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エイリアン・ファーストアタック  作者: ゆずさくら
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 関わっていたソシャゲーのローンチが終わり、俺は気分が良かった。

 俺のいる会社は、不動産屋のシステム部門から派生したゲーム開発部門で、外にサーバーが借りれず、自社の余ったサーバールームを使って、ハードからソフトまで面倒を見なければならなかった。だから広範囲な仕事にかかわるから、覚えることも、やることも多いが、やりがいはあった。

 会社側はそのやりがいを搾取している感じはあったものの、メンバーもゲームの隅から隅まで把握することを望んでいたので、お互い様だった。

 帰りの電車で、俺は座れずに扉際で立っていた。停車した駅で、大学生なのか若い男子がスマフォを見つめながら乗ってきた。ふと視線がその子のスマフォ画面にいく。『おっ、このキャラは』と思い、俺はこころのなかでガッツポーズをした。『俺の作ったゲームだぜ』

 ローンチしたばかりで、接続数やプレイ時間とかは把握していたものの、実態としてやっている人を見たのが初めてだった。『狙い通り、時間のある大学生にプレイしてもらっているじゃないか。』

 若い男子学生は、昔はやったゲームの黄色い電気ネズミのスマフォカバーをしていた。

 イヤフォンをしているが、結構、音が漏れている。

「ミシュミシュミシュ……」

 地下鉄が動く音の中でもその漏れ出てくる音から、俺は画面を想像出来た。

 この音は蜘蛛系、節足動物の類が、襲ってくるときの音だった。蜘蛛は実際、音もなく近づいてくるだろうが、それではゲームが盛り上がらない。ホラー映画や、他のゲーム、特撮系を見まくって、蜘蛛が出てきそうな音を探ったのだ。

「ミシュミシュミシュ……」

 頑張って探しだし、作り上げた音ではあったが、俺はこの音が得意ではない。

 というか、本当に蜘蛛そのものが苦手だった。

 産毛の感じとか、ドクドクしい色合いとか、凶悪そうな顎や何を見ているか不明な目もゾッとする。

 そう思っているうちに次の駅に止まった。

 いくつか座席が空いたので、俺はそこにすべり込んだ。

 大学生は扉に寄り掛かったままゲームに夢中で、距離が離れてしまって音は聞こえなくなった。

 駅から大勢の乗客が入ってきて、俺の前のつり革につかまった。

 女性だった。ビックリするほど短いスカートで、白くてきめの整った肌の、ふとももががっつり見えた。

 俺はためらわずにそのまま視線を上げていった。

 ボリューミーなヒップライン。くびれた腰、電車の振動に合わせて揺れる大きな胸。

 美しい肌の首元、そして、輝くようなリップ、通った鼻筋、魅力的で大きな瞳。キュートな前髪が全体の印象とは逆に顔を幼く見せている。

 完璧だった。

 完全に俺好みのセクシークイーン。

 一瞬、視線を合わせてしまったまさにその時、LINKが鳴った。

 目線をはずすように、スマフォを取り出してメッセージを見た。

 最高の癒やしの瞬間から、最悪の呼び出しへと落ちていく。

 バグ。ローンチしたばかりのゲームに、致命的なバグが見つかったのだ。いや、それは正確ではない。バグは見つかって「バグ」とよばれる。だが、現状は見つかってすらない。バグのような現象が発生する事が分かった段階だ。

だが、それを放置できるかと言うとそうでもない様だった。なぜなら、

『課金部分をすっ飛ばしてジェムが配布されてしまう』

らしかった。ジェムはゲーム上金銭との取引を経ないと与えられないものなのにだ。このバグの出し方を知っている者にとってみれば、ただで金を拾っているに等しい。

 課長もマネージャーも今、会社に向かっていると言う。

 それはイコール、俺も戻らざるを得ない、ということだった。課長にしろ、マネージャーにしろ、会社に戻ったところでコードを直せるわけもない。

『すぐにでも降りて引き返さないと』

 俺はそう思い、駅に着くのを待ちきれずに立ち上がった。

「?」

 俺のイラついたような表情を見たのか、正面に立っていた女性(セクシークイーン)に睨まれた。

 俺は気にせず、外を見ることにした。

 早く戻って手を打たないと……

 駅に着くなり電車を降り、すぐに反対側のホームに向かう。幸いまだ終電には早い時間だ。

 階段を登りきった頃、ホームに電車が滑り込んできた。

 電車に乗り込む瞬間、後ろからぶつかってくる者がいて、コケそうになりながら電車に入った。

「ご、ごめんなさい……」

 声に振り返ると、そこにいたのは、まさかの理想の女性(セクシークイーン)だった。

「お怪我とか、大丈夫ですか?」

 涙がこぼれそうな瞳が俺を見つめていて、正直やばかった。

「大丈夫です、転びそうになっただけで…… なぜあなたもこちらの車両に?」

「いえ、べつに」

 しまった、勝手に他人の個人情報に踏み込んでいた。もっと軽い話題で……

「ギィィィー」

 と大きな音がして電車が急ブレーキをかけた。

 慌てて手すりにつかまる。目の前にいたその女性は、俺にしがみついてきた。

 社内アナウンスが流れる。

「ただいま緊急ブレーキを使用しました。原因については情報が入り次第、放送いたします」

 電車は完全に停止した。

 やわらかくて、いい匂いする女性に言った。

「大丈夫ですか」

 女性は、ぱっ、と俺につかまっていた手をはなす。

「こちらこそ、つかまったりしてすみません」

 俺は女性のどこをみていいか分からなかった。頭の中にはエロいことしか浮かばなくなっていた。

「繰り返します。ただいま緊急ブレーキを使用しました。原因については情報が入り次第、舗装いたします」

「なんでしょうね。早く動くといいですね」

 少し間があってから答えがあった。

「……そうですね」

 女性と視線があって俺は顔が熱くなるのを感じた。

 照れてしまって、車内に視線を向けると、眼鏡をかけた男子学生が俺を睨んでいた。

「?」

 スマフォを見ているような姿勢から、目だけで睨んでくる。うるさい、とでも言いたげだ。

「車両は緊急停止しています。原因については情報が入り次第、放送いたします」

 車両はまだ止まっていた。

 電車内は時間帯的に方向が逆のせいか、乗客は少なく座席も空いていた。

「すわりませんか?」

 横並びで空いている席を指さし、女性にそう言った。

「そうですね」

 車内を歩いて行き、席に座った。

 眼鏡をかけた学生が、やっぱりスマフォを見るようにして、俺を睨んだ。

 睨んでいるだけなら害はない。俺はそれを無視した。

 座った女性の体があたる。

「狭いかな?」

「大丈夫」

 俺は体の当たっている部分にばかりに気がとられていた。




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