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ガラス珠の少女  作者: Sin権現坂昇神
第二章 因堕応報-いんだおうほう-(仮題)
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壱の噂 ~事の始まり~

【鸑門】と一緒に昼食を食べる、【泊里】と【晶】の目の前にぼさぼさ髪の少女が転がってきた。そして鸑門と雅は出会った。雅の上履きの裏に鸑門の顔が減り込む形で・・・

 男女(だんじょ)階段(かいだん)追突(ついとつ)事件(じけん)から三分前のこと。生徒達が教室から散って、昼食を食べ始める(ころ)眼鏡(めがね)女子(じょし)(もも)(しろ)(みやび)】はトイレを目指し、校舎三階二年生の廊下(ろうか)を歩いていた。


(はあ・・・結局二年四組の教室には行けなかったな・・)


 昨日(きのう)女子(じょし)陰険(いんけん)三人組(さんにんぐみ)に命令され、雅は同階の一番奥(いちばんおく)にある二年四組の教室に行かなければいけなかった。だが結局(けっきょく)(かぎ)を手に入れることが出来ず、とりあえず二年四組の教室を目指していると、丁度二年四組の教室から一人の生徒が出て行くのを目撃(もくげき)した。雅も入れるかと思ったが、残念ながら教室の中に入ることは(かな)わなかった。

そして翌日(よくじつ)。雅は同じクラスではないことを見越(みこ)して、女子陰険三人組から見つからないように、ビクビクしながら()ごしていた。


(そういえばあの時―)


 雅は三人組の(おそ)ろしい顔を(わす)れるように、昨日の二年四組の教室のことを思い出した。そしてふと、上着ポケットから一つのボタンを取り出した。


(これは教室から出てきた人が落としたもの。・・服からして男子生徒・・かな。背も(ひく)

し、学年の人かも・・・)


 雅は男子生徒のことを推理(すいり)し始めた。するとどうだろう。先ほどまで恐怖(きょうふ)で体を(ふる)わしていた女子生徒は、今では空想の中でワクワクドキドキする女の子になっていた。


(もしボタンの人に会ったら、何を話そうかな・・ちゃんと話せるかな?私なんかが・・)

 

 自分が不幸体質だということを自覚している雅は、出来るだけ人と関わらないように生きてきた。そんな孤独(こどく)の自分を救ってくれたのが校長先生であり、雅にとっては命の恩人なのである。

そして楽しい雅の推理タイムも()()まりを見せる中、ついにあの三人組が足音を消してやってきた。


随分(ずいぶん)元気(げんき)ね?眼鏡さん」


 最初に声をかけてきたのは、三人組の()(なか)に位置する、()が低い代わりに横に広い女子【(これ)(きよ)()御代(みよ)】。今回はガムを()んではいないが、いつでも噛めるように、両ポケットに新作ガムを常備(じょうび)している。


「あ・・」


 雅は穂御代の声を()いた瞬間(しゅんかん)生気(せいき)を失ったような顔になって顔を上げた。一番会いたくなかった。だが同じ学校で同じ学年、会わないわけがなかった。雅は学校を休むことも考えていたが、校長に心配をかけてはいけないという強い信念があった。二人組は穂御代の(あご)を上げると同時に、一斉(いっせい)に雅を取り囲んだ。


「約束、忘れてないだろうな」


 褐色(かっしょく)(はだ)・マスクを(かぶ)った【風鈴寺(ふうりんじ)景織花(きょうか)】は、静かに言った。母親譲(ははおやゆず)りのジーパンをスカートの下に()いて、両手をジーパンのポケットに入れて歩くのが、今の景織花の流行である。後は眉間(みけん)(しわ)()せ、(にら)むように周りを見渡(みわた)せば、立派(りっぱ)な不良高校生の完成である。そして今は雅を睨みつけ、めいっぱいガンを飛ばす。雅は三人の(おに)の首を取ったような顔を見て恐怖に震えながらも、(のど)から(しぼ)り出すように声を出した。


「・・・ないです」

「ああ?(景織花)」

「行ってない・・です」


 雅のその言葉に、三人は目を見合わせて、(いや)しくニヤリと笑った。そして同時に、三人の罵声(ばせい)()()った。


「あんたこの私の約束を破ったね!」


 最後の一人。金髪(きんぱつ)雀斑(そばかす)で一番背の高い【(はい)()(みこ)()】は、(だれ)よりも厚い口紅(くちべに)を付け、両頬(りょうほお)(あか)い粉をたっぷり付けて、雅を強く(ののし)った。彼女の化粧(けしょう)は他のどの生徒よりも分厚(ぶあつ)いのだ。巫奈(みこな)に続いて、景織花(きょうか)()御代(みよ)の順で始まった。


「鍵すら開けられないなんて、(のう)みそ(つぶ)れてんじゃないの?」

「いっぺんシめていい?」

 

【シめる】とは気が()むまで暴行(ぼうこう)することで、景織花が使う不良用語である。そして十分に(いか)りが体に()まったところで、景織花がついに雅の襟首(えりくび)(つか)んだ。そして思い切り雅を自分の方に押し出した。次に穂御代が雅のお(しり)めがけて()りを入れ、最後に巫奈に背中から(ひじ)()ちを食らった。まさに三対一の一方的なリンチが、生徒達の行き来する廊下で行われていた。

だが止める者はいない。誰一人としてあの陰惨(いんさん)な空間に入りたくないのだ。(いじ)められている人には可哀想(かわいそう)だが、助ければ返って自分も一緒(いっしょ)に虐められる。その気持ちが他の生徒達の心を一つにして、雅と陰険三人組の空間を上手い具合に()け、その四人の空間だけが廊下から遮断(しゃだん)する形になっていた。こうなってしまっては、正義感(せいぎかん)の強い人でも助けることは(むずか)しい。

雅は必死に抵抗(ていこう)しているものの、三人の方がガタイもよく、好戦的で戦闘力(せんとうりょく)も上なために、抵抗する(うで)ごと攻撃(こうげき)される。非力な雅がすることと言えば、眼鏡を死守することだけだ。スカートが(わざ)(めく)られ、メロンパンのマークの黄緑パンツを生徒達に見られようと、眼鏡だけは飛ばされないように守っていた。


馬鹿(ばか)じゃねえの?尻守れっての(笑)」


 (うす)ら笑いを浮かべる()御代(みよ)の言葉に、ハッと察した(みやび)はそのまま(かが)むことで、これ以上のパンツの公開を防いだ。だが陰険三人組からすれば、すぐさま作戦Bに移行するだけだ。三人とも片足を上げたかと思えば、雅目がけて上から(いきお)いよく()みつけた。何度も何度も背中が無数の上履(うわば)きの(あと)が残るほど踏まれ、雅の心は折れそうになった。涙腺(るいせん)が外界に出ようとしたその時、ふと恩人の言葉を思い出した。


〝泣きたい時は()げろ。逃げは負けじゃない。立派な自己(じこ)防衛(ぼうえい)だ〟


 恩人の顔はもう覚えてはいない。だが自分がとても小さい時に聞いた言葉であることは間違(まちが)いない。雅はその言葉を信じて、(なみだ)を必死に(こら)えた。そして三人の(すき)を見て、咄嗟(とっさ)に陰険トライアングルゾーンから脱出すると、無我夢中(むがむちゅう)で走り出した。穂御代は逃げる雅に向かって(さけ)んだ。


「待てよ、バイ(きん)!」

「走ることなら私に任せな!」

 

景織花はニヤリと笑うと、小学校との徒競走で何度も一位になったことを思い出した。


「【二代目チーター風鈴寺】を()いだ私の足の速さを()めるんじゃないよ!」

 母子ともに足の速さに自信があり、逃げる年の数=(いこーる)元マラソン選手の父を何度も(つか)まえるくらいに足が速い。母を一番に尊敬し、父を人一倍愛する景織花はクラウチングスタートで()()した。


「待て待て待てー!」

(!追ってくる・・・!)


 雅は後ろから聞こえる怒号(どごう)と、(せま)りくる鬼婆(おにばば)(かお)の女子の覇気(はき)に背中を押される形で、速度がいつもの一・五倍も出た。確かにこの速度なら景織花から逃げきることができる。だが・・・


(行き止まり・・・!)


 距離(きょり)は有限。雅は、(またた)()に行き止まりの音楽室まで()()かった。雅は一か(ばち)か、目の前の音楽室を間一髪(かんいっぱつ)回避(かいひ)した。だが反動が大きすぎた。

「う!」

雅の右足の付け根に大きな負担がかかり、強い痛みに(おそ)われた。そしてさらに最悪なことに急カーブしたことで、左折してすぐの階段に気づけなかった。


(落ちる!)


今度は左足が(ゆか)から階段への境界線を(ゆう)()え、下り階段の方に体が(かたむ)く。そして階段を一回転したかと思えば、目の前に・・・いや、雅の上履(うわば)きに、【攣ヶ山鸑門(つがやまがくと)】の顔が現れた。鸑門(がくと)は下り階段の中間付近で昼食をとっていたので、まず一回転後に鸑門に激突(げきとつ)。激突する(さい)、鸑門の鼻が折れた。その後二人が合体した形で、二人仲良く四回転し、二階の地面と二人の片腕(かたうで)が強い衝撃(しょうげき)を受け、二人とも気絶という形で終息した。着地した際に鸑門の右腕、雅の左腕が骨折した。


「ちょっと・・大丈夫?」

「・・・気絶してる・・・早く治さなきゃ!」


 鸑門と一緒に昼食を取っていた、ガングロ女子の【大黒(おおぐろ)泊里(とまり)】とガラス(だま)の少女【囗清水(いしみず)(あきら)】は、急いで鸑門の所まで駆け下りた。鸑門と雅、どちらもまだ息はしているが、特に傷が(ひど)いのが鸑門の横にいる女子の方であった。


―あっちか!待てー!!!


 晶は急いで自分の力を使って雅の傷を治そうとしたが、三階の方から罵声(ばせい)()きながら近づいてくる女子の声を()くと、泊里が晶を止めた。


「もしかしたらと思うけど、今の声から逃げてきたんじゃない?この子」

 泊里の(するど)い推理に、晶はさらに追及(ついきゅう)した。

「・・つまり?」

「見つかったらもっと酷いことされるってこと!」

「・・?」

「とにかく急いで保健室に向かうよ!」

「・・・・うん、(わか)った。でもパパは私が(かつ)ぐ」

「じゃあ私は眼鏡で!・・さあ行くよ!」

「るぴっ」


 晶は綺麗(きれい)な敬礼をした後、パパこと鸑門を背負った。泊里も眼鏡っ子を背負うと、すぐさま一階の保健室まで駆けだした。

ついにガラス珠の少女の第二章の開幕です。文が長くなってすみません。でも削るところがないので、そのまま投稿した次第です。そして第一章の初めから登場していた雅と鸑門は漸く出会い、どうなっていくのか。次回に続きます。


補足:髀皚雅(ももしろみやび)。髪はぼさぼさ、割れた眼鏡を掛けている中学二年生の女子。

   陰険女子三人組 

    是清穂御代(これきよほみよ)。日常的にガムを噛む、寸胴の中学二年生の女子。

    風鈴寺景織花(ふうりんじきょうか)。褐色肌、マスクを被った中学二年生の女子。

    廃田巫奈(はいだみこな)。金髪、顔は雀斑、背が高い中学二年生の女子。陰険三人組の一人。

   

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