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ガラス珠の少女  作者: Sin権現坂昇神
第二章 因堕応報-いんだおうほう-(仮題)
23/29

壱拾参の噂 ~寄る闇カオス~

鸑門の賭けの運命やいかに…


時を同じくして景織花の心世界『核石-かごのいし-』にて、ガラス珠の少女・囗清水晶-いしみずあきら-はとある少女と対面するのだった…


 少女・風鈴寺(ふうりんじ)景織花(きょうか)が生み出した心世界『核石(かごのいし)』。景織花の核石は今、風船のような球体型の壁面に毛細血管のような管が無数に張り巡らされている状態となっていた。更に底の方からは徐々に血のような真っ赤な液体が溜まっていく。まさに心臓の内部に入ったような世界である。


そこでただ一人。しんと静まり返った核石の中で、学生服を着た少女が一人、(たたず)んでいた。少女の名は、囗清水(いしみず)(あきら)。水晶から人の形として生まれ変わった少女である。そんな晶にはある特別な力を持っていた。それは他人の感情に感化されることでその相手の感情に影響され、己の体に色が生まれる能力である。そして感化された色によって固有の能力が備わる。今晶が感化された色は赤と黒。赤は回復、黒は攻撃の二種類だ。

晶は今己が持っている二つの能力を元に、今起きている絶望的な状況の打破を図っていた。その間、底から止まることなく赤水が()き、晶の胸下まで到達。灯りもない出口もないこの世界で、男女四人は完全に閉じ込められたのだった。

晶以外の三人の男女、攣ヶ山鸑門(つがやまがくと)風鈴寺景織花(ふうりんじきょうか)髀皚雅(ももしろみやび)の三人は今、晶の視線の先にいる。自身の心に渦を巻くように(うごめ)く居心地の悪い何かを必死で(おさ)えながら、晶は早くこの最悪が終わりますように…と強く願い、石と化した男女三名の方を見ていた。


「パパ…」


 淡く消える微かな叫び。けれど願っているだけでは変えられない。晶は今自分が出来ることを再び考え始めた。

晶がパパと呼ぶ少年・鸑門が自らの行動により生まれた一筋の光明。それは景織花の心が具現化した水晶を、因縁が最も深い(みやび)にぶつけることだった。だがその結果は鸑門を含めた三人が石化しただけ…。その上徐々に水嵩(みずかさ)を増す血だまりが、段々と重石と化した三人を下から飲み込んでいく。状況は好転していくどころか悪化の一途(いっと)辿(たど)っているように見えるが――。晶は鸑門を責めることは、ない。


(きっとパパのしたことは何かに(つな)がる…)


 それは信頼でもなければ、崇拝(すうはい)でもない。まだ出会って一日も経っていない中で、晶は鸑門の一か八かの()けを、自分の手でどうにか後押しできないかと考えたのだ。自分を生み出した相手である鸑門と絶対に別れたくない。折角鸑門が命を張って付いた嘘を、最期の言葉にはしたくない。晶は胸の(うち)でそう叫びながら、更に考えた。


…だが一向に思いつかない。水圧が胸から下を締め付け、下半身の動きを(ことごと)く止める。思考が回らない。どうにか進展させたいのに、時間は無常に過ぎていく。


(…どうしたら…パパを…みんなを助けられる――?)


 晶は動けない。思考と体は完全に止まってしまった。更に水嵩が増していき、石化した三人の(あご)にまで達した。晶はただ飲まれていく三人を見つめることしか


――あ~あ、何か気になって来てみたら面白いものみ~つけたぁ~


 突然の来訪者。甲高い声が核石を満たす。だが晶が驚いたのは声だけではない。晶は視線を声のした者へ移した。と言っても(ほとん)ど位置は同じだったため、少しずらしただけで目と目が合った。相手は晶と同じ人型。だが二メートル級ある晶に比べて、その人型の体はあまりにも小さい。五、六歳の少女だろうか…。

晶の視線が観察眼へと変わると同時、少女の口はニヤリと笑った。瞬間。晶の背に何かが走った。その正体は解らなかったが、晶にとって悪い何かだと容易に想像することができた。

天井から蝙蝠(こうもり)の如く体を逆さにぶら下げながら、おかっぱ髪に赤い吊りスカートを着こんだ黒髪少女は、石化した三人をじっくりと眺めていた。





 時を同じくして風鈴寺景織花は、ふと昔のことを思い出していた。

 景織花は幼少期、子犬を飼っていた。ブルドッグという名前だと知ったのはつい最近のことだったが、景織花にとっては犬の名前なんてどうでもよかった。自分が気に入った、子犬も一緒に気に入った名前で呼び合えれば、それで大いに良かったのだ。

 だが――


「ぽっちー」

――ワワンッ

「あいたっ! …もうこれで百回目じゃない!」


 子犬は百回目の命名式でさえ嫌がった。景織花が折角子犬の為に考えた百個の名前案を(ことごと)く拒否したのだ。結局、景織花は百回目の名前『ぽっちー』を意地でも使っていくことに決め、子犬も景織花にぽっちーと呼ばれる度、意地でも攻撃しようと(ちか)ったのであった。

こうして少女と犬の最初の出会いは最悪のスタートを切った。


――ぽっちーとの出会いは、自宅の玄関前だった。ぽっちーの体には所々に傷があり、景織花は母に頼んで期限付きで看病をすることにした。もちろん飼い主がいないかも探しながら…。

結果、飼い主は見つからなかった。…ということでめでたく景織花の飼い犬に…なることはなかった。理由は景織花の母は犬が大の苦手だったのである。期限付きなら我慢できたのだが、本格的に飼うとなると「ごめん! どうしても無理!」と言った。そんなわけで景織花は渋々母の言いつけに従い、ぽっちーを他の犬好きの人に繋ぐことにしたのであった。

………

……

そして景織花の心にはぽっちーとの思い出がそこかしこに残っている。喧嘩(けんか)したこと、甘えようとして()られたこと、一緒に水浴びしたこと、一緒に寝たこと、一緒に泥んこ遊びしたこと、全部全部忘れたことはない。しっかりと景織花の記憶のページに写してある。

――だが例喰笑(れくいえむ)との出会いで全てが変わった。楽しい思い出を一切思い出せなくなったのだ。悲しくて痛い記憶ばかりが記憶のページを埋め尽くす。そんな日々が毎日続いた。(みやび)(いじ)め役をやるようになってから、それがさらに加速していった。自分がどんどんどす黒く染まっていく。もうどんなに洗っても消えることはない罰と罪。


それから時は経ち――。再び景織花の目の前に、後頭部の中に隠れていた十円(じゅうえん)禿()げを発見した。…そうだ。これは…ぽっちーの最大の特徴であり、景織花が今の今まで忘れていたぽっちーそのものだ。そうだ! これはましく…


「ぽっちー…」


景織花と雅が過ごしていた、とある学校の三年一組の教室の廊下(ろうか)にて。景織花は忘れていた大切な相棒の記憶ページをついに思い出したのだ。鸑門の後頭部をすりすりと(ほお)(さす)りながら、鸑門の背中を包み込むようにして抱き()め、両足でがっちり鸑門の足を(から)めながら、ゆっくりとぽっちーとの記憶を紐解(ひもと)いていった。

だがそんな景織花の事情を鸑門は一切図れない。鸑門は背後から感じる二つの巨砲・後頭部から感じる異性の肌・足に絡みつく褐色肌(かっしょくはだ)の肉感に目を白黒させながら心を激しく揺れ動かした。何がどうしてこうなっている?! 鸑門は激しくうねりを上げながら思考を始めるが、激しく波打つ心に答えは全く思い浮かばない。そうこうしているうちに景織花の密着度はどんどん上がっていく。猛烈(もうれつ)な女性の柔肌に鸑門の精神がついに…


「ちょっと何してんの!」


 鸑門の精神が有頂天へと昇りかけたその時、鸑門の前方から少女のいきり立った声が聴こえた。鸑門は驚きつつも、声の方へ目を向ける。するとそこには眉間を(しわ)だらけにした雅が、じりじりと鸑門の方へ近づいていくのが分かった。


※雅の吐いた吐瀉物(としゃぶつ)は既に三人で綺麗(きれい)に取り除きました。伝え忘れて申し訳ない。


鸑門が明らかな怒り顔の雅がこちらの方へ近づいてくのを見て、小さく悲鳴を上げた。もしや攻撃されるんじゃ…でも一体何が原因で? もしかして景織花さんのこと? …分からないけど…危ない! と鸑門は身動き取れない体勢の中、目を(つむ)ってやり過ごそうとした。最悪痛みが来ても我慢し続ければ…


「パパさんから離れなさい!」

「…へ?」


 だが鸑門の想定していた最悪の事態は訪れることはなかった。その代わりに雅は、景織花によって固定された鸑門の両手を握ると、思い切り前方に引っ張ってきたのだ。鸑門は更にどんな事態が起こっているのか全く持って理解できず、頭の中が?(くえすちょん)マークでいっぱいになっていく。…いや駄目だ。ここで思考停止していてもどうにもならない。鸑門は頭を引っ()き回しながら、言葉で二人を攻める作戦に移すことにした。


「落ち着いて二人とも!」

「ぽっち~」

「今は私の番だから!」


 後方の抱擁(ほうよう)、前方の綱引きの中、鸑門は二人の言葉を冷静に分析した。ぽっちーとは自分の事だろうか。…いや、一度もそんな名前で呼ばれたことはない。つまり鸑門を別の何かだと勘違いしているのではないだろうか。そして雅の言った言葉。私の番とはどういうことだろう…。まだまだ足りない。鸑門は再度言葉を(つむ)ぐと、まっすぐ雅を見据(みす)えて言った。


「雅さんはどうしてこんなことを?」


 (しぼ)り出して絞り出したド直球な鸑門の質問に対し、雅は微かに鸑門に向けられた視線を()らしながら(ほお)を少しだけ赤く染めて答えた。


「今は…まだ…あの時の…答え……出してない……から――」


 雅の恥じらいながら出した答えに、鸑門は「やばい…かわいいすぎ…」と思わず口から零れそうになったが、必死でそれを(こら)え――


「可愛すぎ…」


 きれなかった。それを聞いた雅はボッと顔中を真っ赤に染めたかと思えば、握っていた手を即座に離し、自分の真っ赤に染まった顔を隠した。そのせいで雅に引っ張られていた鸑門の重心が、後方に巻き付く景織花の魔の手に再び巻き取られていった。自分がもっと我慢できればこんなことには…鸑門は耐えきれなかった己の心を悔やんだのであった。





――へえ…丁度楽しそうな所じゃん。


 心臓の内部ような世界で、逆さ吊り状態のおかっぱ少女が可笑しそうに笑っていた。晶は突如現れた不気味な少女を前に、眉を(しか)めて警戒を強めた。もし鸑門を傷つける新手の敵だった場合、晶は絶対に鸑門を守らなくてはいけない。~親の一大事に子は親を守るものだ~。

…そう誰かに教わったような気がする。空っぽであるはずの晶の心にふわりと浮かんだその記憶は、眼前にぶら下がる少女の得体のしれないオーラを前に一瞬にして掻き消えた。

 晶は静かに問う。


「誰…? あなたは――」


 少女はふと声がした方に目をやる。そして再びニヤリと笑ったかと思えば、石化した三人の一人・雅の頭にゆっくりと手を乗せた。そして赤子をあやすかのように()でまわし始めた。

逆さ吊りの少女が石化した少女の頭を撫でる。たったそれだけの行為のはずなのに、晶の心臓はドクンドクンと強く脈を打ち始めた。仲間の命の危機を察知したのだろうか。

 少女はそんな晶をしり目に、次なる言葉を吐いた。


――私の名前はぁ…花子さん。…よろしくぅ~

「…」


 花子の笑みはより一層大きく()くなった。晶はその笑みを見た瞬間、体一気に硬直した。花子の威圧に晶が根負けしたのだ。花子は更に言う。


――さあて…私もそろそろ参加しちゃおうかな~――――まずは…これ!


ゴスッ


 言い終わる前に、雅の頭の上に置かれた花子の手は、石化した雅の頭の中に突っ込んだ。





 と同時に、過去の世界に留まっていた雅の頭の上から、大きな右手が降ってきた。


※内の言葉通り、説明する機会を失い、本当に申し訳ございません。


 後色々と言葉を敢えて書いていない部分が要所にありますが、書いてなくても伝わるかな~と思ってしました。言葉を詳らかに全て説明するか、敢えて隠したり、省略したりすることで内容を最低限伝え、更に読みやすさやを上げたり長ったらしさを減らしたりできるのでは…と、考えると頭が痛い。…けど物語を書くの楽しいからやめません。

 最後に七月になりましたが、暑さと雨の交互にくる季節に耐えられない私です。皆さんも体温調節を怠らずに、毎日健康と向き合っていきましょう。後新アニメ楽しみです。特にドクターストーンと鬼滅の刃・フルーツバスケット2クールまだフルバセカンドシーズンじゃないのか

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