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ガラス珠の少女  作者: Sin権現坂昇神
第一章 『ガラス珠の少女』
10/29

10の噂 ~後日談~

題名の通り。傷を治す力を手に入れた晶に、ツガヤマ少年と泊里は・・・?秋羽先生との約束は果たされるのか・・・

「いてて・・・」

 【攣ヶ山鸑門(つがやまがくと)】は【大黒(おおぐろ)泊里(とまり)】に()られた傷の(いた)みが復活したのか、頭と腹部を(おさ)えて(うめ)き始めた。泊里は自分の頭を(さわ)って、血やヒリヒリとした痛みが止まったことを確認すると、すぐさま鸑門少年の(そば)()()った。

「あ!ごめん。強く蹴り()ぎちゃった?」

「うん・・でも勝手に女子トイレに入ってきたのが悪いから」

「ほんっとにごめん?・・えっと・・・晶!」

《うん!》

 泊里に呼ばれる前に【囗清水(いしみず)(あきら)】は、迅速(じんそく)に鸑門の手を両手で強く握った。すると泊里の時と同じように、晶の(かみ)が赤くなり、(ひとみ)が赤いルビーのように変わった。(さら)には鸑門の傷が多いことで、鸑門の体を温かい赤の炎が包み込んだ。

「熱くない・・」

《ん~!》

「そうでしょ?晶って(すご)いのよ?」

 晶が頑張(がんば)って鸑門の傷を治す中、泊里は晶を自分のことのように()(たた)えた。

「・・・知ってるよ」

鸑門少年も顔を少しムッとさせて、小さな声で反論した。

「でも綺麗(きれい)だね・・・晶の髪」

「・・・うん」

鸑門少年はこの時、少しだけ不思議(ふしぎ)な感覚に包まれた。今日の朝、初めて全裸(ぜんら)の異性と出会ったかと思えば、今では異性の女子とここまで多くのことを語り合っている。鸑門は今自分がいる場所が女子トイレだということを忘れ、時間の許す限り泊里と語り合いたいと思った。だが、時間はもう・・・

―キーンコーンカーンコーン・・

「!」

 鸑門少年は授業終了の(かね)の音で、一瞬(いっしゅん)で頭が真っ白に()き飛んだ。そうだ。(あき)()先生(せんせい)と約束したんだった。鐘が鳴る前に泊里と一緒(いっしょ)に教室に戻ることを・・・

「走れ!」

「え?」

《ふう・・終わったぁ》

「ありがとう晶!・・大黒さん!行こう!」

「ええ?何何何???」

 晶の治療(ちりょう)が終わったことを皮切りに、三人は急いで教室に(もど)ることになった。泊里はどうして鸑門がそんなに(あわ)てているかも分からないまま、鸑門の手に引かれて教室に向かった。泊里は教室に戻ると、その理由を(いや)でも分かることになる。



だが遅かった。教室に向かっている間に、授業終了のチャイムが鳴り終わってしまったのだった。そして教室に着くや(いな)や、二人は担任の【秋羽(あきば)爽二(そうじ)】に、でこっぴどく(しか)られた。鸑門(がくと)少年(しょうねん)は生まれて初めての先生の説教を受け、わんわんと号泣した。その結果、クラスの皆はそんな鸑門を見て『泣き虫ハゲ』と呼び始め、『ハゲえもん』に続いて二つ目のあだ名が増えたのだった。晶は号泣する鸑門を見て、鸑門と同じ顔で一緒(いっしょ)に泣いた。秋羽先生の説教が終わった後、晶が鸑門少年に言った言葉は、《泣かないでパパ、ぐすん》だった。泊里はというと泣きじゃくる二人を見ながら、十分に続く秋羽先生の説教に対して、一々(いちいち)文句(もんく)を言いまくっていた。説教を終えた泊里は、(ほお)(ふく)らませて「あいつ話になんない!こっちだって色々事情があってブツブツ・・」と、秋羽に対して終始(しゅうし)(おこ)っていた。そして秋羽の説教から解放された三人は一旦(いったん)解散(かいさん)し、昼休みでの再会を約束したのだった。


 

そして昼休み。早速三人は、鸑門少年が前日のあの階段に集まった。そしていざ給食を取ろうと、鸑門が昨日食べたコッペパンを(わす)れられず、今日も同じコッペパンを食べようとした。その時、泊里と晶は鸑門を凝視(ぎょうし)して、トイレで(おこな)っていたメイクの感想を()いてきたのだった。

「で?私達のメイクはどうだった?」

《どうだった?》

「え?・・・・いや・・あの~」

が、泊里の回し()り三連発を受けたことで、直前の記憶(きおく)が飛んだ鸑門には答えようがなかった。鸑門少年は記憶が飛んだことを二人に説明すると・・・

「なあんだ。つまんないの」

《残念・・・》

 泊里は両手を頭の後ろに回してそっぽを向き、晶は(かた)を落として意気消沈(いきしょうちん)した。鸑門少年は。二人の動きは対照的で面白いなあと思った。

「んじゃ、食べますか」

「うん」

《・・・》

そして今。晶を真ん中に、左手に鸑門、右手に泊里の手を(にぎ)っている(鸑門の手を握らなくても話すことはできるが、晶がしたくてしている)。手を握りながら、泊里と鸑門は器用にコッペパンを頬張(ほおば)った。泊里も鸑門の昼食がコッペパンであると聞きだした後、自分もコッペパンを食べたくなった口である。泊里は晶にこう言った。

「で?晶はあの後(昼休みまでの三時間)、何してたの?」

 晶は足を()ずかしげもなくばたばたさせながら答えた。

《ボーっと空を見ていた》

()きないの?」

《うん。(うつ)ろう空を見ていると、自分が雲になって空を飛んでいるようになって・・・気持ち良かった》

「ふーん・・ぱくぱく」

「もぐもぐ・・」

 鸑門少年は二人の会話を聞きながら、ただ無言でコッペパンをパクパク食べていた。今日も一個のコッペパンを、ゆっくりじっくり食べていた。鸑門は「晶も食べる?」とパンを半分あげようとしたら、晶は《大丈夫だから、ちゃんと食べて?》と丁重(ていちょう)に断られた。泊里も鸑門と同じコッペパンを食べているが、その数五個。鸑門は泊里の(ひざ)の上に積まれた四つのコッペパンを見て(おどろ)いた。

「・・・何?」

 泊里は自分の分のコッペパンを見つめる鸑門を見て、(いや)な予感がしたので(にら)みつけると、鸑門は躊躇(ためら)うことなく質問した。

「よく食べるね」

 コッペパンを食べる鸑門少年を、チラリと見ながら食べる泊里。晶はそんな中、泊里の膝の上にあるコッペパンを一つ取ると、ジーっとコッペパンを間近(まぢか)(なが)めていた。泊里は鸑門を見て、嫌味(いやみ)ったらしく質問に答えた。

「私はこれが普通(ふつう)なの。あんたも、もっと食べないと大きくなんないよ?」

「ムッ!・・大きなお世話だ」

 身長145センチの鸑門少年は160センチの泊里に対して、(ようや)く自分が三人の中で一番小さいことに気づいた((ちな)みに晶の身長は190センチ)。だが言い負かされるわけにもいかず、鸑門は文句を言いながらコッペパンを()(つづ)けた。晶は泊里のコッペパンをじっくりと見た後、じゅるり・・と(のど)を鳴らして言った。

《食べていい?》

「ん?・・一個くらいならいいよ」

 泊里の即答(そくとう)に、晶はコッペパンの半分を一口で頬張った。

《パクッ・・・モグモグ・・・はははふへほいひい((あたた)かくて美味(おい)しい)》

 晶は天にも(のぼ)るような顔でコッペパンを味わった。泊里も残りの一個を食べながら答えた。

「だよね。美味(びみ)よ美味!・・パクパク」

「僕は一個で十分。・・・ってどうして泊里さんと仲良いの?」

 楽しく食べる三人。鸑門少年は知らぬ間に仲良くなっている晶と泊里を見て、少しだけ泊里に嫉妬(しっと)した。すると泊里は晶を()()せ、(ほお)密着(みっちゃく)させて笑顔でこう言った。

「知らなかった?私と晶は親友になったのよ♪」

「え・・本当?」

《・・・知らない・・もぐもぐ》

 冷たい晶に、泊里の怒涛(どとう)の攻めを入れる。

「え~、じゃあ今から親友ね?」

《・・親友って何?》

「親友っていうのは固い(きずな)で結ばれた私と晶のことよ」

《・・・絆って何?》

「あれ?・・・何にも知らないの?」

《うん・・・生まれたばっかりだから》

「ふーん。じゃあ私に任せな!物知り泊里(とまり)(ねえ)さんが何でも教えてあげよう!」

《・・・うん。教えて?》

 晶もどこか乗り気のようである。泊里もそんな晶に対し、(あね)()(はだ)を見せるため色んな知識を晶に覚えさせようと奮闘(ふんとう)するのだった。

「おーい・・・・・二人とも・・・・って聞いてない・・」

 鸑門少年は女子同士の会話に全く入る余地(よち)もなかった。ご飯も食べ終わったことで、ここにいる理由もなくなった鸑門は、仕方なく他の居場所(いばしょ)を求めて階段を下りることにした。

 すると階段の上の方から女子の声が聞こえた。

―あ!ちょっと待って!

「え?」

 鸑門少年は突然声を()けられ、びっくりして後ろを()り向いた時。声の本人は「あ!」と足を(すべ)らせ、前回りで回転させながら、寸分(すんぶん)(くる)いもなく鸑門の方に()()んできた。そして鸑門が()ける間もなく・・・

―きゃあああ!

「うっ!あたたたたた!」

晶と泊里の丁度間(ちょうどあいだ)をすり抜け、鸑門と少女はぶつかった。少女の上履(うわば)きの底が丁度鸑門少年の顔面に()り込む形で、二人はそのまま階段の一番下まで転げ落ちていった。


~第一章 ガラス珠の少女 完~

というわけで第一章は無事終了です。第二章ももうあるので、ぼちぼち出します。晶と鸑門と泊里。三人の中学生は向かう先はいったい・・・とりあえず作者はコッペパンを応援します。

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