えぐ)られる度、(いじ)られる度、言葉にならない激しい苦痛が体を襲った。そして雅の苦痛が大きければ大きいほど、雅の苦痛を媒体(ばいたい)として生まれた『悪戯玩具(あっぎ)蛸壺(たこつぼ)童子(どうじ)』は高らかに咆哮(ほうこう)を上げ、蛸の足を八本から二倍に増やし、先ほどの動きよりもさらに速く、強く、命中率が格段に上昇した。

 蛸壺童子の胎内(たいない)で苦しみのた打ち回る雅を前に、蛸足の攻撃を只管(ひたすら)に避け続ける二人は一方的な防戦を強いられていた。だがこちらにもガラス珠の少女・囗清水(いしみず)(あきら)に授かった雅救出の糸口がある。鸑門(がくと)景織花(きょうか)はその糸口をいざ実践しようとした――

 その時…。


「あ――っ」


 攣ヶ山鸑門(つがやまがくと)は漸く三本の蛸足を避けるようになってきた。が、その蛸足は突如として威力・スピードを増して鸑門の頭部・腹部・股間部めがけて一直線に襲い掛かってきたのだ。頭部も腹部もダメだが、股間部はもっと駄目だ。鸑門は本能を発動して即座に全身をねじらせるが、別格の速さへと変貌した蛸足は鸑門の予想を大幅に上回るスピードを上げ、三か所の部位に突っ込んでいった。鸑門の懸命の回避も空しく――


「鸑門!」

「景織花さん…ぃっ!」


 その瞬間を景織花は見逃さなかった。先ほど蛸足を避けるために左方に飛んだにも関わらず、咄嗟(とっさ)に距離を詰め鸑門を右方に着き飛ばした。


「良かった……ぐっ!」


 しかし、鸑門を逃がしたことで、蛸足が景織花の行動に即座の修正が追い付かず――蛸足の三本のうち、一本が景織花の(ひだり)(わき)を横一線に(つらぬ)いた。景織花はあまりの痛みにその場に(うずくま)るが、景織花を貫いた蛸足はすぐに景織花から離れ、残りの二本と共に猛追を再開した。


「今度こそ…先輩!」

「!」


 鸑門は景織花に襲い来る三本の蛸足を予感し、先ほどの(つぐな)いとばかりに全身全霊を使って景織花を背後からしっかりと抱き留めると、体を三回転させながら後方へ移動した。

油断は死。もし回転が一回でも少なかったら死んでいただろう。だがまだ終わってはいない。蛸足の攻撃は止む気配なし。鸑門と景織花は改めて自分達が戦っている相手が、途轍(とてつ)もなくやばいのだということを再認識した。鸑門は激しく悲鳴を上げながら暴れる蛸足を前に、凄まじい怖れと圧倒的力量差を感じさせられた。


(…怖い! こわい! KOWAI! 運動神経抜群の風鈴寺先輩でも避けきれていないのに、万年補欠の俺にどうしろっていうんだ! 威勢のいいこと言ったくせに…俺は…俺は――!)


 この場で唯一の男子、鸑門は蛸壺の攻撃を(ほとん)ど受けては、ギリギリのところで貫通することなく(かわ)し続けていた。それ故擦傷は多いが致命傷となりうる人体貫通は一度も負ってはいない。

だが…、


「うっ……はあ――」


 今まで完璧に避けてきた風鈴寺景織花の体は今、左脇から右脇にかけて綺麗に穴が開いていた。そこから大量の血が止めどなく(あふ)れ、景織花が必死に手で抑えようとしているのが馬鹿らしくなるくらいの量が、景織花の命を一気に削っていく。鸑門は死にゆく景織花を前に、どうしたら景織花を救うことが出来るかを必死に考えた。そんな中絶え間なく蛸足攻撃が鸑門と景織花に襲い掛かってくるが、鸑門は今まで(かば)ってくれた景織花に報いるように、本能の勘を研ぎ澄ませながら蛸足の攻撃場所を、目を凝らして観察し避けまくった。


(蛸足は十六本…俺の手足は合わせて四本…俺の瞬発力じゃ全てを(さば)ききることはまず不可能。…しかも景織花先輩を怪我させてしまった。俺のせいだ――だから――――いや、ちょっと待てよ――?)


 ふと、鸑門の頭の中で何かが(ひらめ)いた。景織花の体を案外軽いが、やはり抱きながら避けるとなると的が二倍になってしまい、蛸足の恰好の的だ。だがそれ以上に抱き留めた際に、景織花の胸のトップをホールドしてしまったことへの罪悪感が鸑門を襲った。今は生か死かの戦いなのに…。

と、蛸足を目が血で染まるほど開けては景織花を抱いて避けながら、鸑門は景織花にこう叫んだ。


「晶!」

「! 何パパ――?」


 景織花の髪と瞳はまたも無色透明に変わり、見た目がほぼ晶へと変化した。鸑門は晶の声に納得するとこう続けた。


「その状態で赤…つまり前に泊里(とまり)の傷を治した治癒(ちゆ)みたいなことは出来るか?」


 大黒(おおぐろ)泊里(とまり)。それは午前中、泊里と友達になるきっかけとなった出来事があった。その時負った泊里の傷を、晶は髪色を赤へと変化させて泊里の傷を完全に回復させたことがあった。

だがそれ以来その力を使ったことはない。もし泊里の近くや、泊里に触れていなければ使えないという条件がある可能性だってある。だが今は一刻の猶予(ゆうよ)もない。鸑門は晶を見つめる時間すらないまま、蛸足の攻撃を息する間もなく避け続ける。晶は無言で考えた。





「出来るっスか? そんなこと…」

 

 ここは景織花の中、景織花と晶の意識が共存する名も知らぬ世界。景織花と晶はそこで共に景織花の体を使っているのだが――鸑門の発した言葉に景織花は驚愕した。晶は人間ではないということは、現状を見れば解る。だが傷を治すことが出来るのなら…今景織花が追っている傷を治すことも出来るということだ。景織花の命は晶に懸かっているといってもいい。――だからこそ晶は首を横に振った。


「分からない…もし失敗して、景織花の命が今度こそ消えてしまうかもしれない――」


 晶は怖かった。まだ知らぬ己の体、記憶、力を前に、恐怖で足が(すく)んで、さらには体中が震え始めた。…怖くて堪らないのだ。己の無知が何よりも怖い。だが景織花は溌溂(はつらつ)とした声でこう言った。


「でも…このままじゃあ、あたし死ぬっスよ。だったらやるなら今しかないっしょ? あたしはこれから雅ともう一度友達になりたい。だからまだ死ねないっス」

「え…でも」


 なぜ彼女はここまで元気でいられるの? 晶は困惑した。己が死ぬかもしれないのに…人でもない何者かもわからない自分に何故そこまで未来を預けられるのだろうか…。だが晶の考えを知ってか知らずか、景織花はまたも晶の心をかき乱した。


「いいからやる! あたしの体はあたしがちゃんとわかってるから――こんなところで割る体じゃない! 晶のことよくわかんないけど…晶ならやれる。そう思うことにしたっス…だから晶もそう思う! はい!」

「え!? …でも」


 もはや言っている意味がさっぱりだ。だが今は時間がない。こうしている間にも景織花の命は刻一刻と消えて行く。鸑門だっていつまで攻撃を避け続けられるかわからない。雅の苦痛も……ならば――


「…うん。わか…った。晶は…できる」

「晶はできる!」


 晶は自分の手を握り締めながら言い続けた。景織花はそんな晶の手を(おお)うようにして晶の手を握って復唱する。

 何度言っただろう…。晶の心から何かまた新しい何かが生まれようとしていた。そして何回目かの言葉を言った――


「晶は――出来る!」


その時、パァっと握った晶の手の中から花火のような光が生まれた。


「「!!??」」


 二人は(たちま)ち驚いた。だが光は止まることを知らない。忽ち暗闇の世界は一気にその花火によってかき消された。晶の髪は、瞳は光り輝く黒へと変わった。

晶の心に『自信』が生まれたのだった。


 晶の変化は止まらない。最初景織花と会った時の変化と、今の変化。黒と光る黒の違いとは…鸑門他たちは雅を救うことが出来るのか…。月一で書いていますが、三作品同時執筆はきついっスね…。昔の漫画家は凄すぎです。というわけでモンハンと鬼滅の刃と神緒ゆいは髪を結いと新作テイルズと今後視るアニメ映画と遂に完成するジークフリード・フォン・シュナイダーデッキを楽しみにして…まだまだ生きて書き続けていきます。


PS.遊戯王の新作アニメとリンクスの新ワールドが気になる今日この頃。早くモンハンを全クリしなければ…

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