10の噂 ~後日談~
題名の通り。傷を治す力を手に入れた晶に、ツガヤマ少年と泊里は・・・?秋羽先生との約束は果たされるのか・・・
「いてて・・・」
【攣ヶ山鸑門】は【大黒泊里】に蹴られた傷の痛みが復活したのか、頭と腹部を抑えて呻き始めた。泊里は自分の頭を触って、血やヒリヒリとした痛みが止まったことを確認すると、すぐさま鸑門少年の傍に駆け寄った。
「あ!ごめん。強く蹴り過ぎちゃった?」
「うん・・でも勝手に女子トイレに入ってきたのが悪いから」
「ほんっとにごめん?・・えっと・・・晶!」
《うん!》
泊里に呼ばれる前に【囗清水晶】は、迅速に鸑門の手を両手で強く握った。すると泊里の時と同じように、晶の髪が赤くなり、瞳が赤いルビーのように変わった。更には鸑門の傷が多いことで、鸑門の体を温かい赤の炎が包み込んだ。
「熱くない・・」
《ん~!》
「そうでしょ?晶って凄いのよ?」
晶が頑張って鸑門の傷を治す中、泊里は晶を自分のことのように褒め讃えた。
「・・・知ってるよ」
鸑門少年も顔を少しムッとさせて、小さな声で反論した。
「でも綺麗だね・・・晶の髪」
「・・・うん」
鸑門少年はこの時、少しだけ不思議な感覚に包まれた。今日の朝、初めて全裸の異性と出会ったかと思えば、今では異性の女子とここまで多くのことを語り合っている。鸑門は今自分がいる場所が女子トイレだということを忘れ、時間の許す限り泊里と語り合いたいと思った。だが、時間はもう・・・
―キーンコーンカーンコーン・・
「!」
鸑門少年は授業終了の鐘の音で、一瞬で頭が真っ白に吹き飛んだ。そうだ。秋羽先生と約束したんだった。鐘が鳴る前に泊里と一緒に教室に戻ることを・・・
「走れ!」
「え?」
《ふう・・終わったぁ》
「ありがとう晶!・・大黒さん!行こう!」
「ええ?何何何???」
晶の治療が終わったことを皮切りに、三人は急いで教室に戻ることになった。泊里はどうして鸑門がそんなに慌てているかも分からないまま、鸑門の手に引かれて教室に向かった。泊里は教室に戻ると、その理由を嫌でも分かることになる。
だが遅かった。教室に向かっている間に、授業終了のチャイムが鳴り終わってしまったのだった。そして教室に着くや否や、二人は担任の【秋羽爽二】に、でこっぴどく叱られた。鸑門少年は生まれて初めての先生の説教を受け、わんわんと号泣した。その結果、クラスの皆はそんな鸑門を見て『泣き虫ハゲ』と呼び始め、『ハゲえもん』に続いて二つ目のあだ名が増えたのだった。晶は号泣する鸑門を見て、鸑門と同じ顔で一緒に泣いた。秋羽先生の説教が終わった後、晶が鸑門少年に言った言葉は、《泣かないでパパ、ぐすん》だった。泊里はというと泣きじゃくる二人を見ながら、十分に続く秋羽先生の説教に対して、一々(いちいち)文句を言いまくっていた。説教を終えた泊里は、頬を膨らませて「あいつ話になんない!こっちだって色々事情があってブツブツ・・」と、秋羽に対して終始怒っていた。そして秋羽の説教から解放された三人は一旦解散し、昼休みでの再会を約束したのだった。
そして昼休み。早速三人は、鸑門少年が前日のあの階段に集まった。そしていざ給食を取ろうと、鸑門が昨日食べたコッペパンを忘れられず、今日も同じコッペパンを食べようとした。その時、泊里と晶は鸑門を凝視して、トイレで行っていたメイクの感想を訊いてきたのだった。
「で?私達のメイクはどうだった?」
《どうだった?》
「え?・・・・いや・・あの~」
が、泊里の回し蹴り三連発を受けたことで、直前の記憶が飛んだ鸑門には答えようがなかった。鸑門少年は記憶が飛んだことを二人に説明すると・・・
「なあんだ。つまんないの」
《残念・・・》
泊里は両手を頭の後ろに回してそっぽを向き、晶は肩を落として意気消沈した。鸑門少年は。二人の動きは対照的で面白いなあと思った。
「んじゃ、食べますか」
「うん」
《・・・》
そして今。晶を真ん中に、左手に鸑門、右手に泊里の手を握っている(鸑門の手を握らなくても話すことはできるが、晶がしたくてしている)。手を握りながら、泊里と鸑門は器用にコッペパンを頬張った。泊里も鸑門の昼食がコッペパンであると聞きだした後、自分もコッペパンを食べたくなった口である。泊里は晶にこう言った。
「で?晶はあの後(昼休みまでの三時間)、何してたの?」
晶は足を恥ずかしげもなくばたばたさせながら答えた。
《ボーっと空を見ていた》
「飽きないの?」
《うん。移ろう空を見ていると、自分が雲になって空を飛んでいるようになって・・・気持ち良かった》
「ふーん・・ぱくぱく」
「もぐもぐ・・」
鸑門少年は二人の会話を聞きながら、ただ無言でコッペパンをパクパク食べていた。今日も一個のコッペパンを、ゆっくりじっくり食べていた。鸑門は「晶も食べる?」とパンを半分あげようとしたら、晶は《大丈夫だから、ちゃんと食べて?》と丁重に断られた。泊里も鸑門と同じコッペパンを食べているが、その数五個。鸑門は泊里の膝の上に積まれた四つのコッペパンを見て驚いた。
「・・・何?」
泊里は自分の分のコッペパンを見つめる鸑門を見て、嫌な予感がしたので睨みつけると、鸑門は躊躇うことなく質問した。
「よく食べるね」
コッペパンを食べる鸑門少年を、チラリと見ながら食べる泊里。晶はそんな中、泊里の膝の上にあるコッペパンを一つ取ると、ジーっとコッペパンを間近で眺めていた。泊里は鸑門を見て、嫌味ったらしく質問に答えた。
「私はこれが普通なの。あんたも、もっと食べないと大きくなんないよ?」
「ムッ!・・大きなお世話だ」
身長145センチの鸑門少年は160センチの泊里に対して、漸く自分が三人の中で一番小さいことに気づいた(因みに晶の身長は190センチ)。だが言い負かされるわけにもいかず、鸑門は文句を言いながらコッペパンを噛み続けた。晶は泊里のコッペパンをじっくりと見た後、じゅるり・・と喉を鳴らして言った。
《食べていい?》
「ん?・・一個くらいならいいよ」
泊里の即答に、晶はコッペパンの半分を一口で頬張った。
《パクッ・・・モグモグ・・・はははふへほいひい(温かくて美味しい)》
晶は天にも昇るような顔でコッペパンを味わった。泊里も残りの一個を食べながら答えた。
「だよね。美味よ美味!・・パクパク」
「僕は一個で十分。・・・ってどうして泊里さんと仲良いの?」
楽しく食べる三人。鸑門少年は知らぬ間に仲良くなっている晶と泊里を見て、少しだけ泊里に嫉妬した。すると泊里は晶を抱き寄せ、頬を密着させて笑顔でこう言った。
「知らなかった?私と晶は親友になったのよ♪」
「え・・本当?」
《・・・知らない・・もぐもぐ》
冷たい晶に、泊里の怒涛の攻めを入れる。
「え~、じゃあ今から親友ね?」
《・・親友って何?》
「親友っていうのは固い絆で結ばれた私と晶のことよ」
《・・・絆って何?》
「あれ?・・・何にも知らないの?」
《うん・・・生まれたばっかりだから》
「ふーん。じゃあ私に任せな!物知り泊里姉さんが何でも教えてあげよう!」
《・・・うん。教えて?》
晶もどこか乗り気のようである。泊里もそんな晶に対し、姉貴肌を見せるため色んな知識を晶に覚えさせようと奮闘するのだった。
「おーい・・・・・二人とも・・・・って聞いてない・・」
鸑門少年は女子同士の会話に全く入る余地もなかった。ご飯も食べ終わったことで、ここにいる理由もなくなった鸑門は、仕方なく他の居場所を求めて階段を下りることにした。
すると階段の上の方から女子の声が聞こえた。
―あ!ちょっと待って!
「え?」
鸑門少年は突然声を掛けられ、びっくりして後ろを振り向いた時。声の本人は「あ!」と足を滑らせ、前回りで回転させながら、寸分の狂いもなく鸑門の方に突っ込んできた。そして鸑門が避ける間もなく・・・
―きゃあああ!
「うっ!あたたたたた!」
晶と泊里の丁度間をすり抜け、鸑門と少女はぶつかった。少女の上履きの底が丁度鸑門少年の顔面に減り込む形で、二人はそのまま階段の一番下まで転げ落ちていった。
~第一章 ガラス珠の少女 完~
というわけで第一章は無事終了です。第二章ももうあるので、ぼちぼち出します。晶と鸑門と泊里。三人の中学生は向かう先はいったい・・・とりあえず作者はコッペパンを応援します。




