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ガラス珠の少女  作者: Sin権現坂昇神
第二章 因堕応報-いんだおうほう-(仮題)
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参の噂 ~忘れられない・・・~

風鈴寺景織花の話。過去と現在、一人の少女の葛藤を垣間見ると・・・

「一二・・三四・・・・」


 ここは校舎と同等の広さを(ほこ)る小中共同体育館の裏。(いま)だ人の手入れが行き届いていない鬱蒼(うっそう)とした草木地帯に、彼女はいた。名を【風鈴寺(ふうりんじ)景織花(きょうか)】。褐色(かっしょく)(はだ)に白いマスクを付けた景織花は、頭の中の混濁(こんだく)を消し去るように数を数えながら、筋力(きんりょく)トレーニングをしていた。景織花はどこまでも強さを追い求める性格であり、筋力トレーニングを欠いたことがない。(だれ)にも邪魔(じゃま)されずに(きた)えたい景織花が気に入った場所、それがこの草木に囲まれた場所なのだ。

現在景織花は逆立(さかだ)(うで)()()せ、片手親指バージョンをしていた。景織花は母に(なら)って金の混じった長い黒髪(くろかみ)、第一・第二ボタンを開けっぴろげ、スカートの(たけ)膝下(ひざした)まで()ばしている。まさに母のようなカッコいい『不良(ふりょう)』になりきるための努力である。そんな景織花が、何故(なぜ)陰険(いんけん)女子(じょし)三人組(さんにんぐみ)に属したか・・・




 ―景織花は小学三年生の(ころ)、初めて『いじめ』を受けた。上履(うわば)きに画鋲(がびょう)を入れられたり、(つくえ)をカッターで凸凹(でこぼこ)にされたりマジックで落書きされたり、ノートを破られたり、階段を降りる時後ろから押され落ちそうになったり、陰口(かげぐち)も散々言われた。担任の先生に言おうとすると、いじめの主犯から親に言いつけられると(おど)され、景織花は両親に心配(しんぱい)()けないように心の傷を深淵(しんえん)()()め、体の傷を必死で(かく)し続けた。

そんな日々が一か月も続いた時、ある吉報が()い降りた。自分のクラスに転校生がやって来たのだ。景織花は転校生を一目見た瞬間(しゅんかん)悪魔(あくま)(ささや)きが頭を(よぎ)った。


〝自分の身代わりにあいつを差し出せ〟


景織花はその(あま)い囁きに耳を(かたむ)けるか考える間、(すで)にあの集団が行動に移していた。景織花がどんなに抵抗(ていこう)しても、どんなに口で止めろと言っても聞く耳も持たなかったいじめ集団は、転校生が現れると、まるで軍隊(ぐんたい)(はち)が新たな(えさ)に乗り()えるように、その転校生に(ねら)いを変えて新たないじめを始めたのだ。その転校生の名は【髀皚雅(ももしろみやび)】。ボサボサ髪、いつも割れている眼鏡(めがね)、ずっと下を向いてモゴモゴと小声で何を言っているのか聞こえない上に、人付き合いが下手。まさにいじめられて当然のターゲットであった。そうして景織花も、いつしかいじめの軍団に加担していた。そうしなければ自分がまた(いじ)められると、本能的に分かっていたからだ。これは学校で生きていくためには、仕方のない事なのだ。そう言い聞かせなければ、自分を正しく保てなかった。


 だが、そんな景織花をもう一人の、心の中の別の景織花が()(こう)から否定した。そしてその否定を表に出すため、(みずか)ら筋肉トレーニングを始めたのだった。自分が弱いから、強いものに()(へつら)い、自分とは(ちが)う弱い存在を(みんな)で一方的に攻撃(こうげき)する。数が多ければ多いほど、それが確固(かっこ)たる『正義(せいぎ)』になってしまう。こんな(みじ)めなことがあるのだろうか?群れなければ()げるか、卒業するまで苦痛に()え続けるしかないのか?

景織花はある日、ふと母の学生の頃の写真を目にした。その写真に写る母の姿は(わか)く、とてもいい笑顔(えがお)で仲間達に囲まれていた。見た目は不良そのもので、第一印象は明らかに悪かった。だが景織花は段々と、その笑顔に見惚(みほ)れるようになっていった。そして気づくと景織花は、母の目指すあの写真のような笑顔を、いつか自分も仲間を作って、笑って写りたいと思い始めていった。



 だがいじめに加担した景織花(きょうか)記憶(きおく)が消えたわけではない。(みやび)が学校に来て一か月後、再び学校を転校したことを聞いた時、景織花はもう後戻(あともど)りできない場所にいた。小学高学年になった景織花は、いじめの主犯に付き(したが)右腕(みぎうで)として、学校中の生徒に(おそ)れられるようになっていた。景織花はいじめをする時の快感を味わう(たび)、いじめられていた自分を(わす)れることができた。


―それから中学生になった今でも快感を味わうため、自分と同じ想いを持ついじめの加担者と手を組んだ。その(うえ)(さら)偶然(ぐうぜん)なことに、自分の肩代(かたが)わりをしていた髀皚(ももしろ)(みやび)に再会したのだ。景織花は雅を再見した途端(とたん)、雅を(いじ)めていた快感を思い出し、再びその快感を味わうため、雅を再びターゲットに選んだのだった。


「もう・・しない・・・・しないって決めたのに・・・・」

 

景織花は弱い自分を否定するように、無心で逆立ち腕立てをやり続けていた。ふと(こぼ)れる(なみだ)が手の(こう)に落ちる度、いじめの快感を(わす)れられなかった自分を激しく(うら)んだ。だが一度味わったあの快感を、今更(いまさら)(わす)れることなんてできない。あの相手を甚振(いたぶ)高揚感(こうようかん)をもう一度・・・私は―


そんな変えられなかった過去に(さいな)まれる景織花の後ろを、一人の()りスカートの少女が近づくのであった。

短くも、辛い彼女の過去。いじめという麻薬を止められなくなった景織花の行き着く果てとは―

学校という監獄に出口はない。思いやりがあれば、優しさがあればあるほど、自らに傷つけ、放置し、耐え続け、・・・死を選ぶ。雅と景織花、二人の少女の物語の始まり・・始まり・・・

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